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会社の中心で「愛」を叫ぶ。「成長の踊り場」で一番大切にすべき人|カルチャーデザイン

"成長の踊り場"

特に成長角度が著しいスタートアップは、一度「停滞」が訪れると一気に「負のオーラ」が噴出することが少なくありません。

その「負のオーラ」は、「不満」「愚痴」「批判」という「目に見える形」を伴って、スータトアップという荒波の航海をさらに難解にする「内紛」の火種となり、場合によっては2度と修復不可能な「船底の穴」となる可能性があります。

そんないつか見た景色、疑似体験のように聞く話、様々なコンテキストをミルフィーユのように心の中に積み重ねて行くにつれ、見えてくる一つの本質があります。

先に結論を書くと、急激な事業成長の後に「成長の踊り場」に来てしまった時、必ず「組織課題が噴出」します。そして、そんな時に会社が最も大切にするべきなのは

会社の中心で「愛」を叫ぶ人です。

なぜ「成長の踊り場」に組織課題が噴出するのか?

核心を語る前に、まず前提を整理しないといけません。

事業の成長や売上が鈍化する、いわゆる「成長の踊り場」に直面した企業において「組織課題」が噴出する理由は、次の3つに集約されると考えています。

1. 「成長」というポジティブ要因が薄まり、相対的に「問題探し」というネガティブ思考がマジョリティを占める
2. ネガティブな問題探しは、大抵の場合「チーム」「人」に行き着く
3. そもそも「成長」によって隠れていた組織課題が明るみに出る

良く言われるのが「事業成長が全てを癒す」ということ。
これは本当に真理だと思っています。成長の踊り場においては、どうやったって上記1〜3の理由により組織課題が噴出する(もしくは急に噴出したように見える)のですが、結局経営のできることは「結果」を出すこと。つまり意地でも成長ラインに進路を戻すことです。

ただし、これはあくまで理論であり正論。実際にモグラ叩きのように湧き出る「踊り場の組織課題」に足を取られず、注意とリソース損なわずにアクセル全開のハンドリングをするのは至難の業。

だからこそ、どんなに調子よく成長している時でも、自らの拡大する身体をヘルシーに保つ努力を怠らないこと。血流(コミュニケーション)が健全かに常にアンテナを張り、取り入れる栄養(採用)が常に自らに合っているかを入念に確かめ、外ばかり向かず身体という内向き(組織)のケアを大切にすることの重要性は、このnoteでも何回も述べた通りです。

さらにこの観点を深掘り、組織がとりわけ大きな打撃や内的崩壊、賛否を伴う大きなチャレンジに向かう際に、最前線でゴールを狙うプレーヤー以上に大切にすべきだと思う人材、いや、「人財」がいます。

それが、冒頭に結論として述べた"会社の中心で「愛」を叫ぶ人"なんですね。

ネガティブリーダーに、足元を救われるわけ。

急激な「成長の踊り場」をインサイダーとして経験した人は分かると思いますが、それは定量的な現象だけではなく、「空気」であり「ニュアンス」であり、言葉には尽くせない「流れ」のようなものです。

向かうべき方向とは違う濁流に飲まれ、息苦しく、光も見えないような現場では、どうしたって「人」はやる気、勇気、元気に代表させる「気」をポジティブに発揮することはできません。

むしろそんな「踊り場」で頭角を表すのはネガティブなオピニオンリーダーです。社会やネットのあらゆる世界を見渡せば明らかですが、ネガティブは少数で簡単にポジティブを駆逐し、その矛先は大抵の場合特定の「人」に向かいます。そして、経営や現場は、そんなネガティブリーダーの対応や火消しに注意とリソースが取られ、船を前に進めるエネルギーを根こそぎ持って行かれてしまうというが、「成長の踊り場」における代表的な現象です。

一見すると、この現象、組織課題における「解」は、そんな組織の「ガン」となった箇所を外科手術や薬、漢方でなんとかして小さく、できれば完全に取り除くしかないと思われがちです。北風と太陽で言えば、圧倒的な「北風」施策です。

一方で、「太陽」に可能性は無いのか。いや、むしろこんな時こそグレーとなった影を完全に明るく照らす「太陽」が必要なんです。特に日本では「北風施策」の現実性が低いので、暑く太陽で照らして、自然と出て行ってもらうのを待つしかないんですね。

「踊り場」という圧倒的グレーゾーンで、文字通り「踊れる奴」を探せ。

全ての会社・組織における「成長の踊り場」が同一シチュエーションであるはずが無いので、一網打尽な解は存在しないのですが、この際に最も重要なのが「正しい組織情勢」の理解、把握です。

成長の踊り場という不安定かつ平坦なステージにおいては、人の心は移り気で、流れる空気は玉虫色であり、組織情勢のマジョリティを占めるのは白も黒もハッキリ言わない(言えない)グレーゾーンです。

これは政治、選挙に通ずるものがあると感じているのですが、実際稀代の政治家、田中角栄は次のような名言を残しています。

世の中は、白と黒ばかりでは無い。敵と味方ばかりでもない。その真ん中にグレーゾーンがあり、これが一番広い。そこを取り込めなくてどうする。天下というものは、このグレーゾーンを味方につけなければ、決して取れない。真理は常に中間にありだ。(田中角栄)


成長の踊り場では余裕がありません。そうすると、目立つネガティブリーダーの声や空気が、まるでマジョリティであるかのように錯覚してしまうんですね。ただし、実際のマジョリティは白とも黒とも言わないグレーゾーンです。

故に、そんな時にネガティブリーダーの対立候補として、黒ではない希望の光を照らす

「インターナルリーダー」「エモーショナルリーダー」
(以下、I/Eリーダー)

の存在が必要なんです。

つまり、会社が踊り場で苦しい時ほど、

「私は会社を愛している」

「俺はミッションを信じている」

「私が会社を守り抜く」

こういったエモーショナルな言葉を、恥ずかしげもなく、後ろめたさもなく「言い切れる人財が社内どれだけいるか」が勝負です。

上記組織情勢の構造理解からもわかる通り、I/Eリーダーが大勢いる必要がありません。

大切なのは、暗闇で光も希望も見えない息苦しい「空気」に対して

「この会社を肯定してもいいんだ」

という気づきと、明るい光、新鮮な空気を生み出してくれる人財です。

私は良く「踊る」という言葉を使うんですが、文字通り成長の踊り場というステージで、批判や白い目を気にせず「愛」を掲げて踊り続けられるか

そういう人財を育んでこれるかが、成長の踊り場を乗り切る組織デザイン力の試金石となってきます。

「愛」で踊る力は、本物なのか?

こういう話をする時、私の大好きな動画があります。

TEDにおける有名な動画なので観たことがある人も多いでしょう。
成長の踊り場の話をしている上で運命的なのですが、文字通り「ひとりの踊るアホ」が踊り続けてることでいかに周囲を巻き込んでムーブメントにするかという動画です。

ご存知ない方のために、このプレゼンの趣旨で学びが深いのは

「ムーブメントを起こすには、最初に手を挙げたより、実はフォロワーが大切である」

ということですね。この理論には、実体験としても非常に賛同することが多いです。しかし、逆に薄れてしまいがちで忘れてはいけないのは、

「とは言えフォロワーと同じぐらい、最初に踊る人がいなければ何も始まらない」

ということです。

「成長の踊り場」で真に重要なのは、まずリスクを厭わず「会社」を自らのど真ん中において「踊りつづけられる人」。此れをそれまでの事業成長過程でしっかり育てられたか、という組織デザイン力に尽きます。

繰り返すと、

踊る人も大事。

踊り続けることが大事。

そんな「I/Eリーダー」を内的に承認して重宝することが大事。

踊り続けるI/Eリーダーの梯子は絶対に外さないことが大事。

I/Eリーダーをフォローする少数のメンバーも同じぐらい大事。

そして、

順調な成長時も「此れをデザインし続けること」が大事。

これが組織の基礎体力としてできていれば、ある程度の成長の踊り場は怖くなくなるのではないでしょうか。

ネガティブオピニオンリーダーが突如現れても、実際のマジョリティはまた虫色かつ心はグレーです。ポジティブサイドの対立候補を立て、全面的にバックアップする。そんなI/Eリーダーを育てる覚悟が、経営と組織デザインサイドには問われているのです。

例えば、こんなインターナル/エモーショナルリーダーの実話から。

最後に、2つほどI/Eリーダーの事例を印象したい。

【1】2015年ラグビーW杯、廣瀬俊朗のオフフィールドリーダー力

このnoteを書きながらまず最初に思い浮かんだのがラグビーの元日本代表キャプテン、廣瀬さん。彼は日本ラグビー界を今の地位まで押し上げた間違いない功労者であり、当社の株主でもあります。

そんな彼のストーリーで、未だに最も心を打つのがキャプテン・スタメンを外れてからの、まさに「チーム愛」。

こちらの記事にもアウトラインが紹介されているので是非読んで頂きたいのですが、あらためて彼がI/Eリーダーとして優れていたのは

1. 日本代表における各個人の野望を、ひとつ上のレイヤーの「大義」に持っていったこと
2. キャプテン・スタメンを外れてからも、上記大義からブレずに背中で範を示し続けたこと

記事から引用すると、

「試合に出られないのは悔しいですが、挫けずにがんばっていれば、次のフィールドでも何かの成長につながります。エディーさんの厳しい練習を通して、やっぱりタフになってきました。今後の人生、何があってもへこたれないのかな(苦笑)。みんなにも言っているんですが、このチームのメンバーが好きなんです。つらいと思っても、この仲間と一緒にラグビーがしたいという気持ちの部分が大きいですね」

ずっとキャプテンシーを発揮していた人間が、ひとつ裏方に回った時にどのようなメンタリティでいるのか、どんな態度を示すのか、どんな想いを言葉に発するのか。そんな重責を心得た上で、チームカルチャーに太い背骨を通す彼の言葉に、真のI/Eリーダーシップを感じざるを得ません。

【2】Goodpatchの組織崩壊時における組織デザイン力

もっとスタートアップにおいて身近な事例でいうと、やはりGoodpatchさんでしょうか。実際に土屋さんからも聞いていましたが、まさにGoodpatch愛を語る新入社員の存在が、組織崩壊の現場において大きく流れを変えました。

少し引用させてもらいますね。

SXSWに行くために6名のメンバーがプレゼン大会に参加したのですが、そのプレゼンの場に出た当時の新卒1年目のカツキのプレゼンは組織の流れを変えていく大きなキッカケとなりました。

「僕は経験も少ないし、ノウハウのプレゼンもできないけど、このGoodpatchの事が大好きです!僕はこの会社を世界で一番有名なデザイン会社に成長させたいです!SXSWでGoodpatchを世界に売り込む経験をさせてください!」

このプレゼンを見た多くの社員が心を打たれました。2016年の末から組織が崩れていく中で、誰もがメンバーの前で「会社の事を好きだ」と言うのを怖がっていました。古株で残ったメンバーも、思っていたとしても言えない空気というのが組織にはありました。それが、新卒が発表したこのプレゼンを見て、多くのメンバーが勇気をもらい、共感のコメントを送り、カツキはプレゼン大会に見事優勝し、SXSWへのチケットを勝ち取りました。

この時に僕は会社の流れが大きく変わると確信しました。ここが底だと。

まさに本noteにとって綺麗すぎるお手本なのですが、まず組織崩壊時も土屋さんは「組織文化において新卒が大切だ」と健全な組織デザインをし続けました。結果として、純粋な新卒の一人が「Goodpatch愛」を語り、社内に広がっていたグレーゾーンに、「愛を語っても良い」という心理的安全性をもたらしました。

結果論として、この新入社員のI/Eリーダーとしての活躍が素晴らしいですが、やはりこのタイミングで「Goodpatchが好きだ」と言わせる「新卒採用」を前年に実施し、結果としてそれをデザインしたGoodpatch経営チーム、人事チームの「組織デザイン力」が際立っている事例だと思います。

実際、人事側のインサイダーにも、どんな時もブレずに「愛」を語り続けた人財もいます。

彼女はこちらのnoteにある通り中途入社ですが、限りなくピュアな想い、ビジョン・ミッションへの極めて高い共感度を持った人財だったということが分かりますね。

また、こちらのnoteでも書きましたが、

「企業文化の伝承」という意図で新卒採用を組織づくりのコアに置いているサイバーエージェントなど、多くの企業から「文化の純正培養」がいかに成長の踊り場、組織停滞の時期に「要」であるかを痛感させられます。

中途の"血液"というのは、どうしても過去の成功体験などが混じった"混血"であるが故に、一度自らの血液型と違うと拒絶反応を起こしてしまうと、簡単にはポジティブに戻れない不可逆な細胞である場合が多い。純血である新卒は、そういった"一見「良い/悪い」、でも実は「好き/嫌い」”の判断軸に惑わされることなく、文字通りすべてを血肉として吸収していける存在なんですね。

即戦力である混血を献血するということはチャンスでありリスク。実力があり、経験がある人材ほど、一方でそういった「不可逆拒絶リスク」を抱えているが故に、組織デザインは本当に難しいですが、

会社愛。

チーム愛。

これらに想いを乗せて発信できる人材や企業文化を、いかに育みデザインするか。これらは時にとても人間臭い、組織デザインの醍醐味でもありますね。


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