見出し画像

【掌編小説】煙の刹那


・煙の刹那


シュッボッ……スゥゥゥ……
 
私はこの音で毎朝目が覚める
眠たそうな顔とボサボサの頭を掻きながら、換気扇の下で煙草を吸う彼
煙と共に霞む景色越しの彼の影に、何時しかそれが当たり前の光景だと思っていた

「別れよう俺達」

「うんそうしようか」

煙草と彼の残り香が煙るこの部屋に私は蹲る
 
私は彼の心《なか》に何かを求めていた
私は彼の身体《そと》で何かを埋めていた

結局影すら掴めない何かに縋っていただけだったんだ
灰の山は積もるばかり、なにも遺してはくれない
そんな刹那に時間を費やす

部屋から飛び出て街を歩く
電飾煌めくコンクリートジャングルを摺り抜ける
煙と聲で霞む視界、悪い夢だとため息で吹き消す
まだ少し残った煙草の箱をポケットに、ライターを灯火の様に顔に近づける 

今日も不変の不夜城、酒気と煙が誘うは夜の帳
この香りだけが手がかりの男に今日も縋る

シュッボッ……スゥゥゥ……
 

・あとがき

どうも月影 冬衣 です
掌編小説第2弾になります
今回はメインで長編連載しているものよりかなりビターテイストなものになりました

あなたも良かったら煙漂う灯火の刹那に酔いしれてみては?
私はマルボロと言う刹那が好きです

それではまた何処で


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?