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「ベストセラー小説の書き方」に学ぶゲーム開発

小説家を目指す人のための良い指南書として「ベストセラー小説の書き方」という本があります。

とても良い内容なので、ゲーム開発に応用する方法を考えてみました。

■成功の秘訣とは

成功の秘訣? それは単純なことである。
作家はおのおの自分のやり方を探り当てなければならないということなのだ。
作家は共同で作り上げられるものではない。
数学や物理、それにジャーナリズムでさえ、ある程度までは学校や教科書で学ぶことができる。しかし、小説については無理である。よい先生なら、小説の形式や構成について有益な説明を与えてくれよう。が、小説は形式以上のものだ。心を持ち、ひとりの人間の個性がはっきりと刻印されているべきものなのである。

ゲームを作るだけであれば、書籍やWebサイトのチュートリアルで学ぶことができます。ゲームエンジンを使うとそれっぽいものは作れます。しかし、自分だけのゲームを作ろうとする場合、参考にできる情報はなく「自分だけのやり方を身につける」しかありません。
オリジナリティを身につけるにはとても時間がかかりますが、「自分でないと作れないもの」でないと市場での差別化が難しく、独自性がないものを偶然ヒットさせたとしてもすぐに誰かにパクられて市場の優位性を失うことになります。

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■平均的な読者を意識して書く

クーンツ先生は、「わかる人にしかわからない内容の小説」を書くことが偉大な小説だと考えている人を非難しています。
小説の目的は、読者とのコミュニケーションであり、作品が読まれなければ、その目的を果たすことができず、作家が何かを伝えようとしている努力や価値があり、それが十分に深い意味があれば、多くの人に読まれ歴史に残る名作になりうる、としています。

そして多くの人に読まれるためには平均的な読者が求めている「8つの要素」を意識することが大切だとしています。

1. しっかりとしたプロット
2. 見せ場が多いこと
3. ヒーローかヒロイン、あるいはその両方が登場すること
4. 変化と想像力に富み、しかも説得力のある性格描写
5. 明確で自然な登場人物の動き
6. 綿密な背景描写
7. わかりやすい文章
8. 多少のリリシズムと強烈な印象イメージを豊富に盛り込んだ文体

これを読んで、確かに多くの人が遊んでもらえるゲームを作ることは大切だなと感じて、これをゲームデザインに置き換えてみました。

▼ゲームにおける平均的なユーザーがもとめるもの
1. 面白さの「核」がしっかりと存在している
2. プレイヤーに繰り返し「圧」をかけ、それを解決する手段が存在する
3. プレイヤーの主体的な行動により、ゲーム世界へ影響を与えることを評価する仕組みがある
4. 遊ぶたびに変化があり、繰り返しのプレイに耐えられる。考えさせる要素があり、最適な攻略方法を構築するのが楽しい
5. 入力に対する結果のフィードバックがわかりやすく提示されている
6. ゲームの各要素の相互作用が綿密に機能している
7. 遊び方がすぐ理解できる。キャラクターやUIを快適に操作できる。動かしていて楽しい
8. スクショ映えするインパクトのある絵が作れる

■流行りの要素を入れることについて

クーンツ先生は、流行りの要素を取り入れることを否定してはいません。ただ安易に流行に乗ろうとする危険性を提示しています。

大衆の興味が集中しているホットな話題にすぐ飛びついてプロットを立てるのも、また能のない話だ。というのもひとつには、この情報過剰時代では、大衆はどんな話題にもたちまち飽きてしまう。
そして作家がニュースを小説に書き終えたころには、大衆はとっくにその話題に退屈しきっている。

ホットな話題に飛びつく場合は鮮度が重要で、素早く提供しないと旬が過ぎた話題となってしまいます。また、流行りものは他のライバルよりも先に提供しないと売れないで、売れるのは一番乗りした場合のみです。
ということで、ネタ被りの危険性があるから、安易に流行に飛びつくのはやめたほうが良い、と言えるかもしれません。

■タイトルのつけ方

私はまず、キーワードを「悪魔」に決めた。
この言葉に簡単な修飾語をくっつけ、ひとつひとつのアイデアをリストにして、書きとめた。

冷たい悪魔
温かい悪魔
踊る悪魔
……

これがうまくいかないようなので、「悪魔」の前にもう少し複雑な語句をくっつけてみた。

暗闇にひそむ悪魔
わが心の悪魔
琥珀色した悪魔
……

このうちいくつかは面白いタイトルではあったが、私の気持ちにはしっくりこなかった。
次にキーワードに動詞をくっつけてみた。

悪魔が闊歩する
悪魔が寝ずの番をする
悪魔が這い回る
……

どのタイトルも興味をそそらなかった。
私は続けて、名詞と組み合わせた。

悪魔と海
悪魔と夜
悪魔と騎士
……

最後に、このキーワードには似つかわしくない言葉をくっつけてみたとき、私は正しい方向を見つけた。

弱虫の悪魔
悲しい悪魔
内気な悪魔
小さな悪魔
やさしい悪魔

この過程は、2つのありえない組み合わせが、新しいインスピレーションを生み出す、ということを教えてくれます。
ゲームでも、ありえないジャンルの組み合わせから、新しいジャンルのゲームが生まれるかもしれません。

■相次ぐ困難によって主人公を追いつめよ

クーンツ先生は、主人公を追い詰める危機を描くことで、ストーリーを盛り上げる方法を提示しています。
そして、主人公を追い詰める困難を考えるときの注意すべき5つのポイントを以下のものとしています。

①こうした困難は主人公の状況をさらに悪化させる物でなくてはならない
②どんな困難も、前の事件から必然的に生じるものでなくてはならない。
③物語を複雑にするために偶然の一致を用いることは避けるべきだ
④相次ぐ困難は決して登場人物の愚かさに起因してはならない
⑤最後の困難は最悪のものでなくてはならない

これをゲームの難易度やバランス調整の話に置き換えて考えてみます。

①こうした困難は主人公の状況をさらに悪化させる物でなくてはならない
→例:答えが明確で決まった手順をなぞるだけのゲームはNG

②どんな困難も、前の事件から必然的に生じるものでなくてはならない
→例:理由のない初見殺しはNG

③物語を複雑にするために偶然の一致を用いることは避けるべきだ
→例:くじを引いて当たりが出れば先に進めるという、プレイヤースキルを必要としない運ゲーはNG

④相次ぐ困難は決して登場人物の愚かさに起因してはならない
→例:失敗の原因はプレイヤーのスキル不足と思わせるようにしなければならない。ゲームの遊びにくさで難易度を上げるということをしてはい

⑤最後の困難は最悪のものでなくてはならない
→例:ラスボスはそのゲームの集大成となる障害でなければならない

■短編だけを書いていては、作家として認められにくい

長編小説は、他のどんなものを書くより、時間と労力と精神力を必要とする。が、経済面も含めたいくつかの理由によって、私は、最初から思い切って、長編を書くことをおすすめする。短編がお金になる可能性は、長編の100分の1にも足りない。読者が長編を求めているので、出版社もそれにならっているからだ。たとえ君の書いた短編が全部売れたとしても、たいした額にはならない。何百という短編から得られる収入総額は、それと同程度の原稿分量のすぐれた長編小説一編から得られる収入の、10分の1以下なのだ。

過去の記事で、大規模なゲーム作りは失敗しやすいから、まずは小規模なゲームを作るべき、ということ何回も書いています。

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ただ、ゲームを何本か作ってみて慣れてきたら、どこかの時点である程度大きい規模のゲーム作りをした方が、結局は高い評価を得てヒットするきっかけとなりそうです。
また、長く遊べるゲームにした方が、ゲーム作家としての独自性が出やすいのではないかと思います。

* 短いゲームの目安:数分で終わるゲーム
* 長く遊べるゲームの目安:クリアまで数時間〜10時間程度

何十時間も遊べるゲームは大規模開発なので、個人が作るのはなかなか難しいです。ですが、数時間から10時間程度であれば、数ヶ月頑張れば作れるのではないかと思います。

実際に個人ゲーム開発で生活している方に話を聞いたところ、「プロモーションは数ヶ月かけて行うので、最低でも一年近くかけて高いクオリティを出すようにしないと話題にもならないし、プロモーションにかける時間との割合が合わない」とのことでした。

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小説つながりの記事となります。「脚本を書くための101の習慣」を参考にして「ゲームを作るために必要な習慣」をまとめてみました。

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