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色を編む―糸のジュエリーについて

子供の頃、ミサンガ作りに熱中していた時期がありました。

実家には裁縫上手だった祖母が集めていた、色とりどりの刺繍糸が銀色のお菓子の空き缶に入っていて、それらを様々な色の組み合わせで編んでは友達に配っていました。
確か丁度Jリーグが始まった頃で、サッカー選手がミサンガをつけていたのが小学校で流行ったのだと思います。

願い事をミサンガにかけて身につけていると、切れた時に願いが叶うという噂で、その時何を願ったのかはすっかり忘れてしまいましたが、自分のために作ったミサンガが桃と生成の縞々模様だった事と、おまじないにわくわくした事はよく覚えています。

気づけばあの頃とあまり変わらないことを今仕事にしていて、巡り合わせとは面白いものですが、muskaには天然石とゴールドを組み合わせたジュエリーの他に、色糸を編んだり、パールや珊瑚を刺繍するアイテムがあります。

今回は、こうした糸を使ったアイテムについて書いてみようと思います。

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muskaをスタートした時、「道しるべのジュエリー」というコンセプトで作り始めたアイテムは、長い年月身につけられるジュエリーであると同時に、特別な時だけではなく日常に寄り添うものであるという、2つの条件を兼ね備えていることが大切でした。

経年に耐え得る高品質の素材で作りながらも、遊び心があり毎日身に付けたくなるものであること。
18金、天然石に色糸という組み合わせは、このアイディアがベースにありました。

また神話や民話、錬金術などに関する本を読んでいると、色が特別な役割として出てくることがよくあります。

「アカントゥンという石で四隅が定められ、四柱の神バカブによって天を支えられた方形の広大な、世界の創造の物語である。各方位は北は白、東は赤、南は黄、西は黒という色彩、樹、鳥、石によって表象されていた。これら四つに分割された地域はそれぞれ、パワㇷトゥン神、バカブ神、それから風や雨に命令を下すチャク神の鎮座するところであった。これらの神々と、天空の十三柱の神オシュラフン・ティクが宇宙の創造を司った。」

ジャン・マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオ『マヤ神話―チラム・バラムの予言』(新潮社)

様々な色彩を組み込むことは、私にとってこうした色の力をジュエリーに取り入れるような気持ちがありました。

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過去のコレクションイメージ『Stirring』より。インドの天地創造の神話からインスピレーションを得て作った。世界が色づいていく。

2012年のブランド立ち上げの際に、一番始めに作った色糸のアイテムは、incirリング(インジル、トルコ語で「イチジク」の意味)とayネックレス(アイ、トルコ語で「月」の意味)でした。

簡単にアイテムを説明すると、incirリングは横から見た時にイチジクの形に見えるようにデザインしており、色糸を巻く前のリングの表面には、ジオマンシーという占いからインスピレーションを受け、点と線で構成されたシンプルな彫り模様が施されています。日々身につけているうちに糸が解けて、初めて中の模様が現れる仕掛けになっています。

ayネックレスは元々muskaを立ち上げる直前に、イタリアへ旅立つ友人に作ったネックレスが元になっています。糸から紐を編んだ後、サンゴやパールを刺繍していくのですが、このために使う針がほんの少しの力で曲がってしまう位大変細く、また素材を傷つけないように注意しながら刺していく必要があるため、ネックレスを1本仕上げるのにとても時間がかかります。その為沢山は作りませんが、私にとってはmuskaを始めた時の原点に戻るような、思い入れのあるデザインです。

どちらも2012年のスタート時から今も色のバリエーションを変えて作り続けているもので、まさかこんなに長くリピートするものになるとは予想していませんでした。

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(左)Angela Fisher, AFRICA ADORNED (ABRAMS) / (右) Bertie and dos Winkel, Vanishing Beauty (PRESTEL) より

色糸を組み込んだジュエリーを作る際に、とても影響を受けたのはアジアやアフリカの先住民族ないし少数民族の装飾文化です。彼らの色使いや素材の組み合わせはとてもユニークで、機械で作られた均一さとは違う、そのゴツゴツとした不完全さからは作り手の息遣いが感じられます。

また現代ではジュエリーといえば女性の方がよく着けるイメージが強いですが、彼らの装いは男女によって身に着けるものは多少違えど、装飾自体が民族の大切なアイデンティティとして機能しており、ひと目でその民族とわかるような、独特の色をそれぞれが持っているように感じます。

彼らの装身具から立ち上がってくるパワフルなエナジーはmuskaにとってのお手本であり、その根幹にあるプリミティブな力強さを失わぬまま、どれだけ日々の暮らしの中で私たちが身に着けられるジュエリーとして表現できるかを考えます。

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