出版社の空気

今日は席についてまず文庫の合紙を400枚作った。合紙は書道の半紙でまかなっている。フロアの中央に専用カッターがあるので(これがまたハイテクなのだってPDFが)そこで縦14センチ、横10センチの長方形を大量生産する。400枚の塊を側面からなでるといい気持がする。

出版・印刷部の会ったことないおばちゃんから電話が入った。

「私宛に○○雑誌と△△新聞と月刊□□があるからそれをカラーでスキャンとってPDFで送ってくれるかしら」

はいわかりましたと僕は言った。どの記事かによってスキャンする際の設定が違う。例えばA3より少し小さい記事なら横の長さを380センチにしたり、モノクロならコントラストをおおきくしたり、そんな細かい作業がうんとある。スキャンを送ると相手は丁寧にお礼を言った。


見本をこの住所に郵送してくれ、という業務は一日に必ず一回はある。今日もその指令が入ると慣れた手つきで適切なビニール袋の大きさを見極め、リリースを挟み住所を綺麗に書いた。定時に佐川やらヤマトやら目立つジャージを着たおにいさんがこんちわーと言って郵便物を回収しに来る。配達の人、つまり完全部外者が入ってきても社員達は見向きもしない。各々のデスクで難しい顔をしながら本を読んだり帯を作ったりお菓子を食べたりしている。

退勤時間をすぎても作業が終わらなかったため少し残業した。それでもアルバイトの僕はすぐに帰ったほうだ。でも思うのだけど、スーパーの社員よりも残業をしている感じがないのだ。スーパーの主任やら社員やらは提示に退勤の打刻をし平然とサービス残業に移行する。みんなイライラしている。

対して出版社の社員達は余裕である。余裕という表現がぴったりくる。多分一人一人が独立しすぎているため揃って始業、退勤という概念がはなからなく、あくまで仕事もプライベートの延長という感じがするからだろう。上司には上司の担当作家がいるし、5年目社員にも違う作家がついている。上司にあいさつしなくても構わない。自分のタスクをこなすのみ。フロアに流れるそんな空気を僕は結構気に入っている。

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