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「デザインは感情面へのアプローチによって競争力を生む」 その理由


デザイン周りのあれこれを綴っている福本徹@idnet21.comです。前回から少し時間が空いてしまいました...。楽しみにして頂いていた方、ごめんなさい。それでは気を取り直して。


人の感情に働きかけるデザイン

使いにくさを改善したり、ちょっとした工夫を凝らすことなど身の回りの問題を解決する事はデザインの機能的な側面ですね。

でもその役割以上に感情に訴えることが年々重要度を増してきました。デザイン思考をはじめイノベーションを起こそうとする活動が盛んな点も実は今まで通りの論理的で機能的なアプローチだけでは限界がありそうだなと皆が気付き始めたからなんですね。

感情に訴えると言ってもさほど複雑な話では無く「気持ちいい」「うれしい」「美しい」「たのしい」といった人が心地よいと感じる何かを引き出すことを指しています。



少し例をあげてみましょうか。
私達の身の回りに存在するモノ・道具などは機能的な改善を続けることで徐々に完成と思われるカタチにに近づいてゆきます。

たとえば金槌(カナヅチ)。

金槌は釘を打つための道具ですが、人が使うという点で釘を効率的に打ち込むためにとっても理にかなったカタチになっていて、小さく細い釘を打つ金槌、太く長い釘を打つ金槌など目的に応じた重さや柄のバランスが黄金比のように存在しています。

この金槌のように昔からカタチを大きく変えていないモノには使いやすさの基準のようなものがあり、それを越えようとしても機能に関する改善はかなり難易度が高いと言えます。


最近の私達の身の回りにあるほとんどのプロダクト、たとえば大半の家電は、現時点での技術では完成と思われる状態に進化してしまったせいで、中核となる機能に他社とは違う特徴を謳うが出来なくなり価格競争などを強いられ市場での競争に苦戦しています。

この様に論理的なアプローチから生み出される機能的な改善で競争することは難しくなってきましたが、楽しさや快適さ、そしてワクワクする様な感情面には、まだまだ可能性が広がっています


腕時計に期待することって?

そこで次は腕時計を例に説明してみましょう。

まず、腕時計の機能的な価値は「必要なタイミングで手軽に正確な時間を知らせること」ですね。この機能的な価値だけをとってみると千円以下のデジタル腕時計でも十分に正確な時間を知ることが出来ます。

でも10万円、いやいや数百万円を超える腕時計をしていらっしゃる方がいるのはなぜでしょうか?正確な時間を知ることに費やす適正コストが仮に千円だったとしたら残りの大金はいったい何に支払っているのでしょうか?

どうやら感情的な何かを満たすために支払っていることになりそうです。それは虚栄かもしれませんし自己満足かもしれませんが、内容はさておき腕時計には機能を越えた感情的な価値の可能性を垣間見ることが出来ます。そしてそこにはデザインによる感情面へのアプローチという仕掛けが見えてきます。


相対比較

いまどきの腕時計を選ぶ際に、「時間が正確にわかること」は当たり前なことで特にそこを意識して選ぶ方はかなり少ないと思います。ほとんどの方は、自分のライフスタイルやファッションに合うデザインかどうかを基準にしていることでしょう。

腕時計はデザインで選ばれる顕著な例ですが、そのほかの感情的な価値をデザインで訴えるプロダクトに関しては善し悪しをどのように判断しているのでしょうか?

ほとんどの場合、人は生理的なことを除き、選択肢について相対的な比較をすることで善し悪しの基準を無意識に定めています。この世に一種類しか無いモノは判断の基準を持つことが難しく善し悪しの評価がしにくいものですね。余談ですが、よく言われる「世に出るのが早すぎた」と言われるものはこれに相当します。


色彩や質感に始まりインタラクションやUXなどデザインに関わる感情面の善し悪しは相対的な比較によって判断されるものです。

たとえば「楽しさ」を例にすると、「楽しさ」の絶対値は存在しませんが、大半の人は複数の選択肢を目の前にした場合その選択肢の中から「A」よりも「B」の方が「楽しさ」を感じるという比較をしはじめます。

少しそれますが、人によって感情面に関するデザインの評価はまちまちになって当然です。これは価値観と呼ばれるもので人によって何に価値を見いだすのかは異なるため、それぞれの価値観に対する共感が望ましいデザインを生み出すために必要だと言うことになります。


デザインに期待される役割

話を戻しますが、腕時計のマーケットでは、かなり前から機能的な部分で競争することに意味が薄れてしまい、感情面にアプローチすることが競争の中心になりました。

この流れと同様に、今、いろいろなモノやコトは感情面にアプローチすることによってまだ誰も気づいていない領域に答えを求める必要が出てきています。

競合の誰もが設定する開発ゴールではなく、「A」よりも「B」という相対的な判断において競合よりも優位に導くために人の心の琴線に触れることを発見することがデザインの役割として期待されています。


経済産業省が「デザイン経営」という政策提言を行う理由もデザインという人の感情面に対するアプローチを日本中(日本の産業)に広げ、更なるイノベーションを期待しての事なのでしょう。

デザインは益々ドラスティックで楽しいビジネスになりそうです。それではまた。

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