武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第13回 松坂健 氏

20191002 松坂健氏

オフィス アトランダム代表。日本のミステリ研究者、元雑誌編集者、ジャーナリスト、サービス産業研究者。日本出版学会、日本フードサービス研究学会、日本観光研究者学会、日本国際観光学会、日本観光ホスピタリティ教育学会、日本旅行医学会、日本推理作家協会、各会員。国際推理作家協会副会長。東京都浅草出身。1971年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1974年、同大学文学部英文学科卒業。在学中は慶應義塾大学推理小説同好会に所属。1974年、出版社柴田書店入社。「月刊食堂」編集部配属。1978年「月刊食堂」副編集長。1984年「月刊ホテル旅館」編集長。その一方で、ミステリ評論家としても活動し、『ミステリマガジン』等で評論や書評を多数執筆。また、映画評論も執筆。1992年独立。1993年、個人事務所「オフィス アト・ランダム」設立。東京YMCA国際ホテル専門学校非常勤講師。2000年、西武文理大学非常勤講師。2001年長崎国際大学人間社会学部国際観光学科教授(宿泊業論 外食産業論)。2004年西武文理大学サービス経営学部・教授(宿泊業論、外食産業論、ホスピタリティ論)。のち、同大学非常勤講師。国内の主要なホテル、テーマリゾート、外食産業を視察、取材。新潟県湯田上温泉、福島県湯本温泉などで町おこし委員も歴任したほか、余暇開発センター審議委員、日本観光協会の旅館業ビジョン開拓委員などの公的活動も行っている。(wikipediaを参考に編集)


1 人は「商品」でファンになり「接客」でファンをやめる

松坂氏は、この言葉を示し、「サービス」と「ホスピタリティ」の違いについてお話をされた。「サービス」は、いつでもどこでも誰にでも同じように提供されるものであり、標準化・マニュアル化されていて、一定水準の顧客満足度を担保するものである。一方で、「ホスピタリティ」とは、あるときある場所である人にだけに一期一会的に行われるものであり、マニュアルはないけれども、ユーザーに特別感をもたらしてリピーターの創出に繋がるものである。つまり、徹底したマーケティングを行って質の良い「商品」を生み出しても、「接客」の場面で個人を意識したホスピタリティの視点がないと顧客は離れていってしまうということである。この「ホスピタリティ」の視点が、今回のお話のポイントになる。


2 感じのいいデザイン、感じのいいサービス

松坂氏が「ホスピタリティ」を意識するようになったきっかけは、阪神淡路大震災らしい。それまでより良いものを多く、マス的にどんどん増やそう!と思っていたが、価値観が変わったという。例えば、500円のたこ焼きを売っていて、品質は同じなのに売れる店と売れない店がある。売れる店は、ただたこ焼きを売るのではなく、お客さんと話をして笑いをとったりと、「ホスピタリティ」をもっていたのだ。どれ同じ、誰でも同じのデザインやサービスを行っていると頭打ちになる。代理業が崩壊し、大型ショッピングモールのようにどこでも同じ店が入り、ワンストップ型の店舗が苦境を強いられていることを例にあげ、「付加価値」を生むことの大切さを伝えられた。


3ケーススタディ

講義では最後に、実際にあったというある例を参考にケーススタディをしてディベートを行った。内容は以下である。

猛烈に混み合うランチタイム、東京の一流ホテルのコーヒーハウス。泣き止まない赤ちゃんを連れたカップルに対し、実習生がマネージャーに相談しないでとっさに赤ちゃんをあやす対応をした。結果、他のスタッフは忙しくなってしまったが、赤ちゃんは泣き止んでカップルは食事ができた。カップルは、感動して生涯の顧客になりたいと感謝した。

この実習生の対応は、独断先行・チームを意識しない身勝手な行動なのか、ひとまず危機を切り抜けてリピーターを捕まえて機転がきいたお手柄なのか。

学生の多くは、お客様のために自主的に行動した実習生を支持する意見が多かった。しかし、他のスタッフへの負荷や赤ちゃんの安全への配慮、万が一事故が起きた時の責任の所在の問題から指示しないという意見もあった。ちなみに私個人は後者だった。松坂氏は、正解はないが、「ホスピタリティ」とは、そのときの状況に応じて対応することであり、マニュアルがないからこその難しさがあるということと、人は失敗から学ぶことはなく、成功から学ぶという言葉を話された。


まとめ

マニュアルにない「ホスピタリティ」の精神をもって対応することは、教育の現場では日常であり、親和性のあるお話であった。「ホスピタリティ」は大事だと思うが、それが当然となる「常態化した特別サービス」のようになることには私は疑問を感じる。例えば、店員や教師に対して無理な要求や理不尽な対応をする「モンスター〇〇」というのも、特別な対応をされないことに対する不満から生じる部分もあると思うからである。また、「ホスピタリティ」が個人任せになってしまうと、「あの人はやってくれたのに。あの時はよかったのに。」というものを生んでしまうと思う。顧客に対する「ホスピタリティ」が従業員の「ブラック労働化」を生む側面もあるのではないか。大事なのは、個人の「ホスピタリティ」に委ねなくとも一定以上のサービスが担保できるように精選されたマニュアルがあることであり、「ホスピタリティ」の精神を理解しながらも、ある部分ではできることとできないことを明確にする姿勢のように、私は感じた。

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