見出し画像

vol.047「趣味も、合理主義で取り組んだ話~『釣りは科学』①前編:すべては「確率」で考える。」

なんの実益もないのに打ち込むのを「道楽」と呼ぶなら、ほとんど唯一の道楽が、魚釣りです。

分野を「シーバス(スズキ)の、陸からのルアー釣り」のみに絞る。
高額な設備投資をしない。交通費のかかる遠征はしない。船(有料でポイントまで連れていってくれる)は使わない。何時間も粘ったり、高度な技術を磨いたりしない。

「電車/徒歩/自転車」で行ける近場+技術(運動神経)不要+リーズナブルな道具のみ、で成果を出すための研究に絞って取り組みました。

過去のメモをもとに、前後編2回にわけて、シェアします。
ビジネス的な意味での有益な情報は何もないのですが、当時住んでいた東京の、湾奥・陸っぱり・アマチュアに限定すると、たぶん一番釣果を出していた。少なくとも投資対リターン率が高かっただろうという自信はあります。
ご笑覧ください。 


1.Where「どこで」釣れるか考える

釣りは自然相手のゲーム。自然を相手にする場合、純粋に、「確率」に支配されたシステムです。人間と違って、魚が「1ヶ月通い続けるとは、負けた!お前に釣られてやろう」ということは起こりません。
従って、確率を高めるまたは広げることが釣れる第一歩であり、すべてとなります。

(1) 期待値の最大化を考える。

魚が川の中のどこにいるのかを考えてみます。
魚、特に捕食魚(フィッシュイーター)は、物陰に隠れて獲物が通りかかるのを待ちます。サバンナでライオンが草むらに身をひそめたり、ヒョウが木の上で隠れるのと同じと思えばよいでしょう。
川でいえば護岸、港なら防波堤の壁ぎわです。

図①「魚はどこにいるのか」を考える。

釣りをしている人を見ると、多くが沖へ向かって(川岸と90℃の方向へ)一生懸命ルアーを投げています【図①のA】
前述のように、魚は(おそらく)足元に潜んでいます。水深のある沖の、中層へルアーを投げるということは、ビジネスでいうと「対面営業のお客様を、路上でつかまえようとする」ようなものです。怖いからそそくさと逃げてしまう、またはそもそも近づいてきません。

法人営業ならオフィスを訪問するか、個人販売ならお客様のご自宅を訪問しますよね。釣るなら足元、魚が居着いているゾーンです【図①のB】

(2) 積分値の最大化を考える。

同じく、川で釣る人たちの多くが、橋の下に集まってルアーを投げています【図②のC】。または、自分なりの直感で、「ここは」と思う場所にとどまって川中へ向かって釣っています。
水面の上から人間の眼で見て「ここだ」という「思い入れ」と、「魚がそこにいるか」には相関が(ほとんど)ありません。

「魚は障害物の陰にいる」は事実ですが、「橋げたの下だけにいる」のではなく「岸壁沿いに、橋げたの下も含めて、均等な確率でいる」が正しい【図②のD】。水中にいる魚から見て、自分の棲みたい障害物が橋げたか岸壁かは(ほぼ)関係がない。地上にいる人間の錯覚です。


図②「空間の積分」で考える。

橋の下から沖へ向かってルアーを投げた場合のカバー範囲(ブルーの長方形の面積)と、川沿いをてくてく、ルアーを引いて歩いた場合のカバー範囲(オレンジの述べ面積)と、どちらが広いかといえば文句なしに後者です。

(例)隅田川河口の勝鬨橋から佃大橋の上流側のエンドまで約800m。両岸で1,500m。2つの橋の下でカバーできる面積は、幅15m×奥行30m×4。

魚釣りで成果を出すのに「根性」とか「真摯な態度」「一生懸命汗をかいているか」は関係ありません。釣りは、純粋に確率(算数)の支配するゲームです。
たとえ趣味であっても科学的に成功率を上げるのが、「大人の知性」だと考えています。

2.When「いつ」釣れるかを考える

(1)日中のほうがよく釣れる。

あるとき、釣れた魚の記録写真を整理をしていて気づいたのが、「日中のほうがよく釣れている」ということ。感覚的にもそうだし、過去の写真の枚数も、「有意な差」といってよい。
釣りの媒体や愛好家のブログ等を見ると、日没以降がメインという前提になっている。暗くなれば、ターゲットの魚たちが、天敵など危険を気にせず自由に動ける、というのが理由です。

これら2つの事実(釣れるのは昼だ説vs釣れるのは夜だ説)を、矛盾なく説明可能な論拠を思いつきました。たぶん当たっていると思います。

図③「いつが釣りやすいか」を考える。

夜間:
〇 自由に泳ぎ回り、捕食活動が活発になる。ルアーが目の前を通れば食いつきやすい。
△ ただし、そのエリアじゅうにランダムに散らばるため、魚がどこにいるかはわからない。【図③右】
 
日中:
△ 明るくなり、水底や物陰に潜んで活動が低下する。偽物の餌だということも暗い時間より気づかれやすい。
◎ 護岸のある河川の場合、「物陰」は岸の壁際のこと。朝または夕方、両岸のどちらかに寄せられて集まる。【図③左】

条件が同一(同じスキルで同じルアー)なら、ルアーの通り道の 魚の人口(?)密度の高いほうがヒットする確率も高い。
ルアーは魚の近くをそれらしく泳がせないと食わない。餌と違って「プラスチックのおもちゃ」であり、匂いで遠くから嗅ぎつけたりしないからです。(注:水中を伝わる振動、人間でいう音を感じ取って"聴きつける"そうです)

夜と昼とでは、河川の流域の体積で考えて、数百倍~数千倍の差が発生していると想定される。(※河の上流への移動と下流への移動を 均等の確率とみなして考慮しない)

夜間よりも日中にも多く釣れていることの説明が、これでついたと思います。

(2)日中のほうが大物が釣れる。

ルアー釣りでは、大きいサイズ用に玉網(たまあみ)を携行します。写真整理をしていて気づいたもう一つが、「玉網を実際に使ったのは、すべて日中である」ということ。
これは、一般に狙い目とされる日没後~夜ではなく、朝または日没前に大型が釣れていることを意味します。要因を推測してみました。

①ほかの釣り師がいない
釣りのWebサイトや、上級者のブログでもときどき見かける説。
隅田川ほか東京湾奥エリア、地元福岡でも、多くのルアーマンは日没以後に出撃しています。日没前、または翌朝は、ほかのルアーマンがおらず、魚がすれて/逃げてなく、釣れる可能性が高くなる。いわば差異化戦略が当たったためである。

②日中は小型が出てこない
シーバス(スズキ)に限らず、魚は明るい層にあまりとどまらない。ほかの捕食者から姿が見えるから。特に水面近くは、上からも狙われやすく危険なエリア。小さな魚は鵜やサギなどの水鳥の餌食となる。
そのため、明るいうちにルアーを狙って中層~表層まで出てくるのは一定サイズ以上のシーバスである。

③針掛かりしやすい
日中にヒットするのはある程度の大きさ(重量)の魚である。ルアーをくわえて泳ぎ出したときの力は、運動量:重さ×速さ(運動エネルギー:重さの二乗×速さ)に比例する。
重い魚ほどルアーの針が深くささりやすい。言い換えると、「合わせ」など釣りの技術が特に上手でなくとも逃がす可能性が低くなる。

④日中はエラ洗いをしない
経験則からは確実に言えることで、夜に比べて明るいときはエラ洗いをされた回数が少ない。②と関連して「明るさ=危険」と感じるため、水面方向から本能的に逃れようとする。ルアーにヒットして糸で引っ張られると、昼間の場合は下方へ逃げ込もうとする習性が勝つ。
したがって、めったに水面へ出てエラ洗いをしない。
 
②③④はほかのブログ記事などでは見かけない。ベテラン釣り師たちが「気づいているけど書かない」のかもしれない。 (※記事を書いた以降、さらに回数を重ねてみて、特に朝夕だとエラ洗いします。ただ夜よりもすくないです)

以上、「釣りも合理主義(効率重視)で考える」、前編でした。

研究と実験に取り組んだ結果、釣った魚の数を費やしたコストで割って正規化した、「アマチュア・安上がり部門」みたいな表彰があればかなり上位にいけると思います。東京湾奥エリアの陸っぱりならたぶんトップクラスです。※5年ほど通って、自分以外の人が釣り上げているのを目撃したのは数回(5匹以下)。

『ギョギョッとサカナ★スター』(NHK)によると東京湾は日本で一番スズキが集まってるそうだから、日本一(クラス)の可能性もありえるのでは、と妄想しています。
 
(後編へと続く)

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?