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ゲームデザインのプロセス

ゲームに必要な新しい要素だけを加えよ。ミニマムな改革を目指せ。

── Eric Wujcik
Lawrence Schick: "Heroic Worlds". Prometheus Books, 1991.

今回はゲームデザインのプロセスについて書いてみます。

◾️4つの開発フェーズ

ゲームデザインのプロセスはおおよそ以下の4フェーズに分けることができます。

1. コンセプト: 題材の選択。抽象的な概念の構築
2. プロトタイプ: 核となる要素とシステムの構築
3. 拡張: 機能の追加。詳細を具体化
4. 収縮: 機能の絞り込み。洗練。要素の単純化

まずコンセプト段階は、興味のあるテーマや好きなゲームジャンルなど、自分が最もテンションの上がるものを選びます。選ぶべきテーマとしては、その題材から連想できるゲームのイメージが明確で、アイデアを広げやすいと感じているものが良いのではないかと思います。
次のプロトタイプ段階では、コンセプトを具体的な形にします。この段階でゲームの「核」となる面白さの要素を見つけます。もし見つけられない場合は、無理に作ろうとせずに、もう一度コンセプトを考え直した方が良いかもしれません。
「核」となる要素が見つかったなら、そのアイデアを膨らませます。遊び方の作り込みをしたり、コンセプトに沿ったゲームルールの追加、世界観やキャラクター、ストーリーなどを肉付けしていきます。
そしてある程度の規模のものができたら、コンセプトにあまり繋がりがないものや、あまりにも時間がかかりそうな要素を削っていき、ゲームバランスを調整してゲームを完成させます。

補足として、プログラムやアートはどの段階でも作り込むことが可能です。ですが、できれば拡張フェーズで行うのが好ましいと思います。理由としては核となるゲームデザインが存在しない段階では、作っても手直しや破棄が発生する可能性が高いためです。

これらのゲームデザインのプロセスを理解するためには、以下の「3つの概念」が役に立ちます。

1. タイト
2. 弾力性
3. 広範囲

◾️1. タイトなゲームデザイン

タイトとは「引き締まった」という意味です。ゲームを構築する各要素か綿密に連携している状態をタイトなゲームデザインと言います。もしくはそれぞれがコンセプトを引き出すために存在している状態です。

タイトなゲームを作るための方法は以下の記事にまとめました。

関連記事:"タイト" なゲームの作り方を学ぶ方法

◾️2. 弾力性のあるゲームデザイン

弾力性は2つの意味で使われます。
一つはゲームを “拡張” できる弾力性です。ここでの拡張の意味は、ゲームの要素やルールを出しやすいかどうかです。もちろん、ゲームの要素をむやみやたらに増やすことは “タイト” ではないゲームデザインとなり、無駄が多くなって面倒が増える(例えば覚えるルールが多くなる)ため、遊びづらいゲームとなってしまいますが、オリジナリティのある要素について面白いかどうか検証したり、ゲームをある程度の規模に拡大するには、機能拡張が必須となります。
ただ、デジタルゲームを “拡張” することは容易ではありません。拡張には画像データの作成やパラメータの入力などリソースの追加が必要となり、それらを正しく動かすにはプログラムの修正が必要となります。そしてゲームが複雑になる程、実装のための時間や技術力などのコストが大きくなります。
ゲームを拡張しやすくするには、データを作り込まずに、あえて仮データのままにして “ゆるく” 作っておく、またはゲームエンジンを使って短期間でプロトタイプを作る、捨てる前提のコードを書く、という工夫が必要となります。

関連記事:ゲームのプロトタイプを素早く作る方法

手早くプロトタイプを作る方法についてこちらにまとめました。

弾力性の2つ目の意味としては、 “収縮” の弾力性です。ゲームは最終段階では無駄を削ってシェイプアップします。または、開発期間の都合で(=モチベーションが低下する前に)ゲームを完成させる必要があります。その際、削る要素がないとゲームをいつまでたっても完成させられなくなってしまいます。そのため「捨てるかもしれない」といった前提でゲーム要素を考えて追加していくことも大切となります。
とはいえ、ゲームというのは実際に動かしてみるまで「何が面白い要素なのか」ということはわかりにくいです。また最低限に要素を削りすぎてしまうと、ゲームとしてはとても簡素なつまらないものとなってしまいがちです。そのため “拡張” 段階ではコンセプトに合いそうな要素をどんどん追加していき、捨てる段階での最終的な判断基準は「自分が重視する要素は何か?」「それがなくてもゲームが成立するのか?」といったことを考えた上で絞り込むことになると思います。

■3. 広範囲なゲームデザイン

“広範囲” というのはプレイヤーの選択の幅が広く、自由度の高いゲームデザインを意味します。選択肢が多いということは、それだけ多くの機能がゲーム内に存在していることとなります。
このことは、一見ユーザーにとって良いことだと思われがちですが、ゲームを作る側にとっては開発コストが膨らむこととなり、広がりすぎた要素をうまくまとめられない場合、ゲームが破綻して完成できなくなります。
また “広範囲” の対義語は、”タイト” ではありません。ゲームの各要素に一貫性があれば広範囲であってもタイトなゲームとなります。

広範囲なゲームデザインを学ぶ例として TRPG があります。”Advanced Dungeons & Dragons” のルールブックは460ページ以上の詳細な取り決めがあり、最も広範囲なゲームデザインのモデルとされています。
ベーシックなTRPGとしては、”RuneQuest” や “Call of Cthulhu” があります。
これらのTRPGもしくは興味のあるTRPGを分析して、どのような広げ方があるのか、もしくは収縮させてコンセプトレベルの文書を作ってみるのも良いかもしれません。

TRPGにおける広範囲な要素の例としては「ダイスによる成功確率」を用いるスキルです。成功確率を細かく区切ることで、容易にスキルのバリエーションを広げることができます。

■まとめ

▼1. コンセプト〜プロトタイプ段階
最小限のアイデア・ゲームシステムであるため "タイト" な状態。また不完全であるため "拡張弾力性" が大きい

▼2. プロトタイプ〜拡張段階
ゲームを "広範囲" に拡張していく。ただしどこかの段階で "収縮" するため拡張要素はある程度限定される

▼3. 拡張〜収縮段階
広げるよりも "タイト" になることを目指してゲームを完成させていく

以下、ゲームデザインをする上での心構え。

* 初期段階からタイトな仕組みを作ることに集中する。それによりコンセプトの "核" となる要素が見極められ、開発プロセスを通じてタイトさを容易に維持できる
* タイトなゲームデザインを目指す場合、様々な要素がコンセプトに沿った一貫性を保った上での高度な表現を目指す
* 創造性を生かす機会を制限する。際限なく創造を広げることに対して自制心を持つこと。自分の欲望よりもゲームプレイヤーの要望を常に優先する
「ゲームに必要な新しい要素だけを加えよ。ミニマムな改革を目指せ」

■参考にした書籍

今回の記事は、第6章「ゲームデザインの基礎」を参考にしました。

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