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銭湯のこと、新しい街のこと、それから

 住まいを変えて、うれしかったことがいくつかある。煙草屋が近くにあることとか、うまい定食屋があることとか、とにかく新しい住まいの周りは気に入っているんだけれど、一番よかったのは銭湯が近くにたくさんあることだ。前に住んでいた高田馬場はとても気に入っていた銭湯がコロナ禍で店を畳んでしまった。もちろん、都心だからちょっと足を伸ばせばいくらでもお店はあったのだけれど、僕はその銭湯がとても気に入っていたので(昭和の中頃から営業を続ける学生街の老舗だった)それ以来引っ越しをするまであまり銭湯に行かなくなってしまった。

 銭湯から足が遠のいた理由は他にもある。身体を壊してしまったからだ。血圧が230もある状態でサウナなんてのはとんでもないことらしく、医者に厳禁を命じられてしまい、つい最近まで許可が出なかった。薬を服用して生活習慣を改めて、最近やっと「無理をしない程度なら」というお許しが出て、ありがたく銭湯通いを再開することが出来た。仕事が詰まってしまった昼間にちょっと銭湯に行ける日々は、なんというかとてもありがたい。

 最近気に入っている銭湯は、「入れ墨のある方お断り」のあの文句が書かれていない店だ。なので、平日の昼間ともなれば「カタギではない」と一言で言ってもそこには実にさまざまなグラデーションがあるのだな、と実感を持って風呂に入る男たちを眺めることが出来る。今日は15時から来ていた先客のうち実に四分の三が入れ墨を入れていて、この空間で僕はマイノリティだな、などと思ったものだ。やっとカラフルではない肌の客がやってきたと思ったら今度は金のネックレスを首から下げていて、なかなか空間のカタギ度は下がってくれない。もう一人、入れ墨の入っていない人間がやってくれば空間に釣り合いが出来るな、と思っていたのだけれど、次にやってきた男は立派な龍の入れ墨が入っていて、みんなマナーもよく居心地は悪くない。

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発達障害ライフハックのような実用文章ではなく、僕がライフワークとして書きたい散文、あるいは詩に寄っていくような文章を書いております。いろいろあって、「善い文章」を目指して書くようになりました。ご興味ありましたら是非。

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