知は力なり 3:Siddhartha Mukherjee "The Gene"
ウイルスは人とともに生きる。
正確には、ウイルスの多くは、細菌を含む人以外の細胞とともに生きるので、このような紋きり型の言い方はあまりよくないかもしれない。しかし、もちろん、SARS-CoV-2ウイルス(COVID-19 の原因 ウイルス(*1) )を念頭に置いたものの言い方だ。
春が来て、気温が上がって収束することを祈りつつ、私も恥ずかしながらアマビエ、ちょっとイタリア風(←個人的見解)を落書きしたので、アップしておく。本当にイタリアの状況は心が痛む。
※あまりの状況に、表題の本の紹介は一番下「追記」に押しやられてしまったので、そちらが目当ての人はずっと下にスクロールすること。。。
今日 (3月22日)の朝、WHO のレポートをチェックした人は背筋が寒くなったことだろう。予想されていたこととはいえ、死亡者がさらに増え、20日の24時間で429人、21日の24時間で625人の人が亡くなっているのだ。この一週間で平均すると、一日あたり350人弱の方々が亡くなっている。これは恐ろしい数字である。
中国のピークと思われる1週間(2月13日~19日)でも死亡者は1日の平均で127人だったのだ。
しかも、まだ一日の感染者が増えている。たいていは実際の感染拡大が感染者増の数字として現れるのに 1-2週間程度、死亡者増はさらに 10日程度は遅れる。前者は、このウイルスは、感染してから症状が現れるのに時間がかかることが原因である。後者は症状が現れ、重症化してICUに入り、救命の努力がむなしくなった後に死亡するので当然である。
ということは、イタリアの一日あたりの死亡者数がまだまだ増えるということなのだ。こんなこと書きたくないし、信じたくもないけれども。
中国のデータを見るとわかる。
※グラフは、WHOのデータを使用、私が作図。形を比較しやすいように、Y軸を左右に振っているので、絶対値に注意すること。2/13の死亡者数のデータ 2/17の感染者数のデータは異常データと判断して非表示にしている。
また、この2-3週間私が気にしていることがある。USAの動向だ。最近になってようやく、いくつもの手を打ち始めているが、死亡者数が多く、不気味にじわっと増えている。感染者数が激増しているのは、検査の範囲が最近になって広がったせいだと思われる。ドライブスルー検査とか。単純計算の致死率(201人/15219人 = 1.3% 21日現在)が普通の範囲に入ったので、体制が他国にようやく追いついたところ、といった感じだろう。状況が明らかになるのはこれから1週間程度かかると思う。
なお、米国のCDCは土日はサイトの数字のアップデートを休む。数字を追いかけている人は注意。・・・しかし、そんなことでよいのだろうか。
※グラフは1日の死亡者数、WHOのデータを使用、私が作図。2/13、2/14の中国のデータは異常データだがそのまま表示。心眼で両日を均して見てほしい。そんなことが気にならないくらい、イタリアの死亡者数が多い。米国がイタリアの2週間遅れで進展しそうに見えるのが怖い。・・・はずれることを切に願う。
中国は、武漢封鎖や移動制限、複数の病院の新規建設と運用、徹底的な検査、ITによる個人の行動の追跡と監視など、かなり思い切った大胆な手を1月の末から次々と打って、このような形に抑え込むことができた。でなければどんなになっていただろうか。
日本も韓国も、この中国の封じ込めの成功には、感謝してしきれるものではないだろう。
日本と韓国は非常にうまくコントロールできている例である。韓国は確かに新興宗教団体の集団感染があり少し気の毒な状況ではあるが、それも抑え込んだ形になった。ただ、2月後半から3月前半の外国人の流入の影響が今ごろ出ているはずで、そのせいか、なかなか振り切れない。
※グラフはWHOのデータ、厚生労働省のデータ、KCDCのデータを使い、作図は私。比較しやすくするため、Y軸のスケールを左右に振っているので、絶対値は惑わされないように注意。
とりあえず、韓国が収束方向に向かっているのがよくわかる。韓国が大邱の封鎖でもめたのが2月の25日、1週間程度の遅れで3月3日前後くらいに効果が表れているように見える。
日本の感染者数は上下しながらゆるやかに3月10日から17日のゆるいピークを越えたように私の心眼では見えるが、どうだろう。ちょっと楽観的か。
日本はダイヤモンドプリンセスの一件を経て、対岸の火事ではなく自分事として国民が意識しはじめ、北海道の感染拡大を見、学校の休校を突然要請されたのが3月2日、この前後で、一気に自粛ムードが高まったと思います。それから10日か14日くらいで効果が出るとして、ピークは3月12日から3月17日あたりになると思うと、ほら、なんとなくそう見える。(←私の心眼だけかもしれない。)
中国も外から感染者が入国するのでなかなか振り切れないようだ。日本も韓国もこれから同じ理由でだらだらと続くかもしれない。
ところで、ヨーロッパとひとからげに言っても、イタリア、フランスと国境を接しているドイツの状況がまったく違う、ということに多くの人が気が付いていることだろう。
感染者数こそ多いし、早くから数字が積みあがっているのですが、死亡者数が極めて少なく日本時間22日のデータ(WHO)で累積でわずかに45名。感染者数が累積で18323名なので、これは極めて少ない数字だ。
前に指摘したが、重症患者数や死亡者数はごまかせない(*2)。だから、ドイツが周辺の国とまったく違い、うまくコントロールできているのは間違いない。
先週末にドイツのメルケル首相が発信したメッセージは聞く価値がある。日本語訳もSNSで流れているので、ぜひ探して読んでほしい。
力で抑え込んだ中国、互いにきわめて対照的なアプローチの韓国と日本、そしてドイツ、これらの今のところうまくコントロールできている国と、イタリア、フランス、スペインなど爆発的な感染を許した国と、何がどう違うのか、しっかりと分析することが大事だと考えている。ーすでに専門家がやっているはずだと信じている。
ウイルスは人と共に生きる。
人間の行動様式とウイルスの感染効率が密接に関わる。一人一人の行動次第で、このまま抑え込むことができるか、それとも、ヨーロッパのような状況になるかが変わる。とにかく、慌てず騒がず、かといって軽視せずに諦めずに一人一人が行動することが大事だと痛切に感じているところである。
感染症は抑え込んだ後が勝負。SARS, MARS, COVID-19 の四の舞にならないよう。
今回もきっと抑え込めるだろうけれども、奴らは変異して、必ず戻ってくる。
加油!!
■重要
W.H.O.
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
厚生労働省のページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(2020/3/18)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf
考え方(これを意識することは、すごく大事だと思います。)
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000603002.pdf
日本ウイルス学会:新型コロナウイルス感染症について
http://jsv.umin.jp/news/news200210.html
米国CDC
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/index.html
韓国CDC
https://www.cdc.go.kr/board.es?mid=a30402000000&bid=0030
中国CDC
http://2019ncov.chinacdc.cn/2019-nCoV/
■まとめ記事
ロイター
情報BOX:新型コロナウイルスを巡る海外の状況(20日現在)
https://jp.reuters.com/article/coronavirus-overseas-idJPKBN2163ZZ
AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3269154
■注
(*1) 一般に新型コロナと言われる感染症の名前は COVID-19, COVID-19の原因ウイルスの名前がSARS-CoV-2ということのようである。
Naming the 2019 Coronavirus (International Committee on Taxonomy of Viruses)
https://talk.ictvonline.org/
(*2) 上に書いたように、死亡者数はかなり遅れて数字が表れてくるのでこの点は大いに注意する必要がある。
■追記
毎回、私の note は趣味の読書を軸にすることに決めている。今回は、思わず、COVID-19の状況があまりにひどく、アマビエを載せ、すでにFacebookに投稿済みの内容をあらためてまとめてみたら、本の紹介の余地がなくなった。
が、こんなときこそ、ウイルスって何?多様なウイルスの世界とは?生命とは何か?人間とウイルスの共生関係とは?遺伝子とは?・・・ということに関して勉強するのがよいかと思う。
生兵法は大怪我のもと、とはいえ、まず、基礎的な知識を自分のものにすることが、状況の観察には大事だ。専門家の発信を正しく受け取るうえでも大事だと思う。
そうして、センセーショナルな報道やフェイクニュース、最近にわかに賑やかになってきた米国からの発信などを冷静に受け止めることができるようになるだろう。
さて、去年の 6月から7月にSiddhartha Mukherjee著の "The Gene" を読んだ。これもFacebookに投稿済みだが、以下、再掲しておく。
著者は、19世紀のダーウイン、メンデルから最近の研究成果まで時代を追ってこの分野の発展の歴史を語っている。ときに、自身の家族のエピソードも交えながら、比較的平易な英語でわかりやすく、最後まで一気に読ませるのは、さすがにベストセラーである。
本庶佑著の「ゲノムが語る生命像」を2018年末に読んだが、引っ張り出して並行して内容を確認しながら読み返してみた。ほとんど内容はかぶっているが、The Gene のほうが、それぞれのエポックメイキングな研究の詳細をストーリー仕立てで面白く読ませるが、そのぶん長い。本庶のほうは、「わが国の云々」が散見されるが、内容はコンパクトで、もちろん日本人読者には読みやすい。
歴史への反省や今後の展望、そして未来の社会や人類という種へのインパクトなどはそれぞれ視点が異なっていて面白い。
このような本を読み、生命科学の発展の歴史を知ることで、現代の私たちの知識や技術の地平がおぼろげでもつかめ、私たちの力を過大評価することはなくなり、科学技術万能論や経済性一辺倒の考え方がいかに危険かわかることであろう。
この本にも触れられているとおり、歴史の中には、未熟な科学を適用することで、独善的な考えかたを増幅して、多くの悲劇を生んだ。20世紀初頭のアメリカの優生学協会の活動や、ナチズム、そして最近の未熟な技術での遺伝子治療など、枚挙にいとまがない。
著者は2016年に出版されたこの本の中で、2012年に発見された CRISPR/Cas9による遺伝子編集について解説し、近い将来、中国でこれを使ってヒトに遺伝子編集を施すことが実現されるだろう、と予測している。去年末に実際に発表され、ついこの間も3人の CRISPRベイビーがいる、と解説記事を読んだばかりである。これから先、私たちにはどんな未来が待っているのだろう。
さて、遺伝子には誤解が多い。この本を読むことで、その誤解を解くことができるであろう。
著者は以下の点を指摘する。
1. 遺伝子は設計図ではなくレシピである。
2. 遺伝子のうちには、原理的に、その効果の予測が難しい遺伝子がある。
遺伝子は、部分の身体の設計が書かれているのではなく、それをどう形作るかが記述されている。私たちが成長していくときに、周囲の有形無形の環境と相互作用することで、形作られるものは変わっていく。また、偶然によって変異することもある。さらには、一つの形質の発現に対して複数の遺伝子が関係することがほとんどである。なので、遺伝子だけで未来がどうなるのか完全に予測することはできない。
そういうわけで、私たちは、遺伝なのか、後天なのか、完全に分離することはできないのである。それらはお互いに影響しあい、自分の生まれてからの来歴として積み重なり折りたたまれ、そして将来に向かっていく。そのようにして私たちはあるのだ。
遺伝子そのものに正常と異常があるわけではない。
他にも、たくさん重要なトピックを学ぶことができる。600ページ強と長いので、なかなかつらい(7週間ほどかかってしまった。)が、一読をお勧めする。
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