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【SVJPイベントレポート】未来を実装する ~デジタル時代にビジネスを大きく成長させるための5つの要素~

2021年10月、SVJPの会員企業様の社内起業事業の参加者向けの講演を開催しました。オンラインで開催されたこのイベントでは、東京大学のディレクターを務める馬田隆明先生に著書「未来を実装する」をベースに、企業のデジタル化や今後の社会のあり方についてご講演いただきました。こちらはその内容のサマリーとなります。

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これからのデジタル技術の社会実装には何が必要なのか?社会・企業のDXの実装には何が必要なのか?
これらの問いに対してさまざまな角度から考えてみましょう。

新しいテクノロジーを社会に実装するためには、テクノロジーの実装だけではなく「社会の変え方」などの変革が必要と考えられています。まずこれについて過去の事例をさかのぼって見てみましょう。

現在、DXが進んでいると言われていますが、約100年少し前にEX(Electric Transformation)と言われる変革が起きていました。電気が発明され工場などの動力が蒸気機関から電気モーターへと大きく変わろうとしていた時のことです。電気への変革では、短期間で蒸気機関から電気モーターへの動力変革が一斉に起きると考えられましたが、これが成し遂げられたのはなんと約50年後でした。

その理由は、動力自体は蒸気機関から電気モーターへと技術的には容易に置き換えることができたのですが、それを使う工場自体の変革が簡単にできなかったからです。蒸気機関では動力の伝達をベルトで工場の中央から端まで行うため、工場内の配置はベルト伝達に適した配置となっていました。それをモーターで使うための最適な配置に変えるためには、蒸気機関を電気モーターに変えるだけでなく、工場内のすべての配置や手順を電気モーター用に最適に変更する必要があっためです。
これは新しいテクノロジーで変革を起こすためには、テクノロジーの実装だけではなくそれを使う周りの変革も同時に求められることを如実に示しています。

ここでは、「社会の変え方」として社会実装を進めるために必要な5つの要素について解説します。全体を支える大きな基盤の要素として「デマンド」「インパクト」があり、実現手法として「リスクと倫理」「ガバナンス」「センスメイキング」があります。


デマンド

まず基盤部分の「デマンド」について解説します。これは社会にとってデマンド(需要)、つまりニーズがあるかどうか、ということです。

いくら優れたテクノロジーであっても当然ですがニーズがないと実装されない、ということです。この場合、個人のニーズではなく社会にとってのニーズを指します。例として単純ではありますが、スーツケースのキャスターがあります。キャスター付きのスーツケースは以前から存在しましたが普及しませんでした。これにはいくつかの社会的な要因があり、以前はそもそも飛行機に乗る人が少なかった、路面が平坦ではなかった、ポーターが存在したなどです。現在ではこれらの要因がなくなりニーズが存在するため、多くのためキャスター付きスーツケースが使用されるようになりました。

またニーズには特性があり、成熟した社会では切迫した課題が少なく、新しいテクノロジーは導入されにくい面があります。たとえばFintechは現金の持ち歩きが比較的許容される先進国よりも、ATM網もなく現金の使いにくいアフリカなどの後進国ではむしろ受け入れやすいといったことです。


インパクト

次に「インパクト」である、未来の理想像です。「インパクト」から現実を引いた分が「デマンド」や課題になります。この未来の理想像を描くことが非常に重要であり、有名なものは元アメリカ大統領ケネディが掲げた1960年代中に月に人を送る、といういわゆる“ムーンショット”と言われるものです。これを実現するためのアポロ計画では後々に繋がるさまざまな重要なテクノロジーが生まれました。
「インパクト」を描き、そこに至る道筋を作り、関係者を多く巻き込んでいく、というステップを踏むことが非常に重要です。

世界的にこれをうまく実現したのが、UberとAirbnbと言われています。いずれも世界中のどこでもニーズがあったため拡がったわけですが、日本においては2者の明暗が分かれました。3番目のステップである関係者を巻き込むというところに差があったからです。Uberは日本のタクシー業界などを巻き込まずに進めたためにうまくいきませんでした。一方でAirbnbは民泊を進める際に自治体などをうまく巻き込み、日本での民泊の拡大に成功しています。

このステップを進めるためにロジックモデルなどの手法がありますが、最も大切なことはサービスを受ける受益者の視点で進めることです。Uberのケースで言うと受益者はタクシー(Uber)に乗る人にあたります。


リスクと倫理

テクノロジーの進化はよいことだけではありません。過去には戦争に使われたり、また差別を生んだりした事象も起きており「リスクと倫理」を考えることが非常に重要です。

「リスクと倫理」を考えずに進めたために社会実装が止まってしまった例に、電動キックボードがあります。シンガポールではキックボードは当初一旦全面解禁になりましたが「リスクと倫理」を管理しなかったため、事故が増え治安への影響まで出てしまったため、2019年には政府が全面禁止にしました。フランスやドイツではヘルメット必須で走行を自転車道路に制限するなど「リスクと倫理」をコントロールしています。


ガバナンス

テクノロジーの進歩をリスクなく進めるためにも本来は規制などが必要です。従来、規制は政府によって行われるものでしたが、昨今政府(ガバメント)による規制よりも、より多くの人が関わる社会規範などから成る「ガバナンス」の方が重要性を増してきたと言われています。

また「ガバナンス」は時代とともにアップデートされていくべきです。例えばスタートアップが決済システムの市場に参入してくるようになって銀行法は改正され、FinTechが活発化しています。またクラウド利用が進むにしたがって、クラウド型電子署名も法的に認められるようになりました。社会規範という意味ではたとえばシャンプーの回数などもそれにあたります。江戸時代には月に1,2回程度だった洗髪回数は時代とともに増え、1990年代からはほぼ毎日となりました。これはシャンプーを売る側によるマーケティングにより社会規範が変わってきたからだと言われています。これにより洗髪関連の新製品などが多く開発されマーケットはさらに拡大しました。


センスメイキング

前述のガバナンスがアップデートされるためには多くの人が納得する必要があり、それを「センスメイキング」と言います。「センスメイキング」は納得感・腹落ちとも言い変えることができます。今まで述べてきたさまざまなことが利用者・受け手に納得感・腹落ちを持って受け入れてもらうことがとても重要です。デジタルテクノロジーを使って新しいテクノロジーを社会実装する際に、最近ではプロトタイプやデータを使いながら、受け手の反応を見ながら進めることができます。これはデジタルテクノロジーならではの優位点であり、スタートアップ企業の得意とするところです。


まとめ

約10年前のスタートアップ(0→1→10)の立ち上げ手法はうまくいっていました。ただし現在ではさらに(10→100)拡大する時には、このやり方は時代遅れになっているのではという考え方もあります。大きく拡大するためにはこれまでとは異なる社会実装の方法論が必要になっています。
冷戦の終わりの1990頃までは経営戦略は事業戦略とイコールでした。その後2015年頃まではこれに資本政策(M&Aや株主価値経営など)が加わります。そして2015年頃から現在ではCSV経営・ESG投資と言われる社会貢献が経営に求められるようになっています。さらにミッションエコノミーと言われる公共的なミッションを掲げる企業に資金が流れるようになってきています。
このことは企業にも本業での社会貢献が求められており、公共へも影響する「インパクト」が市場では求められているということです。
つまり、現在では経営戦略に企業戦略と公共政策とのシナジーとなるより良質な「インパクト」(パーパスとも言われる)を掲げて、共感と納得を得て多くの人々を巻き込んで行くことが重要となってきています。
そしてITを活用できる社会を作っていくためには、技術的なイノベーションに加えて、これを受け入れる制度や組織、仕事のやり方などの補完的イノベーションが求められています。

社会をも変えることで、テクノロジーが活用される未来を実装することができる、と言う認識が非常に重要です。

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