Yuka Tanaka(第六夜)

muska jewelryデザイナー。ジュエリーデザイン、たまにイラストを描いたり。 …

Yuka Tanaka(第六夜)

muska jewelryデザイナー。ジュエリーデザイン、たまにイラストを描いたり。 ものづくりの背景や、デザイン、宝石のことなど綴っています。 https://taplink.cc/t6n_yukatanaka

最近の記事

デザインの工程

ARTS & SCIENCE FUKUOKA でのトランクショーが無事スタートし、アトリエはほっと一息。イベントの直前はアイテムをぎりぎりまで練り上げるため、かなりてんやわんやになります。納品の後は、まるで嵐が過ぎ去ったような感覚で、私も数日間は電池が切れたような状態に。 そんなこんなで、最近は新年度のスケジュールを整理しながら、5年ぶりに新たに我が家にやってきた猫との時間を過ごしていました。 以前も老猫と一緒に暮らしていた時期があります。のんびりゆっくり動き、ほとんど寝

    • 宝石をめぐる旅

      2022年は、お正月明けからすぐに国内出張や業務が重なり、バタバタした日々でした。 そんな中、Instagramでも様子をUPしていましたが、1月末からようやく2年半ぶりに、宝石の仕入れのために海外へ行くことができました。 今回の渡航は事前に、通常時であれば必要ない書類作成の他、陰性証明書を取る必要がありました。 また、ジェムショーも2021年は開催自体がキャンセルになったこともあり、ギリギリまで行けるかどうか分からず、気が気でない日々で、直前になって無事渡航できると分

      • はじまりの日のこと

        2022年、もう2月も下旬となりました。お店は年明けの1月半ばから休業期間をいただき、私は久しぶりの仕入れで海外出張に出かけていました。 実は今年はmuskaをスタートして10年目の年。途中、休止期間を挟んだとはいえ、あっという間でした。シンガポールへ移住したり、猫を看取ったり、家族や仲間と一緒に働くようになったりと、山あり谷あり…。 †† 昨年末、muskaを始める際に大変お世話になった方が退職されました。 私がジュエリーを持ち込み、デビューするきっかけとなったお店

        • デザインの境界線を超えて

          2021年11月、初めての試みとして名古屋でジュエリーフェアを行いました。これまで催事を行う際は、muskaをお取り扱いいただいているお店で、企画展として行ってきましたが、新しいことに挑戦してみようと思い立ち、自分達で会場探しから始めて準備をしました。 開催するからには空間をmuskaらしい雰囲気にしたいと思い、オリジナルの什器も制作して持っていきました。 muskaの初期から、ジュエリーに付属するパッケージや展示用小物などは、できる限り自分でデザインをしてきました。

        デザインの工程

          ものの記憶

          昨年、遅ればせながら、“こんまり”こと近藤麻理恵さんの本に触発され、身の回りの片付け祭りをしました。 私は引越しが多い人生で、大学入学で上京してから今まで10回は引っ越しています(仕事場の引っ越しも入れると12回!)。 そのたびに要らないものは処分するなど、荷物を整理してきました。だから自分としては、持ちものが少ない気でいたのですが、今回“こんまりメソッド”に沿って「ときめくものを残す」という観点で掃除をしてみると、まだまだ積み上がるゴミ袋の山……。 こうして部屋には好

          鉱物のパレットで描く世界

          子供の頃、「はてしない物語」や「ムーミン谷」など、繰り返し読んだ本が何冊かありますが、そのうちの一つが「クレヨン王国の12ヶ月」という児童書です。 王妃の長時間のお化粧や寝坊癖に辟易し、行方をくらませたクレヨン王国の王様を、王妃やクレヨン達、主人公の少女が探す物語で、主人公の名前が私と同じ名前だったこともあり、まるで自分が本の中で活躍しているような気持ちになったものでした。 細かい内容は忘れましたが、物語の描写がとてもカラフルで、小さな頭の中で鮮やかに再生された色の名残は

          鉱物のパレットで描く世界

          エスキナンサスの朝

          (2021年1月に執筆したブログ記事をそのまま掲載しています。) エスキナンサスの花がこの寒い時期に開きはじめました。 朝起きると、朝日が窓辺の赤い花や蔦達を柔らかく照らし、そのままテーブルに落ちた丸い光の跡を眺めながら「この瞬間はこんなにも穏やかなのに、世界は大変な状況なのだ」と不思議な気持ちになります。 年明けからは第六夜を通常営業に戻せたらと話していましたが、緊急事態宣言が発令され、引き続き予約制での営業。曇り空のような、この時の流れがまだ続くことにやるせなくなりま

          エスキナンサスの朝

          ミネラル・ピープルと私たち

          コロナ禍が始まった2020年を振り返ると手を動かし、本を読んだ一年でした。 自分の内側と向き合うような静かな時間が多かったように思います。 その年の秋になってようやく美術館や郊外に再び出かけるようになり、美しいものに触れ、乾いたスポンジのように心が一気に水分を吸収していく感覚は、自分にとっての栄養が何なのか改めて気付くきっかけにもなりました。 周りには、コロナ禍を機に東京から海の近くへ拠点を移すことを決めた友人もいました。 彼女が、風の抜ける部屋の窓辺で仕事をし、海辺

          ミネラル・ピープルと私たち

          点と点が繋がる瞬間

          muskaのお店、第六夜は麻布台の和朗フラット四号館という建物の一室にあります。 この建物は築80年を超え、現在では国の有形文化財に登録されています。 元々は、今で言うところのサービスアパートメントとして建てられました。 近辺には同様の建物が全部で7棟建てられ、四号館はそのうちの一つ。他に、壱・弐号館が現在も残っています。 これまでの歴史の中で、画家のアトリエになった部屋があったり、女性たちがシェアして住んだ部屋、雑貨屋さんやカフェとして用いられる部屋があったりと、歴代の

          点と点が繋がる瞬間

          いつもと違う夏

          間もなく9月。 本来であれば、香港に宝石の買い付けに行く時期でした。 仕事とはいえ、「そこに行けばいつも見る顔」を見られないというのは、なんだか少し寂しいものがあります。 9月でもまだまだ暑く、時折スコールにも襲われるこの時期の香港には、世界中から多種多様な宝石を携えた商人たちが集まります。 そうした機会に宝石の仕入れをしようと、これまた世界各国のジュエラーやジュエリーデザイナーが香港に集うのですが、大抵はめいめい好んで頻繁に使用する宝石があるため、自ずとよく仕入れる

          いつもと違う夏

          世界を美しくする

          19歳の頃、母に連れられ、初めて神保町を訪れました。 地下鉄の出口から出ると何処までも続く古本屋街に圧倒され、日が暮れるまで飽きることなく本を探し、手にずっしり食い込んだ紙袋を抱えて帰りました。 私の故郷にはこのような古本屋街はなく、上京したての私にとって大きなカルチャーショックでした。 大学を卒業するまで、神保町に出かけては本を漁り、飴色の壁紙にジャズが流れる喫茶店で読書をすることは、休日の楽しみの一つになりました。 昔ほど頻繁には行けなくなりましたが、今もデザイン

          世界を美しくする

          色を編む―糸のジュエリーについて

          子供の頃、ミサンガ作りに熱中していた時期がありました。 実家には裁縫上手だった祖母が集めていた、色とりどりの刺繍糸が銀色のお菓子の空き缶に入っていて、それらを様々な色の組み合わせで編んでは友達に配っていました。 確か丁度Jリーグが始まった頃で、サッカー選手がミサンガをつけていたのが小学校で流行ったのだと思います。 願い事をミサンガにかけて身につけていると、切れた時に願いが叶うという噂で、その時何を願ったのかはすっかり忘れてしまいましたが、自分のために作ったミサンガが桃と生

          色を編む―糸のジュエリーについて

          スターサファイアの微睡み

          I can hear the STAR’s whispers. The small voices tell us the secrets of the world. (muskaのエレメント “yıldız”より) 3本の交差した光のラインが、星のように浮かぶ宝石を見たことはありますか。 このラインは、宝石に光が当たった時だけ不意に浮かび上がり、その光源の動きにあわせて、表面を星のように美しく流れます。 こうした星の出る石はいくつか種類がありますが、代表的なものがスタール

          スターサファイアの微睡み

          永遠の植物たちと―象徴と文様について

          好きな花や植物の思い出はありますか。 以前、2年ほどシンガポールに住んでいた時期があります。 向こうは一年中真夏のような気候で、植物達の生命力が躍動する濃い緑の国でした。少し郊外へ行くと、ここは確かに以前はジャングルで、そこを人が住むために懸命に開拓していったのだと感じられる、迫力のある自然が広がっています。 丁度体調を崩し、muskaを長期間休んでいた時期で、よくこうした木の陰で横になり、本を読んだり昼寝をしたりしていました。小さく音楽を聴きながら寝ていると、汗をかいた

          永遠の植物たちと―象徴と文様について

          ジュエリーという、ささやかな魔法

          「持ち主にとって、ジュエリーが小さな同志のようであれ」 ジュエリーブランドmuskaを1人でスタートした際に、ブランドのコンセプトとして掲げたこのメッセージは、1人からチームになった今も変わらずmuskaの根底にあり、制作の指針となっています。 元々マイペースな性格で、一日中黙々と手を動かすのがここ数年のルーティーンでしたが、遠隔でやり取りをするお客様が増えたこともあり、お店での対話の代わりにと、私たちのオンラインストアで不定期にブログをはじめたのが先々月のこと。 せっか

          ジュエリーという、ささやかな魔法