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ジュエリーという、ささやかな魔法

「持ち主にとって、ジュエリーが小さな同志のようであれ」
ジュエリーブランドmuskaを1人でスタートした際に、ブランドのコンセプトとして掲げたこのメッセージは、1人からチームになった今も変わらずmuskaの根底にあり、制作の指針となっています。

元々マイペースな性格で、一日中黙々と手を動かすのがここ数年のルーティーンでしたが、遠隔でやり取りをするお客様が増えたこともあり、お店での対話の代わりにと、私たちのオンラインストアで不定期にブログをはじめたのが先々月のこと。

せっかくならば色んな人に読んでもらいたいと思い、noteを始めました。

こちらではオンラインストアで載せている、デザインや制作背景などについて書いたブログの記事と、プラスアルファでもう少し個人的な事を混ぜて投稿していこうと思います。

1回目は、オンラインショップのブログを少し手直しして載せていますが、その前に簡単に自己紹介を。

1984年、冬生まれ。広島県出身。

2012年にmuskaをはじめて、気づけば8年。
その間には活動を休止して海外に住んだり、個人から会社になったり、洋服を作り始めたりと色々な出来事がありました。現在は東京・麻布台のお店兼アトリエで制作やデザインをしています。時々イラストを書いたり、衣装を作ったりも。

数秘術は2・8の10。アーユルベーダとヨガと瞑想が日課です。

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今回は、私がジュエリーを製作するうえで、何を表現したいのかということについて少し触れてみようと思います。

「またわたしの体には変化が起こりました。老いと衰弱を感じながら、森の洞窟の前に立っていますと、急に自分が他の動物になっているのに気づいたのです。肉体はまだ若々しくなり、心は喜びにあふれ、力いっぱい野山をかけめぐると、今度は猪の王になったのです。
(中略)
わたしはまた年老いて、弱り果てていきました。暗い洞窟の中でたったひとり、三日のあいだ何も食べずにじっとしていました。三日目に、全身の力がぬけたように感じますと、今度は大きな海鷲になっていました。心には再び喜びがもどり、なんでもできるような感じがしました。」
井村君江『ケルトの神話―女神と英雄と妖精と』(ちくま文庫)

小さい頃、鳥や植物に話しかけたり花の蜜を吸ったり、毎日の暮らしは今よりもずっと自然や動物と距離が近かった人が多いのではないでしょうか。
草花で染めた色水は魔力を持ち、天井の木目の模様は恐ろしい生き物に変化し、時間は一瞬一瞬がギュッと凝縮され、そこに流れる匂い、色彩、音や質感、全てが濃厚で、もっとプリミティブな感覚に近いものでした。

かつて、人間は私達の子供時代のように、もっと自然界と濃密に関わり合って生きていました。
民話や神話を読んでいると、上記の引用のように、人と精霊と動物の境目がなくなる話がよく出てきます。

人は自分に親和性の高い動物や植物と繋がり、その名を受け取り、時に精霊と交わり、聞こえない声を聞くものでした。 装身具や楽器、占いや儀式に使う道具などは動物の牙や骨や革、植物の実や幹などを原料に作られ、その一つ一つに意味が与えられました。
遠い昔、「もの」は神聖さを持って吉凶を語る“声”のような強い役割がありました。

muskaは、「ay(月)」のシリーズや「su(水)」のシリーズなど、色々なエレメントに分けてジュエリーを作っています。
これは現代のジュエリーに、元来、人々が込めていた装身具の意味合いをもう一度落とし込みたいという気持ちから始めたことです。

言い換えれば、私にとってジュエリーを作るという行為は、身に着ける人にとっておまじないのような要素を持ち、毎日が少しだけ楽しいものになるような、小さな魔法がかかったようなものを作りたいという想いとつながっていました。

こういったコンセプトはmuskaを始める前、旅で訪れたトルコで、人々の暮らしと壮大な自然に大きな感銘を受けたこと、そしてイタリアに料理修行で渡航した友人に「元気でいてね。」と、絹糸を編みパールを刺繍したネックレスを作ったという、2つの出来事が重なったことがきっかけでした。
(ちなみに彼女は今ではイタリアでパートナーと結婚、女の子のお母さんをしながら、料理人として活躍しています。)

エレメント自体の種類も少しずつ増やしながら、それぞれのエレメントのアイテムも増やしていく。まるで宝石の小宇宙が広がっていくようなイメージで作ってきました。
muskaをスタートしたときに初めに作ったエレメントは、「incir(イチジク)」、「su(水)」、「ay(月)」、「doğa(自然)」の4つでしたが、今では随分と数が増えました。

muskaとして一番はじめに作った「 doğa(自然)」のリング。上から右回りにクリスタル、トラピッチェルビー、ウォーターメロントルマリン

シンボルの話はまた別の機会にも書くつもりですが、こうしたエレメントのシンボルを調べていくと、面白いくらい場所や宗教、時代によって様々な意味を持ちます。
同じ対象が違う意味を持つということは、 それぞれの歴史や土地環境、文化的背景の影響を受け、その力のようなものがネガティブにもポジティブにもなりうるということ。
そして逆に、時代や場所が全く違うのに、不思議と同じような言い伝えを持つものもある。
例えばユグドラシルなど、世界樹のような樹の物語は様々なところで語り継がれているようです。

こうした物語にふれるたび、地球上で人だけが行う、意味を見出すという面白さを感じます。
対象に意味づけをするという行為は、時に大きな力を持ちます。
それは祈りの効能のようなものにも似ています。
私自身を振り返ってみると、こうして黙々とエレメントに基づくジュエリーを作り続けてきたのは、古代の人々が行っていた小さな魔法に触れることが楽しく、そしてその魔法により役割を得た「もの」が持つ力を信じているからだと思うのです。

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