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20.工場に製造してもらうために。頼み方とトラブル回避

手作りで商品を作って、ハンドメイドサイトや手作り市などで販売していても、売上はがんばって年商500万円ぐらいでしょうか。もっと稼ごうとして働く時間を増やすと今度は体力や気力の限界が来てしまいます。モノ作りをビジネスにするには、製造工場との付き合いが不可欠。その探し方から仕事の依頼方法、トラブルへの対処方法までを考えてみます。

※この投稿はファッションとデザインの創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」の村長が書いています。手作り作家、ハンドメイドのクリエイターから、人気ブランドになるための方法などについて解説します。

テーマ26:工場とのお付き合い

◆工場探しの考え方

ファッションブランドを立ち上げる人が必ず経験するのが、生産ロットの壁です。1~2着なら自分で手作りできても、10着になると外注生産を検討しなければな りません。しかし、10~30着程度の中途半端なロットで請けてくれる工場は皆無。現状では「創業期のブランドに付き合うのはとても無理」という声が多数です。

技術力があり、納期や品質を厳守し、細かい注文にきちんと答えてくれる一流製造業者には、忙しすぎるほどに仕事が入っています。経営が安定している彼らは、ロットが大きくて継続的な仕事を中心に操業計画を立てますから、単発で小ロットの仕事を若手デザイナーが発注しても請けてもらえないのです。

相手の立場に立って、相手の仕事を理解して考えることが大切です。
工場は従業員や職人に安定した仕事を供給し、決まった給料を払わなくてはなりません。ですから、単価が安くても、安定して多数の仕事を回してくれる企業との取り引きが命綱。しかし、単価の安い仕事では利益が減るため、数をこなす必要があり、新規の仕事を請ける余裕がないのです。
安定した数量を継続して発注できるなら、新規の創業期ブランドでも対応してもらえるかもしれませんが、継続できるかどうかわからないのでは、対応するメリットがありません。

さらに、過去に多くの素人みたいなデザイナーが、お金を払えば自分の商品を作 って当たり前だと思って偉そうにしたり、とにかく無理に値切ったり、小ロットで面倒くさいことをお願いしたり、資材投入時期がバラバラなのに納期だけうるさかったり、仕様がわからなくて手間をかけたり、サンプルだけ作って音沙汰が無くなったり、パターンが破綻しているのにできあがりのイメー ジが違うと縫製に文句をつけたり、挨拶もお礼も無かったり。このような無理難題をお願いしてきたため、工場側も儲からないのに注文ばかりの「面倒な仕事はやりたくない」と若手デザイナーを敬遠するようになった背景があります。

若手デザイナーを敬遠したい工場とどう付き合うかは重要な課題。まず、工場という設備と付き合っているのではなく、人と人とが付き合っているのだと真摯に考えるべきです。
工場の技術者に自分の夢や目標を語ったり、素直に教えを請うたり、感謝の気持ちを伝えたり、一生懸命働いたり。当たり前といえば当たり前のことをしっかり行い、工場から人間として信頼されてください。
「一緒に仕事がしてみたい」「将来が楽しみだから育ててみたい」「自分自身も学ぶことがある」という気持ちを持ってもらうことが大切です。

◆仕事の依頼をする作法

個人で仕事をしているクリエイターが企業へと成長していく過程で、必要になるスキルのひとつが「依頼すること」。人や企業に何かをお願いすることです。
ビジネスは、ひとりでは成り立ちません。協力してくれる人、取り引きしてくれる人がいてこそ。依頼し、相手がそれに応じて動いてくれることで、前に進んでいけるのです。

工場などに仕事をお願いすると、快く受けてもらえることもあれば、断られることもあります。その差はどこから生まれるのでしょう。
それは、依頼の際に「必然性」+「意義」+「誠意」の3点がきちんと伝わる表現になっているかがポイント。いきなり「いくらで作れますか」と工賃のことを切り出されても気持ちがいいものではありません。良い工場は人間関係を築いてから仕事を請けてくれるのです。

「必然性」というのは、その相手を選んだ理由。多くの候補のなかでその工場こ そが、この依頼にもっとも適しているという理由です。この必然性を語るためには、相手を理解していなければなりません。相手のこれまでの実績や仕事、社長の考え 方、特長などを知らなくては、理由を述べられないでしょう。
必然性が述べられていなければ、「別にほかの工場でもいいのでは?」という気持ちになってしまいます。特長などに対する理解が間違っていれば、「何も知らず、いい加減に頼んできたのではないか」と思われても仕方ありません。しかし、自分に対する理解や共感が納得いくものなら、工場とデザイナーとの間につながりが生まれ、依頼を受けるきっかけになります。

「意義」は、その依頼を受けたほうがいいメリットの提示です。自分や工場にとってどんな成果が生まれ、どのような未来があるのかなどについて述べましょう。

目に見えないものだけに難しいのが「誠意」。
私は、誠意を相手が準備に費やした努力量として判断します。「依頼をする前に自分でいろいろ調べて試行錯誤し、苦労もしたが結果ダメだった。だからお願いします」というのであれば、受けようかという気にもなります。
事前準備に努力をしていればいるほど、誠意は伝わるもの。そこまでしてくれるなら、こちらも期待に応えようと返報性の心理が働くのです。

◆初めて仕事を頼む工場とのトラブル

自社製品を製造してくれる工場はビジネスの要ですが、初めての取り引きでは問題が発生することも。多くは「任せていたら、裏切られた」というものです。
例えば、展示会の数日前にサンプルが間に合わないという連絡がいきなり入ったり、セカンドサンプルの制作をお願いしたのにファーストサンプルのまま量産されたり、「大丈夫です。簡単です。任せてください」という言葉を信じて任せていたのにいつまでたっても縫製してくれなかったり……。

トラブルを起こした工場側は、「少量生産で手間がかかるわりに、細かい指示が多くて、儲けにならない。こっちは商売にならないのに請けてやっているんだ」と悪びれもせずに文句を言ってきます。また、「若いデザイナーなんて、モノ作りを知らないバカばかり」などと思っていて威圧してくる工場、安請け合いしていい加減な仕事をする工場、頼まれてもいないことをする工場なども。

なかでも、若いクリエイターにも「仕事をください」と何度も営業してくる工場と初めて付き合う場合は要注意。既存の取引先とトラブルが多くて仕事が減っている業者かもしれません。

初めての工場と取り引きを始めるときは、依頼する内容について書類やファクスで証拠を残すこと。また、ロットが少ないクリエイターの仕事は後回しにされがちですから、進行状況のこまめな確認を。工場に直接出向いて作業状況を見せてもらってもいいでしょう。工場との人間関係を築いて「このデザイナーのためなら頑張ろう」という気持ちになってもらうことも大切です。
そして、トラブルが起こったときは、いざというときの対応力を身につける訓練だと前向きに捉えてください。将来の大きな失敗を未然に防ぐ能力を高めていると考えるのです。

◆契約書について

契約について相談を受けることもありますが、私は法律の専門家ではないので、法的な解釈というよりも、事業実施上の不利益・不都合が生じないか、あらかじめ予測してアドバイスするというスタンスです。
法的には、双方合意の上で契約書を交わしてしまえば、強い拘束力が生じるので、できるだけ契約書「案」の段階で対応します

相手の出してきた契約書には印鑑を押すだけと思っているかもしれませんが、そのまま受け入れるのではなく、内容をじっくり把握して、こちらの要望を加味し、不利益な内容を減らし……と、納得するまで交渉しなくてはなりません。
内容でわからない部分があれば、そのままにせず、理解できるまで担当者に確認してください

クリエイターに多いのですが、契約や取り引きなど、自分がしっかりしなくても「相手が配慮してくれる」「悪くはしない」と思うのはとても危険。
自分にとって不利なことは小さい文字で書かれていたり、聞かれるまで教えてもらえないことも多いのです。理解しないまま契約して、自分のブランドを奪われたり、多額の賠償金を請求されたデザイナーもいます。
知的財産や契約、取引条項などは、ビジネスに関わる・関わらないを問わず、わからないままに契約しないようにしたいものです。

◆コラム:小ロットで取引してもらうために

p142工場図

ロットがまとまらなくても対応してくれる工場を探すには、どうすれば
良いのでしょうか。それは、何を重視し、何を妥協するかを考えることです。 デザイナーと工場は、それぞれに「取り引き持ち点」を持っていると考 えてみましょう。デザイナー側の持ち点は、実績、才能、仕事の経験、発注量、将来性などです。対して工場側は、納期、品質、コスト、デザイン の理解力などを持っています。工場側の持っているものとデザイナーの持
ち点とを引き換えると考えるのです。
この場合、デザイナーの持ち点は、才能と将来性の3点のみ。1点
で交換できるのは、工場の持つポイントひとつと考え、グッドレベルの納期、ベーシックな品質と引き換えました。すべてにおいてベストな要素を望むのであれば、12点が必要です
持ち点が多ければ、それぞれの要素に優れた工場と仕事をすることができます。しかし、若手デザイナーは持ち点が少ないので、全項目満点の工場とお付き合いはできませんから、どの項目に持ち点を配分して工場を選ぶかを考えなくてはなりません。
このように考えれば、立ち上げたばかりのブランドと良い工場が取引してくれないのは、工場サイドの問題ではなく、デザイナー自身の問題だとわかるでしょう。
条件がいい工場と付き合いたいなら、自社の実績、才能、仕事の経験、発注量、将来性などをアピールしなければなりません。持ち点が足りないなら、大きなビジョン、戦略の緻密さ、気配り、礼儀正しさ、粘り強い交渉、知人の縁で足りない点数を補うのです

※このNOTEは「好きを仕事にする自分ブランドのつくりかた」の一部を再編集して公開しています。


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