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爪を塗るひと

想い出のディテールをなぞる

その縁取りでつい 指を切った

赤くにじんでくるものは

唇に挟んだだけで吸えないタバコに似ていた


爪を塗るのは 髪を触る癖と同じ理由よと

彼女は言う

自分で自分を慰めているのだと

気づかずに求められたさを

振り撒いてしまうのだと

逆効果でも何でも

そうせずには居られないのだと



『あなただってするでしょう 自分で』



それはたぶん

求められたいのとは違うのだけれど

最後までぼくは言わなかった

言わずにただ 彼女を聴いていた


それ以来

爪を塗るひとを見ると

とても辛くなる しんどくなる


彼女が爪を塗るひとの基準かはわからない

それでも何か彼女のように 抱えるひとが

爪を塗ることで自分を慰めて

声にならず求めているのだとしたら



ぼくはそっと目を伏せて

爪を塗るひとの憂いを見送った









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