実践_顧客起点マーケティング

【書評】実践 顧客起点マーケティング

勇敢なマーケターほど、解をシンプルなアプローチで求め、その分の時間・工数を実践に費やす。「実践 顧客起点マーケティング」も、肌ラボ、ロクシタン、そしてスマートニュースでの勝利のメソッドを簡潔に、実践を交えて説明している。だからこそ力強く、説得力が増すのではないだろうか。

僕がこの本を読み、特に胸に響いた箇所は以下の3点だ。これをそれぞれポイントを抑えて説明しようと思う。

1.顧客のセグメントをシンプルかつ大胆に規定する

本の中では、ロクシタンやスマートニュースでの取り組みを踏まえて顧客をピラミッドや9セグマップを用いて、それぞれの興味度から振り分けている。(この顧客ピラミッドや9セグマップは、書籍紹介のWebサイトでその一部が公開されている。太っ腹...)

企業に利益をもたらす顧客は大半がロイヤル顧客、残りを一般顧客というピラミッドの上位のみに規定し、他の顧客はいわばアプローチするだけでは赤字となる顧客。しかし、利益をもたらさないからといって赤字顧客を軽視して良いわけではない。

これらを非常に明快に、ストレートに言及している。この事実は、少なからずマーケティングに携わる人間であれば概念的には理解していた事であろう。しかしそれをここまで明快に言えるだろうか。しかも事業主サイドから。

ブランディングやら、事業主サイドならではのしがらみなど、ストレートに顧客起点のマーケティングを推進するには、実際は様々な障壁があるように思うが、そのようなしがらみや内部事情の話などがこの書籍には一切ない。だから読んでいて気持ちが良い。マーケティングを推進するのはこんなに気持ちの良いものなのか、と改めて憧れすら持たされる。

2.KPIはシンプルに。だからこそメディアの効果を適切に評価できる。

スマートニュース利用顧客のセグメント設定の方法はとてもシンプルだ。

ロイヤル顧客=毎日スマートニュースにアクセスする顧客
一般顧客=毎月スマートニュースにアクセスする顧客
離反/新規顧客=それ以外

これを踏まえ、アプリのビジネスモデルであるAARRRモデル(Acquisition 獲得 / Activation 活性化 / Referral 紹介 / Retention 継続 / Revenue 利益化 )にはめてそれぞれのフェーズ毎に最適なメディアプラニングを行い、施策を実施しているようである。

見るべきKPIがシンプル(DAU、MAUなど?)だからこそ、それがマス・デジタル広告に関わらずそれぞれの効果を正当に評価することが出来る。それゆえにこれを追うチームはとても強固になるように思える。

商材がアプリだから、などの事情にとらわれず、ぜひとも自分が担当するブランド・商品でも置き換えてトライして見たいアプローチだ。これもまた、前述の事情にとらわれずに効果を純粋に追うことが出来る、美しいマーケティングであるように思う。

3.N1という原石を磨くことに躊躇しない。

僕が一番感銘を受けた姿勢がこれだ。

N=1を見出す分析・メソッドは、それがN=1だということで効果を軽視されがちだ。1名の発言、行動であるから説得力がない。もっと多くの顧客を動かす事の精度を高める、ボリューム的な裏付けが欲しい、と。

しかしこの反論、この本はマス思考というワードで一蹴する。マス思考はアイデアを平たい、のっぺりとした特徴のないものにしてしまう。これを施策にしても人の心を動かすことはできない、と。

この本ではまずN1思考からエッジのあるアイデアを見つけ、これをスモールスタートでスピーディーに施策化に徐々に拡大するアプローチを推奨する。魅力的な商品・ブランドだけでは心が動かされないユーザーを揺り動かすためのスッキリとしたアプローチであるように思う。(少し泥臭くもあるが)

個人的にはこのN=1を導き出す手法としてインタビューだけではない、ソーシャルリスニングが非常に重宝するのではないかなぁ、と思っていたりもする。


以上、この本で書かれているマーケティングはとてもデジタル的で、現代的で、実践的である。理論を学びたい人よりも、自分が取り組むマーケティングに効果的な変化を及したい人向けの本であると思う。マーケティングに携わるからには、顧客を動かしてなんぼ..と思っている人であれば、読んで損はないのでは?

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