アドベント短編(87/365) 空が見えていた時代
ある日、街の公園の真ん中に、緑色の玉が浮かんだ。
玉の真ん中には100と書かれていた。
玉に気づいた者は、「なんだろう」と思いながらもその前を通過した。
1日後、緑色の玉が少し大きくなっていた。数字は99になっている。
昨日玉を見た者は、「数字が変わってる。あれ、昨日こんなサイズだったか?なんだろう」と思いながらも、その前を通過した。玉が、昨日より少し上に移動しているのに気づくものはなかった。
それから1日過ぎるにつけ、玉は少しずつ大きくなり、高く登っていった。
数字が80になる頃、同じ時間に公園に集まる人が増えた。
数字が70になり、地方局のビデオカメラが玉を写すようになった。
数字が60になる頃、自治体が得体の知れない玉の正体を調べ始めた。
数字が50になる頃、玉は街のどこにいても見える大きさになった。公園には玉を模倣したアイテムを売る出店や、玉をモチーフにした大道芸を行う者が増えた。
数字が40になる頃、公園の駐車場は全国津々浦々のナンバープレートで溢れた。
数字が30になる頃、公園には数字が0になった時に起きることを語る預言者が集まり始めた。
数字が20になる頃、玉は街を覆うほどの大きさになった。玉に関する話題に、ナーバスになる者も増えた。
数字が10になる頃、国は玉の話題で染まった。0になる時、何が起きるか。何が起きて欲しいか。何が起きて欲しくないか。緑の玉は、もはや誰の心の隅にもある存在となった。
数字が3になる頃、国が玉を宝に指定すると決めた。ある者は喜び、ある者は離れ、ある者は離れた者を否定した。
数字が1になり、緑の玉は国のどこにいても見える大きさになった。街は玉を見に来たもので溢れ、数歩も動けないほどだった。
そして、数字がゼロになった時、玉はパンと軽い音と共に弾け、跡形もなくなった。
ある者は胸をなでおろし
ある者は感謝し
ある者は怒り
ある者は玉の消滅に関する論文を描き
ある者は玉をきっかけに富み
ある者は玉のこれまでを辿りはじめた
玉は、ただ存在し、ただ変化し、ただ消えた。世界は、100日かけて、100日に戻っただけである。
しかし、公園では、玉のモニュメントを設置するための足場作りが始まっている。
間もなく、この街の空も、巨大なモニュメントで埋まるだろう。
もう、空が見えていた時代には戻れないのだ。
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