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アメリカ大統領選挙にみる大阪都構想反対とトランプ再選の可能性の危険な共通点〜分断された民意の構造と文脈〜

分断された民意を問う2つの選挙

いよいよ本日アメリカ大統領選挙です。

11月の第一週の今週、2つの民意を問う選挙があります。一つは、大阪都構想住民投票(一昨夜反対多数で決着)、

そしてもう一つは2020年アメリカ大統領選挙です。

直接民意を問う投票において大方の見方を覆す現象は、2015年の大阪都構想の住民投票から始まったと思います。

将来の国民/市民の為に良いと為政者や知識人が考える選択肢、

・府と市の二重行政をなくし副首都機能をめざす都構想

・拡大自由経済圏に属し経済発展するための英国のEU残留

・優秀で実務経験豊富なヒラリー・クリントン大統領候補

が、その国民/市民の過半に否定されたのです。

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政治家や知識人、半分の国民/市民は、結果に驚愕し当初、何かの間違いだと考えました。

ブレグジットも、当時のキャメロン首相は100%勝てると見込んで国民投票に踏み切ったのです。

「フェイクニュースに一時的に一般庶民が騙された。」「後悔している人も多い」「再投票すると必ず残留派が勝つはずだ。」

当初そのような報道がなされましたが、ブレグジットの民意はその後も変わらず、ブレグジット賛成派のジョンソン首相が当選し今年1月31日、英国はEUを離脱しました。

そして昨夜、大阪都構想も再度反対派が僅差で勝利しました。

ブレグジットも都構想も、2度民意によって否定されたのです。

そして明日、アメリカで大統領選挙が行われます。

トランプ再選の可能性は少ないと予測されてきました。但し、トランプは最後の週に、激戦州で追い上げてます。

もしトランプ大統領が当選すると、ここでも一般世論とされる予想を覆す民意が再度示されることになります。

分断された2つの選択肢において、日本、英国、米国で、穏健で良識的な選択肢とされてきた選択肢が(僅差とはいえ)ここ5年間で1度も過半数の支持を得られないとなると、これまでにない何か大きな構造的な変化が起きていると考えるしかありません。

「若者はよくわかってないから安倍政権をこれまで支持し今は菅政権を支持している」「アメリカ人、日本人も大衆迎合的なポピュリストに騙されている」と言います。

でも、いわゆるそういう事をいう「大人の偉い人」の言葉が、国民/市民に刺さらなくなってきてるのではと思い始めてます。

都構想を行う目的は2つあり、1つは大阪府・市の二重行政を解消して大阪が成長する土台をつくること。もう1つは行政を細分化することで、きめ細かな住民サービスを拡充することです。まずはこの2つを実現させて大阪が副首都として成長することで、東京との東西二極で日本を引っ張っていけたらいいなと思っています。(10/31、吉村知事のインタビュー)

この言葉は、吉村/松井の連携で二重行政の弊害を感じなくなっている大阪市民、大阪が副首都になったところで自分には恩恵は来ないと見抜いた大阪市民(特に南部住宅地、20代女性等)にとって刺さる言葉ではありませんでした。

むしろリアリティは住民サービスが良くなる保証はない慣れ親しんだ大阪「市」はなくなる、というところにあったのだと思います。

4年前、ヒラリー・クリントンの「いつも目標を高く持ち、一生懸命働き、自分の信じるものを大切にしなさい。つまずいても、信念を貫きなさい。」という有り難い言葉よりもドナルド・トランプの「雇用を取り戻す(”Bring Back Jobs”)」に国民の多くはリアリティを感じた様に。

(そういった意味では、私の書いている「構造と文脈」とかも、もっと多くの人にメリットを感じてもらうように意識しないと行けない気がしています。コオゾオとブンミャクって、私の何に役に立つの?

アメリカ大統領選挙に関する個人的な思い出

私は、1989-1990年にボストンとアトランタに留学し、1995-1997年にマッキンゼーのシカゴ事務所に勤務していました。

1989年のジョージ・H・W・ブッシュが当選する大統領選挙と、1996年のビル・クリントン大統領が再選される時の大統領選挙を2回、現地アメリカで経験しています。

予備選挙から徐々に盛り上がり、知力・人格だけでなく長期間のタフな選挙戦を耐える体力含め世界のリーダーに相応しい人物を国民全員で選別していく壮大な国家イベントです。

選挙期間中、全米の全市民が候補者の政策を吟味し、小学生から大人までディベートを行い次期大統領に誰が相応しいかコンセンサスをつくっていく、その草の根プロセスに深い感銘を受けたことを覚えています。

1789年、日本は江戸時代、松平定信が寛政の改革を行っている頃から同じルールで国のトップを民主的に選んでいるのです。

現地でその事実を理解した時、アメリカはフロンティア精神の新しい国なのではなく、古くて熟した民主主義の老大国なのだと痛感しました。

21 世紀のアメリカ大統領選挙の構造

アメリカ大統領選挙について、以下僕なりの「構造と文脈から理解する」やり方で分析します。(実践マニュアルについては「逆説の知的生産の技術」で有償noteを公開していますのでそちらを参照ください)

I. 抽象化 キーワード抽出

まず、最近の大統領選のキーワードを抽出します。

①保守=共和党②リベラル=民主党

という対立の他に21世紀に入って新しい軸が加わっています。

1%の既得権益インサイダーの世界にいるエスタブリッシュメント(Insider Establishment)か、99%のアウトサイダーを代表するニューカマー(Outsider New Comer)かという軸です。

民主党であれば自らを社会主義者といっても憚らないサンダーズ等のリベラル急進派、そして共和党であれば泡沫候補だったトランプ自身が既得権益と闘うニューカマー、として新しい候補が善戦しています。

キーワードは

①共和党(保守) vs ②民主党 に加えて

A 既存インサイダーエスタブリッシュメントvs B.新規アウトサイダーニューカマー

の2つです。

II.枠組化(フレームワーク)

その2つのキーワードを縦横4マスの表(マトリックス)を作ってみます。

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III.具体化

そして、実際の21世紀に入ってからの大統領とその候補者の個人名を当てはめてみます。

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俯瞰してみると、ドナルド・トランプは前回誰もいなかったB①の共和党保守でニューカマーアウトサイダーというホワイトスペースに戦略的に位置取りしてきたことがわかります。(ドナルド・トランプは元々実はビル・クリントン元大統領も含めて民主党に寄付してきた民主党員だった!)

A①のジョージ・ブッシュは保守テキサスの共和党で親子2代の大統領というエスタブリッシュメントでした。テロとの戦いとして不要な戦争を引き起こし、アメリカを分断させたと非難されました。

それを嫌ってB②の新しいリベラルリーダーシップの黒人のオバマ大統領を選ばれ、またブッシュによって分断されたアメリカを再び連帯(Unite)させてくれることを期待しました。(I. の動き)

オバマ大統領は同じB②の女性初の候補初のニューカマーの「ヒラリー」クリントンに新しいアメリカを引き継ごうとしました。

但し、ヒラリー・クリントンは女性という意味では新しいものの、「クリントン」ファミリーという意味ではファーストレディの頃から長期間ホワイトハウスに君臨するエスタブリッシュメントです。

その意味では左下A②に位置づけられ、エスタブリッシュメントに見え(彼女の真摯なスピーチもエリートの綺麗事にしか聞こえず)B①ニューカマーのトランプに僅差で敗北しました。(II.の闘い)

こうみると分断されたここ数年の今のアメリカの大統領選挙は2つの軸の対角線上に大きく揺れる闘いだったと言えます。

自ら高齢者で穏健保守中道のジョー・バイデン候補は、「古き良き保守的なアメリカ」と「移民や女性等のマイノリティが活力を与え続ける革新的なアメリカ」の間に位置します。(下図①と②の間)

前回、トランプに投票したのは、規制緩和と好調な経済を支持する若者、古き良きアメリカのノスタルジーを求める高齢者の白人キリスト教徒達でした。

若者は、コロナ禍の結果、採用活動が減り就職が困難になり、コロナを押さえつつ中道路線の経済政策を掲げるバイデンに期待し、高齢者の白人キリスト教徒もコロナで生命のリスクに晒された結果、自らも高齢者でコロナ対策を掲げるバイデン支持に回っています。(A①の一部取り込み)

また、今回の選挙では、パウエル元国務長官、アーミテージ元国務副長官、等共和党の重鎮ら70名も反トランプ、バイデン支持を明らかにしているなど、複雑な構造になっています。

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”私は、共和党員で退役軍人で、そしてバイデンに投票する”という看板(FNNプライムオンラインより)

そういう意味では、少し弱い印象のあるバイデンですが、まともな共和党重鎮から前回トランプへの投票者まで支持を広げ、構造分析上はポジショニングは悪くないようにみえます。

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21世紀のアメリカ大統領選挙の文脈

では、文脈の方を見てみましょう。

I. 因果関係

文脈に置いては、因果関係をまず整理する事が重要になります。

アメリカの場合は、何をおいても「強い経済」を作り出せたものが「大きな支持を得る」という強い因果関係があります。自らの再選と好調な経済に強い因果関係があると理解していたトランプ大統領が、実は新型コロナウイルスの致死性や感染力といった脅威を把握しながらも、対外的には意図的に抑制的な発信に努めていたことがアメリカが誇るジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏によって明らかにされました。

トランプ大統領が「ただの風邪だ」と当初発言していたのも馬鹿だからではなく、感染拡大が結果さほどでなかった場合は好調な経済が維持できますし、万一感染が広がっても(彼にとっては)高齢者が数10万人無くなるだけとの冷徹な判断です。

全て事実を大統領として把握していた上で医療を守るための経済活動の萎縮を(国民の命を賭けて)避けようとした油断ならない戦略家だという事が伺えます。

II. 時間軸(順序)

時間軸みると、感染拡大していった春から夏にかけて、トランプの支持は低迷しましたが、長期化するうちに経済への影響が懸念され、トランプ自身が感染しホワイトハウスのスーパースプレッダーになっていたのも関わらず、2週間で既にそれは過去のこととなり、経済再開を叫ぶトランプ大統領に、激戦州、フロリダ州、ペンシルベニア州でも支持が急速に集まりつつあります。

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自らの初動対応の遅さの結果、コロナ感染が拡大し経済にダメージを与えているにも関わらず、対立候補を非難し支持を集める、天才マーケターならではの話術です。

人々の集団心理の変化を時間軸の敏感に察知することは政治家にとって、重要です。投票日直前の状況で、投票行動は大きく動くからです。

フロリダが1000人を切っていた一日の新規感染者が現在は6000人を一時期超え、イリノイ、ミシガン、フロリダといった激戦州で1日4000-6000人を超える上昇傾向です。

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”JHU Daily COVID-19 Data  10/27/2020”

最後に来て、この直前数日の新型コロナ感染拡大傾向が投票行動にどう影響するのか、注視する必要があります。

トランプ大統領とはどういう「意味の場」に存在するのか

III.「意味の場」

文脈を考える時に、重要なことは、当事者一人ひとりの立場からみえる「意味の場」です。

特に、デジタルで多くの情報が人々に拡散される時

「現実は一つではなく、『意味の場』において数多く存在する」

ようになりがちだからです。

トランプ大統領は就任当時から、CNNなど批判的なメディアをフェイクニュースと呼び、ワシントン・ポストによると就任以来4年間で2万5千回嘘をついてきました。

問いただされても、全て「それは陰謀論者によるフェイクニュースだ」「私の聞いた事実と違う」で乗り切ってしまいます。

それはトランプ大統領の「意味の場」が「立派な大統領として世の中を良い方向に変える」事ではなく「大統領に再選されたら立派な大統領である」という事にあるからです。

選挙に勝つ事、再選することだけが目的となったトランプは、ある意味無敵の存在です。再選以外に自分にとっての「意味の場」はない訳ですから、自分が再選するために必要な事を、支持者にとっての「意味の場」の数だけその心に滑り込み、沢山の心地よいワンフレーズを囁いて回り熱狂を生み出します。

仕事も家庭も失ったかつては大手製造業に勤めていた一人暮らしの白人男性、就職先がなく不満なエネルギーを充満させた若者等。。トランプの事を、嘘つきであり差別主義者と知りつつも、支持してしまう人が相当数います。

"MAGA(Make America Great Again)"、

"Build the wall!"

 ”China Virus!" 

"Sleepy Joe!"

これらは典型的な価値相対主義であり、「正義などなく征服しかない」という考え方です。結果としてアメリカは大きな分断に向かっています。

*注:そういう意味では、北朝鮮の金正恩国家主席とは意外と本当に仲が良いかもしれません。金正恩も金王朝としての権力が継続すること以外に目的はなく、ありとあらゆる情報戦と交渉(ディール)に長けています。

30年以上前にNYで出会ったドナルド・トランプに関する個人的な経験〜ドナルド・トランプの古層〜

 IIII.文脈における「当事者の古層」

彼の言動は、不動産王の息子として生まれ父の強烈な教育を受けた彼の古層にもつながっていると思います。

トランプ大統領の姪のメアリー・トランプは「暴露本」で自ら職業臨床心理士として叔父を分析しています。

「フレッドは、ドナルドが自分の感情に正直になる機会を制限し、ドナルドの感情をほとんど受け入れなかったため、息子の世界観をゆがめ、自己表現をする能力を傷つけました」「優しさとはかけ離れていた...。児童虐待はある意味で、『やりすぎ』あるいは『足りない』という気持ちのもとに生まれます。重大な発達段階において母親とのつながりを失ったことで、ドナルドは『足りない』ことを直接経験し、深いトラウマを抱えてしまったのです」

私が1989年5月にアメリカに留学した頃、ドナルド・トランプは若き不動産王として有名人でした。私も当時純粋にすごくアメリカ的な成功者だと思っていました。

但し、その印象が一変した出来事があります。

留学直前の4月にセントラルパークでソロモン・ブラザーズ投資銀行に働く女性がジョギング中に複数の黒人の複数の少年達にレイプされるという有名な”セントラル・パーク・ジョガー事件”がありました。(実は後にDNA鑑定で少年たちの冤罪が証明される)

そして、5/1私がアメリカで最初に買った現地英字新聞には下記の署名付き全面意見広告がありました。

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1000万円を支払って掲載された意見意見広告には、全面に憎しみ(Hate)を肯定し、「死刑の復活を、我々の警察を取り戻せ」というメッセージが黒々と書かれていました。

セントラルパークでの暴行レイプ事件も日本からの一人の留学生にとって恐ろしいものでしたが、富裕層の著名人がこうした意見広告を出すことにも強い違和感と恐怖を感じたことも事実です。

ドナルド・トランプの古層は30年間変わっていません。

自己愛が強く、ナルシストで、法と秩序という名のもとに自分にとって都合の良い権力構造を志向する人物です。

一方で、30年前から、一部のアメリカ人が思っていても口にできない事を正直にあえて言ってくれる存在でもあります。

そのトランプに一定の岩盤支持者が存在するということは、それは一部のアメリカ人の古層でもあるのだと思います。

最後に、明日の投票以降何が起きるか

既に、報道され予測されていることではありますが、10州前後で投票開票日に大勢が判明しない可能性が濃厚です。

そうしたなか、一部の州の投票結果の一部をもって、トランプ大統領は一方的に勝利宣言をする可能性があります。(トランプ大統領は現在は否定)

そして感染拡大に関心が高いため郵便投票を選んだ人たちの票(バイデン支持が多い)は不正で無効であると主張するでしょう。

既に、法廷闘争も辞さないと明確に主張しています。

選挙後どちらが勝利しても、不満に思った側が大規模な抗議活動(Protest)を起こしそこから暴動が発生する事が予想されており、全米各市では、百貨店、高級店舗等が暴動と略奪に備え、防御壁を作って備えています。

またこれまで銃を持ったことのない人が銃を購入し(購入の40%が新規購入者)、ティーンエージャーまで含めて家族総出で射撃訓練を始めている家庭もあります。

これが今のアメリカです。

いずれにしても年内に何か予測もつかない事件が起きる気がします。

その時はまた、上記のような構造と文脈に沿ってそれについて自らその理解に勤め一緒に考えることができたらと思います。

Last night, I congratulated Donald Trump and offered to work with him on behalf of our country. I hope that he will be a successful president for all Americans. 昨夜、わたしはドナルド・トランプ氏にお祝いを申し上げ、祖国のために働いてくださるようお願いしました。彼がすべてのアメリカ人のためのすばらしい大統領になってくれることを願ってやみません。 - 2016年 ヒラリー・クリントンの大統領選挙敗北宣言

この4年前のヒラリー・クリントンのドナルド・トランプへの言葉を、ドナルド・トランプが素直に、ジョー・バイデンに伝える日が来るのか、数時間後に始まる投票とその後のアメリカ🇺🇸は予断を許しません。

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