たばこ。
似合わないと、言われながら、吸っていた時期。20年ほど前の、まだ身軽な独身だったころ。
父や、はたまた父の連れたちが、無遠慮に煙を吐くのを、小さな頃から、あれほど嫌悪していたのに。
花火のようにライターで火をつけても、それは虚しく焦げるだけ。
咥えて吸いながら火をつけるんだ、こうして…と、教えてくれたのは誰だったかな。
チリリと小さく燃えて。
青い煙と、口からすーーーと吐く 肺を通った白い煙と。
灰皿にトントンと灰を落とす仕草が、わざとらしくならない程度には、喫煙者になっていた。
大人になったような、一人で大丈夫なような、そんな気がしていた。ちゃんと一人でいられる、知らない街でも、知らない人とでも、どこでも行けると。
スケルトンのウォークマンに、ジャミロクワイを聴きながら。背伸びをしてサンタナまで聴きながら。
マイルドセブンLightから、マルボロLightになり、セーラムslimになっていくのに、誰と出会いどんな仲を築いたのだろう。
結婚をして出産をするころに、たばこはやめてしまった。あれから周りにも、喫煙者は激減して、代わりに充電式の電子たばこを吸っている。なんだ?それ。
2、3年前に、こっそりとたばこを買って、こっそりと一人で吸ってみた。
大人みたいだった。
一人で大丈夫な気がした。
すーーーと吐く煙に、身軽になったような気がした。
トントンと灰を落とす仕草は、もう恥ずかしいくらいぎこちなく見えたけれど。