絵画解説「虚空蔵菩薩像」
美術館などへ行くと、必ず気に入った作品のポストカードを買っているという話は、かつて書いたことがある。
それらはホルダーにしまっているのだが、唯一、飾っているものがある。
それが、「虚空蔵菩薩像」。
西洋絵画などであれば、写真・ポストカード立てに入れるのが通例だが、日本の仏画なので、ポストカード用の掛け軸をチョイスしている。
さて、「菩薩」というのは、悟りを開く前の修行段階の姿である。
虚空蔵菩薩の名は、空海について調べたことのある人であれば印象的な存在。それについては後ほど説明するとして、まずはこの菩薩の説明から。
「虚空蔵」とは、無限の知恵と慈悲が収まっている宇宙的な蔵のことを意味するようだ。故に、人々の願いを叶えるために蔵から取り出して、知恵や記憶力、知識を与えるとされている。
そして、修行時代の空海やその当時の僧の修行のひとつに、「虚空蔵求聞持法」というものがある。目的は、無限の記憶力や仏の知恵を体得すること。
その方法は、虚空蔵菩薩の真言を、洞窟の中で1日1万回ずつ100日かけて100万回唱えるというもの。過酷な修行であることは言うまでもない。
空海はこれによって、霊的体験をしたとされている。
「明けの明星」は虚空蔵菩薩の化身・象徴とも考えられており、長らく信仰されてきた存在といえる。
虚空蔵菩薩を描いた作品(仏画)は、重要文化財に指定されているものでも、多数存在しているのだが、僕はこの絵のポストカードを買い、デスク近くに飾っている。
デスクの反対、背中側には書籍やコレクション類を並べており、一方では汗牛充棟的なモノの数々、そしてデスク側には象徴としてこの絵を掲げている状態。
この絵の作者は不詳ながら、鎌倉時代に描かれたものとして、「絹本著色虚空蔵菩薩像」という名で、重要文化財に指定されている。
さて、作品名の前についている「絹本著色」という言葉に注目してみよう。
意味は文字通りで、①絹に描かれたもの、②色がついている、という情報を示している。
実物を見ずとも、どういうものか分かるようにされているのだ。
ちなみに、「紙本」であれば、紙に書かれているという意味。
著色ではなく「墨画」だと、色付けされておらず墨で描かれたもの。
一般に、平安から鎌倉時代ごろは、絹に描くことが多かったとされている。なお、掛け軸の数え方は「一幅」。
この絵の下方に描かれている山は、伊勢の朝熊山とされている。
「お伊勢参らば朝熊をかけよ 朝熊かけねば片参り」と伊勢音頭の一節に唄われている。
これは神宮の鬼門にあたる場所に、朝熊山の山上の金剛證寺があり、伊勢参りの後には参詣するものとされるが、この寺の本尊が、虚空蔵菩薩なのである。もとは真言宗の寺だったため、空海とも縁が深い。
綺麗だ、凄かったというような感想で終わるのはもったいなく、ポストカードを持ち帰ることで、より楽しみや知見も広がるかと。
よろしければサポートお願いします!