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言語化しづらい情緒的な表現

製品の価値は、「エッセンス・ベネフィット・スペック」と3つの構造で成り立っており、それぞれに役割があります。そしてその価値構造によってデザインを行わなければなりません。ではデザインを行うに必要十分な情報をどのようにして用意すれば良いかという点にフォーカスして説明してみましょう。

曖昧さが生む不幸

製品価値構造をデザインで形に置き換えて再現する為には、製品価値構造の中身が必要十分な情報で満たされていなければなりません。この情報が不十分な場合、曖昧な製品価値となります。そして、この曖昧さがデザインを依頼する上でのグレーゾーンとなり、独創性を発揮しようとするデザイナーに想定外の自由度を与えることになります。

その後、デザイナーから予期しない望まぬ提案を受けるとNGですと答えることになります。しかしデザイナーから言わせると、「そんな事言われて無かったよ(怒)」となるわけです。


製品価値の中で「エッセンス」は、ターゲットに対するアイキャッチ的な役割であり設定したキャラクター以上の情報を伝える必要は有りませんが、その次の「ベネフィット」は具体的にどんなありがたいことが存在するのかをリアルに伝えなければ成りません。「スペック」については、「ベネフィット」を支える事実ですから、正しく伝えることが大切です。

「ベネフィット」の説明に戻りますが、ベネフィットは機能的なベネフィット情緒的なベネフィットのセットで構成されます。前者の機能的ベネフィットは、製品がもたらす論理的なベネフィット、言い換えると数値や文字情報で正確に伝えることが出来るベネフィットで、デザイン依頼する際にデザイナーに対し的確な情報提供を行うことが容易です。

感情表現はかなりざっくりしている...

反対に、情緒的なベネフィットは、難易度がぐっと上がります。情緒という文字通り、感情を起こさせる役割を担うものです。そもそも感情は曖昧かつ一時的なものであるため、一般生活ではあまり深掘りされず、ざっくりとした言葉で表現されています。

「楽しい」とか「かわいい」とかのレベルですね。女子高校生が何を見ても「かわいい」と発する様子をイメージして頂ければ判りやすいでしょう。当事者やそれ以外の価値観が異なる者にとって、その「かわいい」という言葉からどんな心持ちであるかを正確に想像することは出来ません。もちろん、当事者に質問しても、自分が発した「かわいい」を第三者に説明することは、乏しい語彙力と相まって期待出来ません。

女子高校生にとどまらずたいていの生活者は感情を正しくかつ詳細に言葉で伝える習慣がなく、感情を正しく理解・共有するためには、日常会話レベルで発する感情表現の背景を分析する必要があります。そこで登場するのが先の「因数分解」というキーワードです。

食リポに学ぶ

他人の感情を正しく理解するためにも因数分解という考え方は役に立ちます。では、この因数分解について、テレビ番組でよく目にする食リポを例に説明してみましょう。そもそも食リポの役割は、タレントなどが実際に食べている料理の美味しさを視聴者に伝え楽しんでもらおうというものです。

「美味しい」としか言えないタレントは食リポが下手だねと番組内でいじられます。反対に食リポが上手なタレントはいろいろな表現で「美味しさ」の説明をしてくれます。つまり「美味しい」は感情表現ですが、あまりにも漠然としており当たり前すぎて理解・共感しにくいということです。食リポの上手なタレントは、満足そうな表情と共に、素材のこと、調理方法のこと、希少性や独自性、食感やのどごしなど様々な説明を交え、見ているだけの視聴者の食欲をあおり楽しませてくれます。

まさに、これが感情を因数分解し言語化し共有しようとするプロセスにあたります。

製品価値の構造において情緒的なベネフィットをデザイナーと共有するために、呼び起こしたい感情を正しく定義しなければなりません。その為に先の食リポのような因数分解を行うことで、感情とその背景に存在する因果関係を明確にし、共有することが可能となります。

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