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『ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う』①

 今回紹介するのは

『ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う』(集英社新書)

です。本書は2019年10月19日(土)に,東京大学本郷キャンパスにて開催された公開シンポジウム「ことばの危機ー入試改革・教育政策を問う!」の内容が(当日には伝えきれなかった内容を大幅に盛り込んだ形で)書籍になったものです。

 以下は,アマゾンの内容紹介からの抜粋です。

大学入試改革や新学習指導要領の公示により、「国語」をめぐる様々な変更点が注目を集めている。「論理国語」「文学国語」といった区分が新たに誕生し、新・大学入試共通テストでは実用的な文章の読解が増加する見込みだ。また、それに連動して、高等学校の「国語」からは文学の比重が減ることが予想されている。このように「実用性」を強調し、文学を特殊な領域に囲い込もうとする大学入試改革・教育政策はいかなる点で問題なのか。この変化の背景にある、日本社会全体に蔓延した「ことば」に対する偏った見方とは何か。そして、なぜ今の時代にこそ文学的知性と想像力が重要なのか。東京大学文学部の五名の教授陣が、各専門の立場から問題意識を熱く語った、必読の講演録!

 非常にいろいろなことを考えさせられる一冊でした。

 まず,「読解力とは何か」という問いは「読解力がない!とはどういうことか」,つまり,

「読解力がない!という批判がなされる時,実際に起きていることは何か」

という問いに置き換えられるということです。阿部公彦先生は「読解力がない!」という状況が生じる原因を10パターンに分類し,それぞれについて述べられています。 
 その中でも特に印象に残ったのは「同じことばでもコンテクストによって異なる」ということです。当たり前のことと思うかもしれませんが,学生の英作文などを指導していると「ことばをコンテクストの中でとらえる」力が欠如していることを実感します。和文英訳のときに,コンテクストを考えずに英訳した結果,「おかしな英文」になっていることはしばしばあります。このような力,つまり「文脈把握力」を身につける一つの手段が「文学作品を読む」ことだと阿部先生は述べています。

 沼野先生は本書の中で「文学の利権を固守するために『もっと文学を!』などと声を張り上げるつもりはありません」(p.66)と述べています。ここは非常に大事な点だと思います。「ことばの危機」というタイトルから文学専門の人間からしたら,「文学がなくなったら困る」という意図による主張ではないということです。それは上記の阿部先生の発言からも垣間みることできます。

* 続きはこちらから☟

https://note.com/syamamoto/n/n902217b1d8f8 

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