週刊・主観 その24 『コント ボトルメール 』

夜の海辺。潮騒。
老人と、その介護者らしき青年が歩いてくる。青年、持ってきていた折り畳み椅子を適当な場所に設置し、老人を座らせる。

老人  ありがとう。
青年  海風は体に障りますから、ちょっとだけですよ。
老人  わかっていますよ。死ぬまでに少しでも長く、この景色を見ていたいんです。
青年  そんなに思い入れのある場所なんですか?
老人  はい・・・。あなた、ボトルメールをご存じですか?
青年  瓶の中に手紙を入れて海に流す、あの?
老人  そう。手紙はいつか陸へ流れ着き、遠い土地の名前も知らない誰かが読んで返事をくれるかもしれない。そう考えるとロマンチックですが、海にゴミを捨てているだけと見る人もいるでしょう。あなたはどちらですか?
青年  僕は・・・正直、ロマンチックだと思ってしまいます。環境に良くないというのは確かに正論ですが、正論に縛られない美しさというのもあるんじゃないでしょうか。宛名のない手紙が海を渡って誰かのもとに届く。想像するだけで、とてもワクワクします。
老人  そうですか。あなたは、私と気が合いそうだ。
青年  もしかして、この場所からボトルメールを流したんですか?
老人  満月の綺麗な夜のことでした。今も、こんな夜に海を見てるとね、あの手紙の返事が返ってくるんじゃないかって、年甲斐もなくワクワクしてしまうんです。
青年  素敵ですね。
老人  人に手紙を書いたのも、思えばあれが最後かもしれません。自分の住んでいる場所、好きなもの、将来の夢。買ったばかりの便箋にしたためて、どうか誰かに届きますようにと祈りながら、手紙をレジ袋に入れました。
青年  レジ袋?
老人  レジ袋に手紙を入れて、口をギュッと縛って流したんです。波の上をプカプカ浮かんでる姿がクラゲみたいでね、思わず「おーい、クラゲさん。僕の手紙をよろしく頼んだよー。」って、浜辺から呼びかけてしまいましたよ。いい思い出です。
青年  ダメですよ。
老人  え?
青年  ダメです。それ。ただのポイ捨てです。
老人  確かにそうかもしれませんが、でもいいじゃないですか。偶には浪漫に思いをはせるのも。
青年  瓶ならね? 瓶だから許されてる行為なんですあれは。レジ袋なんて一番ダメです。ウミガメが食べちゃうんだから。手紙ごと。
老人  無事誰かのもとに辿り着く奇跡を信じたいじゃないですか。
青年  だから瓶ならね! レジ袋だったら無理ですよ。 嫌でしょ浜辺に落ちてるビチョビチョのレジ袋。絶対触りたくないでしょ。あと口結んだだけなら普通に水入ってきますよ。ビチョビチョの手紙とレジ袋がウミガメに食べられて終わりです。
老人  ・・・やはり、瓶にするべきでしたか・・・。
青年  なんでそこ横着しちゃったんですか。ボトルメールって言ってんだからボトル用意しなきゃダメでしょ。
老人  便箋を買ったセリアに、瓶がなかったから・・・。
青年  セリアのレジ袋でいいかーってなっちゃったんだ。てことはそんな昔じゃねぇな?
老人  1年前でしたかねぇ。
青年  浅い浅い。晩年に振り替えるには浅すぎるよ1年前は。
老人  私の手紙は、誰にも届かなかったんですね・・・。
青年  ・・・冷えてきました。戻りますよ。
老人  もう少しだけ・・・!
青年  家に空き瓶がいくつかあったはずです。今度はちゃんと、ボトルメールを流しましょう。
老人  ・・・はい・・・!

暗転
明転。男2人が浜辺でゴミ拾いをしている。

男1  うわー、こっちもひどいな。
男2  日が暮れるまでに終わるかなぁ。
男1  ・・・あれ?
男2  どうした? 
男1  この瓶、紙が入ってる
男2  ほんとだ。もしかしてボトルメールじゃね?
男1  開けてみるか。

  男1、瓶を開けて入っていた紙を取りだし読む。

男1  「はじめまして! 海沿いの一軒屋でのんびり暮らしてます。現在無職ですが貯金はそれなりに(笑) 趣味はドライブです。愛車のボルボで一緒にドライブデートしてくれる人募集中!」
男2  Tinderやってんじゃん。

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♦ 作者コメント ♦

 ごめんなさい!!!!
 ↑のお題をもとに書き出したんですけど、風味すらなくなってしまいました。こういうことじゃないことはわかってます。
 来週、同じお題で書きます。「叙情」もできるってとこ見せてやらぁ!!!!

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 swanboat.mail@gmail.com

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