見出し画像

ひとりぼっちの宇宙人─ウルトラセブン視聴記─ 宇宙囚人303《脱出の0.1分》

ひとりぼっちの宇宙人
─シューチョの『ウルトラセブン』視聴記─
第7話「宇宙囚人303」[A]

《脱出の0.1分》 ウルトラセブン登場時間最短記録の挿話

『ウルトラセブン』第1クール12話のうちの約半分は、格闘シーンがほぼありません。セブンに比べ敵対相手が弱い。驚きの弱さ(笑)。あっけなく片が付くのです。クール星人はアイスラッガー一発、チブル星人はエメリュウム光線の一撃でいずれも離れたまま倒され、メトロン星人との闘いはストップモーションの数カットで処理されます。また、ペガッサ星人は、アイスラッガーの一撃を腕に受け、構えていた銃を落とすと、怯えるように逃げ去ってしまいます。怪獣との格闘=とっくみあいが見ものであった『ウルトラマン』との何という違いでしょう。そしてこれが、そのまま「(ウルトラマンとは異なる)ウルトラセブンに固有のかっこよさ」を示します。

そして本話「宇宙囚人303」において、ダンは、墜落するβ号からただ脱出するだけのためにセブンに変身します。変身しなければ脱出できない状況なのは確かですが、その後も、格闘がないばかりかアイスラッガーや光線さえ使わないまま、キュラソ星人(の総体ではなく、脱獄囚であるこの単体)の最期を見送るときには何ともうダンに戻ってしまっています。セブンの“出演時間”はわずか6秒足らず!その内訳は、変身直後のスーツアクター2秒弱+脱出飛行のミニチュア2秒弱+林の茂みに無事降り立ったスーツアクター2秒。つまり、活動時間設定の短いことで有名なあのアイアンキング(1分間?)と比べても、その10分の1の時間でしかありません(笑)。これはおそらく、『ウルトラセブン』に限らずとも、あらゆる特撮ヒーロー中の一話に登場した時間の最短記録であろうと予測できます。

本話のセブン登場シーンは、ウルトラセブンというヒーローの軽快さを示す最たる例といっていいと思います。

さて、ではそんな本話の特撮シーン全体はどんなものだったのでしょうか。

キュラソ脱獄囚はアンヌを操って防衛軍基地に潜入、β号を盗んで飛び立ちます。アンヌが人質として同乗しているため、攻撃はできません。

───
  ダン「隊長、無謀な提案かもしれませんが…」
キリヤマ「…何だ」
  ダン「α号とγ号を使って、空中でドッキングするんです」
フルハシ「ドッキング?!」
……
  ソガ「敵も飛んでるんだぞ」
  ダン「それをやるんです!」
(挿入曲「ウルトラ警備隊の歌」開始)
───

かくしてウルトラホークのミニチュアワーク・シーンとなります。「ドッキング作戦開始!」というキリヤマのかけ声に合わせ、音楽がさらに軽快な「ウルトラセブンの歌 Part II」に変わり、3機を真上から見下ろすカメラワーク、キリヤマの迅速的確な指示、逃げるβ号、追いつく2機、火花の散るα号とβ号の接触、一度め失敗、二度め…。ドッキングの瞬間の連結音を聞いて、もはや子どもでなくなった今の私でさえ思わず小さく「やった!」と叫んでしまいます。

なぜでしょうか。それは、まさにこのシーンの撮影時、リアルなミニチュアワークを苦心の末に成し遂げた大人たち自身がその瞬間に心の歓声をあげたからではないでしょうか。…と、想像だけで嬉しく青臭く言っておくことにします。

ドッキング成功後、ダンが操縦席の星人を取り押さえ、ソガがアンヌを救出するも、β号に残ったダンに星人が火を吐き応戦、室内は火災となります。ダンにβ号を切り離すよう進言されたキリヤマがそれを実行…、そして上述の6秒間の脱出シーンとなるわけですが、この空中劇は実に3分26秒、セブン登場時間の約34倍を費やします。長くて短い、わくわくする場面の連続。この稚気あふれる演出は、むしろ第1クールの特撮場面の中で最も記憶に残るものの一つといってよいでしょう。ここでは、「3体に分離するウルトラホーク1号」という活性フィクションが、みごとに作用しているのです。

さて、キュラソ脱獄囚は自ら招いたβ号爆発の炎が体内のガソリンに引火して自爆に至るのですが、このとき、ダンのモノローグは宣言します(心中語ではなく生の独り言として発声されます)。

───
「広い宇宙でも、もう君の逃げ場はないのだ、キューラソ星人。だがそれは自業自得というべきだ。宇宙でもこの地球でも、正義は一つなんだ」
───

《ダンのセブン性》を象徴する台詞です。(例えばキリヤマなど)地球人が言えば手前味噌に聞こえるこのような言葉を、宇宙人であるダン=セブンが言うことで客観性・第三者性が保たれます。と同時に、セブンの姿でではなく地球人の姿のダンとして言うことで、正義を目指す地球人を代弁しているという意味も備わってきます。

スーパーヴァイザーとしてのダン=セブン

以上のように、本話では、宇宙人の侵略侵入に立ち向かう地球人を導くスーパーヴァイザーとしてモロボシダンは存在します。率先してアンヌ救出のアイデアを出すことでウルトラ警備隊の作戦・行動をリードし、また、ナレーションの形で間接的に“宇宙の中の人類”の目指すべき正義の理想を示しました。ここに既に、“地球人の”ダンと宇宙の超人セブンとの二重性を見いだすことができます。けれども本話では、少なくとも人類─地球の側から見て非があるのは明らかにキュラソ脱獄囚の方であり、それは人間の目にもダン=セブンの目にもひとまず疑いようのないことです。ですから《ダンとセブンの二重性》といっても、ダン=セブンの超能力の行使と成功、発する言葉の正義と正当性など、その明るい側面がストレートに伝わってくるのみであり、その奥にある矛盾や葛藤までは表出されてきてはいないのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?