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リーダーシップの定義とは?|『学習する組織』を分かりやすく解説

組織の中にいて、「あの人がリーダーなんだから、あの人が決めるべきだ」と思った経験はありませんか?

「トップが意思決定しなければ、私は動けない!」と思いながら仕事をした経験がある方も多いのではないでしょうか。

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私たちは、組織や社会の変化を語るとき、英雄のような個人に焦点を当てます。変化はトップから起きるものだと考えています。

しかし、変化していく組織があるとき、そこに影響を与えているのは、実は職位や権限を持つ立場にいるリーダーだけではありません。

学習する組織において、誰もがリーダーとなり得ます。そして、変化はただトップから起きるのではなく、あらゆる場所で起きます。ここでのリーダーシップについて紹介していきます。

役職に関わらず、境界線を越えて一歩踏み出す人がリーダー

組織を語るとき、私たちはしばしば職位や権限を持っている立場の人をリーダーと言います。このとき、リーダーを「トップ」や「ボス」と言うこともあります。

しかし、『学習する組織』の著者であるピーター・センゲ氏はこう問い掛けます。

もしも、「リーダー」という言葉が、ただ「ボス」のことを指すのなら、どうして2つも同じ意味の言葉が必要なんだ?

振り返ってみれば、私たちは、どこかでトップやボスという職位や権限を持つ役職としてのリーダーと、ビジョンがあってリスクを取る勇気のある性質としてのリーダーを使い分けています。

『学習する組織』においては、公式な役職や責任範囲に関わらず、誰もがリーダーとなり得ます。ここでのリーダーとは、境界線を越えて一歩踏み出す人のことです。(これについては、前回の記事で詳しく解説しています)

現実にシステムの変化を成し遂げた事例を洞察していくと、リーダーシップについての重要な側面、つまり「集団としてのキャパシティ」が見えてきます。

システムに変化を起こした3つの事例

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「私には夢がある(I Have a Dream)」の演説で有名なキング牧師は、私たちの間では偉大なリーダーだと語り継がれています。

アメリカの公民権運動と呼ばれる大運動の中で、当時、奴隷が解放され、法律が変わっていきました。(詳細は、Wikipedia「バーミングハム運動」より)

その変化が起こったのは、キング牧師以外にも、自分の命を落とすリスクがあっても立ち上がろうとする人々が存在し、彼らの行動が多くの人を巻き込むうねりを生み出していったからです。

これまでの社会に疑問を持たずに暮らしていた人たちや、見て見ぬフリをしていた人たちが、傍観者であることを止めて、自ら行動を起こすことを決めました。こうした多くの個人のリーダーとしての行動こそが、この変化を導いていました。

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人種によって座席が分けられたバスの中で、席を譲ることを拒否して逮捕された女性、ローザ・パークスの話を聞いたことがありますか?(詳細は、Wikipedia「ローザ・パークス」より)

私は仕事で疲れていたのではありません。ただ屈服させられることに疲れていたのです。

逮捕された後、そう言った彼女。境界線を越えて一歩を踏み出すその行動が、多くの人の心を動かし、公民権運動を巻き起こしました。

また、「裸の男とリーダーシップ」という動画を見たことがある方もいると思います。この動画では、1人目のフォロワーの重要性を示しています。

特定の個人だけではなく、全員がリーダーとなり得る

勇気を持って誰よりも先に行動する人や、多くの人の心を打つスピーチを行う人は、確かに存在するかもしれません。

しかし、本当にシステムの変化を目撃したいならば、カギとなるのは英雄のような個人ではなく、複数の人が自ら一歩踏み出すことで生まれる、集団としてのリーダーシップなのです。

ところが私たちは、その事実を伝えるときに「キング牧師が立派だったから変化が起こったのだ」と、偉大な個人を変化を起こせる唯一のリーダーとして祭り上げてしまうのです。実は、そこにリスクがあります。

もしも偉大な個人だけが変化を起こせるリーダーなのであれば、それ以外の人はリーダーではなくなってしまします。

「公式な権限を持ったボス」=「リーダー」と捉えてしまうことは、集団としての無責任を生み出します。

さらに、このメッセージは、さまざまな階層におけるリーダーの多様な役割を理解し、根源的な変化の持続を可能にするリーダーのネットワークをどのように構築するかといった、はるかに複雑で重要な課題から、私たちの目を逸らさせてしまうのです。(『学習する組織』p.460より)

『学習する組織』は、特定の個人だけではなく、全員がリーダーとなり得ると考えています。役職に関係なく、それぞれが自分のいる環境でリーダーになるのです。

「そのような集団としてのリーダーシップが、今ほど必要とされている時代はない」とセンゲ氏は言います。私たちが直面している課題は、環境、社会、経済、組織や政治など、どれ一つをとっても、偉大な個人だけでは解決できないものばかりだからです。

こちらの記事で、センゲ氏が上記と関連する内容について語った文を翻訳しています)

3種類のリーダーの存在が必要

『学習する組織』から10年後に出版された『フィールドブック・学習する組織「10の変革課題」』の中で、センゲ氏は、実際に組織が変わっていくとき、そこには3種類のリーダーが存在することを紹介してしています。

権限や責任(authority)を持った人にリーダーとしての役割があることは当然で、この立場の人をエグゼクティブ・リーダー(Executive leader)と言います。(『学習する組織』 p.460 では幹部クラスのリーダーとされています)

このエグゼクティブ・リーダーの一声によって組織が変わるかというと、決してそうではありません。

例えば、新しい社長がやってきて立派な演説をし、そのときは全員が「みんなで頑張っていこう!」という気持ちになったとします。ところが、いざ仕事を始めてみると、以前と何も変わっていない。これはよくあることだと思います。

組織が変化するときには、エクゼクティブリーダーの他に、現場のリーダー(Local line leader)と社内のネットワーク・リーダー(Internal networker)の役割を担う人がいます。

現場リーダーは、各部門のマネージャーやチームリーダーとしての責任を負っているリーダーのことです。

『学習する組織』では、インテルのデイブ・マーシング、元フォードのロジャー・サイヤンなど、確信的な慣行を日々の仕事に組み入れるために欠かせない現場のリーダーが紹介されています。

そして、ネットワーク・リーダーは、特定の役職についていなくても、人と人を繋ぐ役割をする人のことです。

『学習する組織』では、ユニリーバのブリジット・タンタウィ=モンソーやインテルのアイリーン・ギャロウェイといった、組織内に変化の種を運び、人をつなげるリーダーが紹介されています。

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このように、様々な役割を担うリーダーが組織のあちこちにいること、そして複数のさまざまな階層のリーダーたちが生態系としてつながり合うこで変化が起こるのです。

みなさんの経験を振り返って、何か大きな変化を経験しているならば、スポットライトを浴びた英雄の影に、多くの「リーダーたち」がいたことに気が付くでしょうか?

『学習する組織』p.457 第15章「リーダーの新しい仕事」より

リーダーシップとは、未来を創り出す力である

『学習する組織』におけるリーダーシップとは、全体を見通し、未来に向けた計画を立てて、人々を動かす、英雄だけのものではありません。

それどころか、組織やシステムの変化において、「深い変化が、偉大な個人のみによって起きるのを、私は一度も見たことがない」と、センゲ氏は語ります。

こちらの記事で、センゲ氏が上記と関連する内容について語った文を翻訳しています)

センゲ氏は、リーダーシップを「人間のコミュニティが自分たちの未来を創り出す力」と定義しています。

リーダーシップとは、私たち一人ひとりがそれぞれの場所で一歩を踏み出し、実現してほしいと願う未来を、共に実現していく力のことです。

個人のものであると同時に、集団の力でもあるのです。そしてこれが、私たちの未来を創り出すために必要なのです。

最後までお読みいただきありがとうございます。この記事は、システム思考教育家である福谷彰鴻の講義を基にして作成したものです。

初めての方は、こちらをご覧ください。

(文:建石尚子 監修:福谷彰鴻)

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