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わたしのダイニングテーブル

冷蔵庫が空っぽだったり、どうも食事を作る気にならない時がある。

そんな時、私はある電話番号を押す。

「あの~、XXですが、今空いてます?」と聞くと、だいたい

「あ、大丈夫よ〜!どうぞどうぞ」という元気なおばさんの声が返ってくる。

すると私はいそいそとアパートを出て、急坂をなかば転げるように降りてゆく。

繁華街から一本離れた住宅地の中にそのお店はある。

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この写真の中にその居酒屋がある。お昼間だと本当に普通の住宅地

何年か前に、真っ赤っかの看板がついたので、夜目にそれはくっきりと浮かび上がっていてちょっと怪しげな雰囲気でもある。

なかなか開かないドアをよっこらしょと開け、縄のれんをくぐり、

「こんばんわ~、また来ました」とあいさつをすると、

「ああ~、いらっしゃい!」と元気のよい声に迎えられる。

ここは、シドニーでいちばんオーセンティックな居酒屋だ。

このお店を知ったのはいつになることやら。食べ物に詳しい日本人の友達に誘われて行ったんだったっけ。家の近所にこんな隠れ家的な居酒屋があるなんて。

カウンターには日本酒、焼酎の瓶がずらりと並び、レトロなお酒や映画のポスターが貼られている。今でこそ”Izakaya"が人気になってきていて、シドニーのあちらこちらに居酒屋はあるけど、やはりここだよね。

今日は何を飲もうかな。ま、適当に任せます!

そして今晩は何を食べようか、と壁にある手書きのメニューを見る。

そんな凝ったものがあるわけではないけど、何を食べても美味しい。美味しいと言っても、人をびっくりさせるような美味しさではなくて、食べてほっとする味。分厚い卵焼き、ふわっと揚がったオクラの天ぷら、じゅわっと味が湧き出るカキフライ、具がみっちり詰まった自家製の餃子…。

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日本酒も、焼酎も、このサイズの居酒屋、しかも外国での品揃えとしては幅広い。

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でも、私はそれが目的で行くのではないと思う。とにかく、居心地がいいのだ。

独りで行くときの私の特等席は、キッチンが丸見えのカウンターだ。

マスターのおばさんは、いつでも元気が良い。狭いキッチンをぶつかりそうになりそうに往復しながら、手際よく次から次へとオーダーをさばいていく。

オーダーを取る女性もハキハキとして元気がいいし、私の好みそうなお酒を選んでくれるので、任せてしまったほうが楽。

たまに、「あ、これちょっと余っちゃったから食べて!」なんてこっそりと小皿をカウンター越しに渡してくれるし、お店が終わり頃になるとおばさんとスタッフがビールを一本開けるのがならわし(?)となっているので、そのお流れが来ることもある。

昔は、日本人だけが訪れていたが、今では日本人以外のお客さんばかり、なんて時もある。かく言う私だってオーストラリア人の友だちを連れて行ってファンにさせているし、ホテルに泊まっていた日本通のフランス人のゲストを送ったこともある。

ホテルコンシェルジュという仕事柄、シドニーのレストランにはかなり行っているし、その中のいくつかはかなりの高級レストランだ。

でも、どこか一つだけを選べ、と聞かれたら、私は色々迷うけれどもおそらくこの居酒屋を選ぶだろう。

🍶

今年はパンデミックのせいで余り訪れることができなかったので、ランニング友だちとの忘年会はそこですることにした。

ところが、なんと私は寝過ごしてしまい大遅刻、行くには行ったが飲み食いをする時間は残っていなかった。もちろん友達に迷惑をかけ、あまり話をする時間がなかったのは残念だが、正直言ってそこのお酒とおつまみをいただけなかったのも同じくらい残念だった。

もうお店はクリスマス休暇に入ってしまったので、このリベンジは2021年まで持ち越しだ。またあの場所できりりと冷えた日本酒と、アットホームなおつまみを楽しみ、そしているだけで気分がぽかぽかと温まるようなおばさん達に会えるのが待ちきれない。