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どうして帰してくれたのか

これは私の夢のお話です。小さいときに見た、ずっと今でも忘れない夢です。実体験と言えば実体験です。

私がまだ中学生くらいの時でした。今よりも遥かに若くて幼いときに見た夢でした。私はいつものように布団に入って寝ました。

私の住んでいる世界が夢の中に出てきました。田舎の小さな町です。車が無ければスーパーやコンビニにも行けないほどに。周りは田んぼ、畑、山。でも嫌いじゃないです。交通機関がダメダメでしたけど。

そんな私の住んでいる町から隣町に行くには大きな川が挟んであり、大きな橋を渡って行かなければいけません。私はその夢のなかで、家族で車に乗って、その隣町に行くために大きな橋を渡っていました。いつもの風景で、なんとも思っていませんでした。でも、その橋を渡りきって、隣町に入った瞬間でした。

一気に景色が切り替わりました。場面が変わったという感じです。私は車になんか乗って無くて、家族もいなくなって、私一人でした。そこは私の知っている隣町の風景ではなくて、どこか別の国のような風景でした。道路というべき地面は全てレンガ。周りにある建物も洋風のレンガ作りの建物があります。まさに写真のようなイメージ。そして、色んな人が歩いていて、日本ではないみたいな感じでした。外国のような。私は外国に今だ行ったことがないので今でもイメージのままですが、外国と言えば外国。でも違うと言えば違う。そういう曖昧な世界でした。でもすごく綺麗で、レトロな雰囲気。レンガの色でオレンジ色になる世界でした。

そこに、一人の男性が来ました。スーツ姿で帽子をかぶっています。まさに紳士という感じの人です。杖も持っていて、青年というよりも、おじさんといった感じの方でした。その人のことを私は知らないし初めて会うのに、そんな感じがしなくて、一緒に街を歩き始めました。

おじさんが、街のひとつひとつを丁寧に教えてくれました。ここは何が合って、ここはこういう場所。細かいところはあまり覚えてませんがこの街がどういうところなのかを観光みたいにふたりで歩いて教えてくれました。私はそれが楽しくておじさんと腕を組んでまでその街を楽しんでました。観光というより、デートみたいな感じですね。一緒にその街を歩き回ってあれこれ見て回って、おじさんはそれを丁寧に教えてくれて、私は楽しくて楽しくていっぱいお話しました。

今でも思い出すと本当に楽しかったです。

ある程度、街を回ったら一つの建物に連れて来られました。そこに入ると、一階ではダンスパーティーが開かれていてみんなドレスやスーツ、煌びやかな衣装を来て、お酒を飲みながら楽しく過ごしていました。

「今日はパーティーなんだよ」

おじさんは言いました。楽しそう、と素直に思いました。私はそのダンスパーティーには参加せずにそのまま二階の階段へ上りました。階段は左右から登れるような大きなものでした。その建物自体も館みたいに大きなところだったと思います。二階に上がると一つの出窓がありました。私はそこに行って、その窓から外の景色を見ました。

どんな景色だったかは覚えてませんが、すごく綺麗で、色はオレンジ色でした。夕焼けかなにかだったのかなと思います。すぐにおじさんも来てくれて一緒に見ました。本当に綺麗でした。なによりもこの街が綺麗で楽しくて、いいなぁ、と思っていました。本当に夢のような、漫画やおとぎ話のような街だったのでこういうところに住んでみたい、と思いました。

しばらくその窓から外をずっとふたりで眺めていました。一階ではずっと賑やかな声が溢れていて、それもすごく心地よかったです。

窓を眺めているうちに、オレンジ色から紫のような色になって暗くなりました。きっと夜になったんだと思います。おじさんはその出窓から離れて、一階に降りて行きました。私はそれに黙って着いて行きました。

おじさんは玄関に行って外に出ようとしました。もうちょっといたいなと思いながら出るのを戸惑っている私に「おいで」と言ってくれたので私はそのまま着いて行きました。後ろでは「もう行っちゃうの?」なんて声も聞こえたような気もします。外に出ようとする私の背後がざわざわしていたような気がします。外に出るとやっぱり暗くなっていて、夜でした。暗くなると言っても紫色の世界になっていました。

それからはただおじさんにひたすら着いて行きました。

少し歩いて、着いた場所は小さな橋の上でした。石で出来た丸い感じの。どう表現していいか分からないんですが、どうぶつの森で出てくる石の端のようなイメージ。その橋に落ちないように柵がついている感じです。私はなぜかその橋の柵に座りました。鉄棒に座る様な感じです。

そしたらおじさんが「楽しかった?」って聞いてきたんです。私は楽しかった、もっと居たい、と答えました。足をぶらぶらさせて、気分はご機嫌でした。おじさんとちょっと話をした気がします。それも楽しかったです。でもおじさんがこう言いました。

「もうお帰り」

これは凄いはっきりと覚えています。高くもなく低くもなく、心地よい声でした。ここに来てはいけないよ、と言われた気がしました。おじさんは笑っていて、私は心の中で嫌だと思いました。でも帰る時間だということに何故か理解をしていたんです。おじさんは「帰る時間だよ」と言って私の身体をそのまま押しました。

押された私はそのまま背中から川に落ちました。でも川に落ちた感覚はなくて、気づいたら目が覚めていました。

それから、その街に行く夢を見ることもなくておじさんに会うこともありません。一度しか見たことないんですが、もう一度行けるような気がしたんですよね。でも何年経っても、あの夢を見ることはなくて、思い出だけが鮮明に覚えています。

その頃の私は家庭環境がめちゃくちゃで、ものすごく大変な時でした。丁度受験のときでもあったような気がします。高校に行けるかどうかも怪しいよな家庭でした。それでも私は結構なバカだったのでなんとかなると思っていましたし、特にストレスを感じていたことは無かった……と思っていたんですが、どこかやっぱりストレスか何かを抱えていたのかもしれないなって思いました。現実世界では感じなかった「楽しい」が夢の中でいっぱい感じられて、本当にこの夢だけは今でもずっと忘れることが出来ません。

あのおじさんにも会うことも出来ないですが、出来るならもう一度会いたいなってたまに思います。

夢なんて自分の頭が思っていること、なんて言いますよね。そうかもしれません。その時の私の現実逃避が夢になったのかもしれません。でも楽しかったし、助けられた夢なんだなって今では思います。

どうして帰してくれたのか。

あの素敵な街を、案内してくれてありがとう。

今度会えるなら、お礼が言いたいし、また一緒にデートをしたいなって思います。