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読書のお部屋

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本の世界から始まる物語
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#アールグレイ

りんごかもしれない

りんごかもしれない

その日、ウサギは紅茶専門店のテラス席で、アールグレイを片手に絵本のページを楽しげにめくっていた。陽射しが優しく肩を撫でる心地よい午後だった。

ところが、ウサギの顔から次第に笑顔が消えていった。店内には楽しげな笑い声が響いているのに、彼女だけが、まるで別の世界に迷い込んだような、不思議な表情を浮かべていた。

その絵本は、「りんごの秘密」をそっとウサギにだけ囁いていた。
「りんごは大きなサクランボ

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おまえうまそうだな

おまえうまそうだな

枯れ葉がひらひらと舞う、静かな秋の昼下がり。ウサギは紅茶専門店のテラス席に腰を下ろし、アールグレイのカップを両手でそっと包み込んだ。

空に向かって広がるパラソルは、夏の鋭い陽射しが過ぎ去り、ほっと息をついているかのようにみえた。少し寂しげでありながら、どこか心地よい秋の空気が、ウサギをそっと包み込んでいた。

紅茶をひと口含むと、そっとカップを置き、一冊の本を取り出した。細い指先でページをめくる

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しろいうさぎ と くろいうさぎ

しろいうさぎ と くろいうさぎ

穏やかな秋の午後、ウサギはお気に入りのティーカップとバターサンドをそっと窓辺のテーブルに並べた。アールグレイを注ぐと、優しい香りがふわりと部屋中に広がった。

彼女は部屋の隅の小さな本棚に歩み寄り、そっと一冊の絵本を引き出した。それは、大切な人からもらったもので、忘れようとしても忘れられない、特別な本だった。

窓辺に戻り、過去の思い出をそっと胸の奥にしまいながら、そっと最初のページをめくると、仲

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おさらを あらわなかった おじさん

おさらを あらわなかった おじさん

雨がしとしとと降り続いていた。ウサギは窓辺に腰を掛け、雨音にそっと耳を傾ける。灰色の雲は、降り続く雨にもかかわらず、一向に薄れる気配がない。彼女はぼんやりと外の景色を見つめながら、心の奥に潜む感情を静かに抱きしめていた。

彼女はふと何かを思い出したように、本棚に手を伸ばし、一冊の本を取り出した。「雨の日に読むのはこの本ね」その本の表紙には、目を閉じて椅子に座ったおじさんの姿が描かれていた。

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パパの電話を待ちながら

パパの電話を待ちながら

少しばかり強い南風が、カフェのテラス席でカメの読む本のページをカサカサと揺らしていた。彼がふと視線をあげると、アールグレイを二つトレイに乗せたウサギが、微笑みながら静かに近づいてきた。

彼の隣に座り、「どうぞ」と、紅茶を差し出したウサギは、小さなリュックから一冊の本を取り出した。「この本、とても面白かったわ。私に新しい世界線を見せてくれたの。前に歩くエビとか、猫を食べるネズミとか……」

カメは

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