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「20歳の夏」

【人物】
栗原志穂(20)専門学校生
井上啓一(20)志穂の幼馴染
栗原加代子(45)志穂の母
駄菓子屋の店主
コンビニの店員

◯駄菓子屋・店内
アイスケースからガリガリくんのソーダ味を取り出す栗原志穂(20)。
髪型はショートで金髪。
志穂、それをカウンターに持っていく。
初老の女性店主が会計をする。

店主「あい。マンゴー味もあるけど」
志穂「大丈夫です。これで」
店主「あそう」

店主、志穂におつりを返す。

店主「あいよ」


◯同・店外
夏の日差しが眩しい。
店から出てくる志穂。購入したガリガリくんを店の前で開封し、食べ始める。
蝉の声が鳴り響いている。
志穂、ガチャガチャの前でしゃがみ、小銭を入れて、一回、回す。
しゃがんだまま、出て来たカプセルを開けようとしていると、

男の声「小学生かよ」

志穂、見上げると、井上啓一(20)が 立っている。 

志穂「おー、おーおー」
井上「おっす」
志穂「(立ち上がり)なにしてんの」 
井上「帰ってきた。夏休みだから」
志穂「え、いつ?」
井上「昨日」
志穂「ふうん。髪切った?」
井上「ああ、最近はいつもこれくらい」

志穂、井上の髪を覗き込んで。

志穂「まあ、いんじゃない」
井上「お前こそ、どうしたのそれ?」
志穂「これ(髪)? なんだろう。気分転換」
井上「雰囲気全然違うじゃん」

志穂、まんざらでもない表情。


◯公園
アーチ型の雲梯に腰掛けてガリガリくんを食べている志穂と井上。志穂は雲梯の中央部分に座って足をぶらぶらさせている。井上はガリガリくんのマンゴー味を食べている。

志穂「美味しい? マンゴー味」
井上「まあまあかな。つかお前、いつもソーダ味じゃん」
志穂「そうだよ」

志穂、ガリガリくんを食べ終える。

志穂「大学は? 楽しい?」 
井上「まあ、そこそこ」
志穂「毎日合コンしてんの?」
井上「合コンって、お前、何年前の人間だよ」
志穂「東京の大学生って、そんな感じなんじゃないの」
井上「全然だよ」
志穂「へえ。あ、てか彼女いるのか」
井上「いない」
志穂「ふうん」
井上「いたけど、最近別れた」
志穂「また三角関係?」
井上「ちげえよ」
志穂「罪な男だねえ」

井上、ガリガリくんを食べ終え、スティックを捨てに行こうとする。

志穂「あ、私のも捨てといて」

志穂、スティックを差し出す。井上、志穂からスティックを受け取ろうとするが、志穂は渡さず、雲梯を飛び降りて自分で捨てに行く。

井上「はあ?」

志穂、いたずらっぽい笑顔。


◯坂道
ゆるやかな坂道を上っていく志穂と井上。

志穂「ねえ、私彼氏できた」
井上「嘘つけ」
志穂「なんで」
井上「マジでできたの」
志穂「できてない」
井上「ほら」

志穂、井上に軽く腹パンする。

井上「なんだよ」
志穂「私のこと何でも知ってると思うなよ」
井上「はいはい」


◯スーパー・店内
酒売り場を歩いている志穂と井上。井上はカゴいっぱいに酒を入れている。

志穂「どんだけ飲むの」
井上「(カゴの中を見て)あいつら、酒豪だからさ」

志穂、酒のつまみを手に取る。

志穂「これ買ったら」
井上「ん、いらん」
志穂「あそ」
井上「こんくらいで、いいかな」
志穂「男子ってさ、飲み会で何話すの」
井上「うーん、サッカーの話とか」
志穂「サッカー部が集まって、サッカーの話?」
井上「悪い?」
志穂「いや、どうでもいい」
井上「じゃあ聞くなよ」
志穂「聞くぐらい、いいじゃん」
井上「お前、専門で友達できた?」
志穂「え、なに? 私がひとりでお弁当食べてるの心配してんの?」
井上「してない」
志穂「しろよ」

志穂、井上の足にキックを入れる真似。

井上「痛えな」
志穂「痛くないでしょ」
    

◯歩道(夕) 
スーパーの袋を一つずつ持って歩いている志穂と井上。

井上「サンクスな」
志穂「かまわんよ」
井上「お前もくる?」
志穂「行くわけなくない?」
井上「酒飲めないんだっけ?」
志穂「飲めるけど」
井上「志穂は、飲んだら面倒くさそうだな」
志穂「そんなことないよ」
井上「志穂、うち部活のやつらとは一切話せないもんな」
志穂「だって、全然話が噛み合わないんだもん」
井上「俺もあいつらも、そんな変わんないよ」
志穂「いや違う。全然違う」
井上「どこらへんが?」
志穂「どこらへん?」

志穂、井上のほうを見て。

志穂「いやあ、わかりませんけど」
井上「なんだよそれ」
志穂「……」
井上「でも不思議だよな」
志穂「?」
井上「お前って」
志穂「私が?」
井上「お前みたいな女友達、考えてみたら他にいないなと思って」
志穂「私みたいなって?」
井上「お前みたいな」
志穂「だから、どんな」
井上「がさつな?」

志穂、井上の足をキックする。

井上「本当に蹴んな」

志穂、ムスッとした表情。
通りの向こうで、縁日の屋台が見える。

井上「今年もやってんだな」
志穂「うん」 
井上「行くの?」
志穂「いやあ、どうかな。井上は?」
井上「今年は行けないかな。これあるし」

井上、スーパーの袋を見せる。

志穂「そっか。東京はいつ帰るんだっけ?」
井上「明日」
志穂「明日。結構急なんだね」
井上「このあと、サークルの合宿もあってさ」
志穂「そっか」


◯住宅街(夕)
分かれ道に差し掛かる志穂と井上。

井上「ここでいいよ」
志穂「うん」

志穂、スーパーの袋を井上に渡す。

井上「じゃあまたな」
志穂「飲みすぎんなよ」

去っていく井上。


◯歩道(夕)
歩いている志穂。ショーウィンドウに映る自分を見て、立ち止まる。
自分の髪型を気にしてみたり。


◯志穂の実家・リビング(夜)
テーブルに座っている志穂。ガチャガチャで当てたミニカーでなんとなく遊んでいる。
志穂の母・加代子(45)が洗濯物を取り込む途中で通りかかる。

加代子「なにそれ」
志穂「ガチャガチャで当てたやつ」
加代子「あんたそんなの、一体いくつもってんのよ」
志穂「数えたことない」
佳代子「あんたって、ほんと昔から好きなもの変わんないわね」
志穂「かもね」
加代子「あ、そうだ。今日はどうすんの? お祭り行くの?」
志穂「えーわかんない」
加代子「はっきりしないね。この子は」

加代子、洗濯物を持って移動していく。


◯同・志穂の部屋(夜)
勉強机の上に並べられた数台のミニカー。その中にさきほどのミニカーを追加する志穂。
志穂、その奥にあった小学校の卒業アルバムを手に取り、開く。
小学生時代の志穂の写真が数枚。その中に、井上と一緒に写っている写真がいくつかある。
  

◯同・玄関(夜)
靴を履いている志穂。

加代子「あれ? 結局行くの? お祭り」
志穂「とりあえず、ぶらついてくる」
加代子「夕飯は?」
志穂「いい。適当に食べる」


◯同・外(夜)
家から出て来る志穂。スマホを取り出し、LINEを開く。
画面をスクロールすると、友達の一覧の中に「井上」の名前が出てくる。
志穂、その名前をタップし、井上に電話をかける。
電話をかけながら歩く志穂。

志穂「やあやあやあ。今大丈夫? ああ、はい。(少しの間)うん、あごめんね。めっちゃ盛り上がってるみたいだね。いい、いい、話すことないし。うん。え? ああ、まあね。今さ私、お祭りに行くんだけど。うん、そうね。とりあえずは。そう。あでも、井上が来れば2人になるけどね。うるさいな。寂しくはないわ。うん、うん。わかってる」

立ち止まる志穂。

志穂「でもとりあえず、一時間後に待ってるから。そういうことで」

志穂、電話を切る。

志穂「ああ、ムカつく。ドキドキする」

その横を通り過ぎた通行人が、志穂の独り言を聞いてビクッとする。


◯コンビニ・外観(夜)


◯同・店内(夜)
レジに、ガリガリ君のソーダ味と、缶のハイボールを置く志穂。

店員「えっと……」
志穂「あ、成人です」

志穂、学生証を見せる。

店員「(確認して)あ、どうも」


◯神社・境内(夜)
縁日が行われていて、多くの客が訪れている。


◯同・鳥居前(夜)
石段に腰掛けて、ガリガリくんを食べている志穂。
その横を、何組かの若いカップルが通り過ぎていく。
志穂、目がとろんとしていて、少しふてくされたような表情。
志穂の前に、誰かが上がってくる。
見ると、井上だ。

井上「小学生かって」
志穂「遅えよ。この野郎」
井上「嘘だろ、お前。酔ってんの」
志穂「全然酔ってない」

志穂、立ち上がる。
井上、志穂が倒れないように、支える。

井上「大丈夫かよ」
志穂「大丈夫、大丈夫」

石段を上がっていく2人。

井上「てかまたお前、それ(ガリガリ君)食べてんのかよ」
志穂「悪い?」
井上「飽きない?」
志穂「飽きない。全然」

志穂、井上の顔を覗き込む。

井上「は?」
志穂「同じものずっと好きで、悪うございましたね」
井上「いや、悪いとは言ってないから」
志穂「あそ」

境内の中に入っていく2人。
志穂、井上に腕にそっとつかまる。

井上「……」

少しだけ、沈黙が落ちる。
と、上空に花火が上がる。

志穂・井上「おお」

2人、顔を見合す。そして、なぜか笑い出す。

井上「なんだよ」
志穂「井上こそ」

屋台が立ち並ぶ通りを行く2人。

井上「賑わってるな」
志穂「うん」

二人、そのまま進んでいく。

<終わり>

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