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初夏のさよなら

今年の暑さの脅威はすごいもので

食べたいものが浮かばない程だ

食欲が落ちたとまでは言えないが

何だかしつこい味のものは食べたくない

どうにも口が嫌がってしまう


梅雨の明けきらない7月の終わりに

ぼくは途方に暮れていた


肉じゃないな

魚かなぁ…


あっさりと淡白な味のもの

それでいて しっかりと旨味のあるもの

食べて元気になれるもの

何か 無いかなぁ

·

·

夕飯を食べに入ったお店の

手にした お品書きに

ぼくの目は釘付けになった

『あ!まだ鱧(ハモ)がある!!』


ちょっと遅いけど 食べ納めしよう

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ぼくは鱧愛が強いのかもしれない

同じ夏の魚でも 鰻より断然 鱧が好き

ええ、だって これを想像してみてほしい


何とも涼しげな器に

添えられた梅肉がキリッと味を締める

透き通るように繊細な白い身は

つるりと舌に乗っかり

ホロリと口でほどける

それでいて舌に残る余韻は

「もう一口…」を誘う不思議

薬味と共に喉を通る

爽やかで艶やかな風味


鱧(ハモ)よ 何故そんなに旨いのか

ギザギザの歯の 怖い顔した魚なのに

何故にそんなに

上品な令嬢のような味なのか

見かけじゃないのは 人だけじゃないね


最後のひとくちを

噛みしめるように味わって

さあ、もう夏本番

鱧(ハモ)との夏は 終わってしまった

だけどまた 来年の初夏に会おう


“ごちそうさまでした”

ぼくは今年もまた

初夏のさよならをした





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