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海外ヨガニュースで読み解く ヨガインストラクターという仕事の現在 Part2

この記事はシリーズになっています。Part1をまだお読みになってない方はそちらかどうぞ。

Part1ではサーベイを元にマクロな視点でヨガ業界を眺めた上で、Yoga Worksのインストラクター達が立ち上げた労働組合であるUnionize Yogaの取り組みをご紹介しました。

Unionize Yogaの結成当初の記事、そして英国でもヨガインストラクターによって労働組合が設立されたことなどが今回のトピックです。

ニュース②ヨガインストラクターの労働組合が結成されるまで〜ヨガインストラクターVSプライベートイクイティ社


この記事では、1つ目のニュースより前のもので、ヨガワークスのインストラクター達が労働組合を結成するに至る決断と初期のヨガワークスの対応について書かれています。

ヨガ業界が数十億ドル規模の拡大を続ける中、インストラクター達は最低賃金かそれ以下のフィーで働いていて、しかも昇給基準が定められていません。Unionize Yogaは福利厚生や安定性の確保、社会保険加入の権利などを要求しています。米国では国民皆保険がないため、会社単位で医療保険に加入するか個人で民間の高い保険に入ることになります。多くのフリーランスのヨガ講師は保険に未加入です。

また、ヨガに内在する価値観を維持するためのクラスを確保するためにヨガ講師に発言権を与えることを要求していることについても触れられています。この記事の中で労組メンバーで労組メンバーは「ヨガの先生がこのビジネスの中心だとよく言われます(中略)しかし、給与や福利厚生、雇用保証の面ではその言葉と一致していないのです」と発言しています。言葉では持ち上げながらも、専門性を持つインストラクターにクラス内容や自分達の集客につながるプログラムについての発言権を与えない図式が伺えます。

この体制では交渉に応じさせることすら困難だったと考えられます。実際、この記事が書かれた当初はヨガワークス側がかなり抵抗していた様子ですが、現在は交渉に応じています。粘り強い交渉だけではなく記事にしてもらうなどのパブリシティも功を奏したでしょうし、興味を持ってもらうことって大切ですよね。


ニュース③米国最大手CorePower Yoga、インストラクターへの賃金の不払いで告発される


CBCニュースで取り上げられたのは、200を超えるスタジオを擁する米国最大のヨガスタジオチェーン CorePower Yogaに対する集団訴訟です。

インストラクターはレッスンごとにフィーが決まっています。ヨガに限らず何らかの講師経験がある方はレッスンや講座を行う場合、準備が大切だということはご承知だと思います。しかし、その点を顧みない報酬額の設定が問題視されています。

記事によれば、1時間$15が最低賃金だとすると$75ほどが支払われていないのだとしています。具体的な報酬額は書かれていませんが、レッスン時間外の雑務(受付や掃除)、移動時間、そして専門性が全く考慮されていない数字であると考えられます。

さらに講師養成コースへの勧誘が課せられて、その勧誘成績が報酬に関係していることも指摘されています。絞れるだけ絞って生徒を先生にする、つまり今度は最低賃金程度で働かせる…それはヨガの精神を希薄化させると取材に応じたインストラクターは指摘しています。

この訴訟はその後2019年9月にコアパワーヨガ側が約$1500万支払う形で決着がつきました。原告はCorepower Yogaで働いていた2,180人(多!)のヨガインストラクターです。単純計算で保障額が割り振られるわけではないようですがおよそ$330から$1,000以上が支給されたようです。[4]

ニュース④英国初のヨガ労働組合、9億ポンド産業であるヨガ業界へより公平な利益分配を求めて闘う

こちらは英国のヨガ事情。英国のヨガ産業は9億£(1兆298億円超)というビッグマーケットですが、ヨガ講師のフィーは低く、レッスンフィーは10から20£(1500〜3000円程度)程度です。ヨガレッスンには準備や雑務が付随することを考えると時給換算にして9.5から10.85£(1500円前後)であると伝えられています。

単発の仕事を請け負うフリーランサーのことを「ギグワーカー」と呼びます。Uberドライバーなどが代表的です。デバイスを使うかどうかなど定義には多少の幅がありますが,仕事がなければ報酬が発生しない点ではヨガインストラクターも同じです。

英国のヨガインストラクター労働組合は、このようなフリーランスの労働者を支える労働組合であるIWGB(英国独立労働者組合)の新支部として設立され、国内に推定10,000人いるヨガ講師の参加を募っています。

この記事の中では「生活賃金」という耳慣れない言葉が何度も出てきますが、これは「労働者が最低限の生活を維持するために必要な生計費から算定した賃金[5]」のことで、支払う側に課される最低賃金とは違う考え方です。

余談になりますが、日本国憲法25条第1項では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定められています。最低賃金が生活賃金より下回っていたら憲法違反なのでは? という疑問を感じます。

さておき、英国のヨガインストラクターの多くは、この生活賃金に満たないフィーに甘んじてきたわけですが、ここにきて団結して交渉を始めました。他人事と思わず、経緯を追いたいと思います。


インストラクター達のこれまでとギグワーカーのこれから

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Unionize Yogaがある特定のスタジオのインストラクターユニオンであったこと、CorePower Yogaのケースは労働組合ではなくて団体訴訟だったこととは異なり、英国の労働組合は国内全てのヨガインストラクターに開かれているのが特徴的です。IWGBはUberドライバーの訴訟が行われているところです。現在は連戦連勝、Uberドライバーは労働者として認められました。同様の判決はフランスの最高裁でもされたとのことで、ギグワーカーの権利が大きく変わるのではと目されています。

ヨガ講師の養成コースは、ヨガ…というかアーサナをメインとしたハタヨガレッスンの指導を担当するためのコースです。それを修了した人がレッスンの担当を目指すのは自然といえます。またリクルートにはお金がかかりますし、自分たちのコースを出た先生はスタジオへの忠誠心があるため、スタジオもそれを望むことは多いでしょう。でも現状は本当に厳しい

ヨガの先生同士が信頼関係を築き、ヨガビジネスのリーダー達の不正や傲慢ーー専門性を顧みず、透明性に乏しく、人間関係に依存して適切な報酬を与えない行為、あるいはそれらをヨガの思想を故意に悪用して正当化する行為に声を上げられなかったのは、競争を煽られざるを得ない構造そのものの問題です。

英国のヨガインストラクター労働組合でも賃金改善や有給休暇の取得のほか、セクハラやいじめ撲滅についても運動がなされています。そしてGardianの記事でもやはり「ヨガ的」であることの意味が問われています

組合幹部の1人は「ふさわしい補償を求めているのに(金銭の要求が)ヨガ的ではないと考える誤った信念がヨガ界にに深く根付いています」と話しています。じゃあ適切な報酬を与えず労働力を求めるのはヨガ的なのか?

最低賃金を是正することを求めると同時に、専門性や人権に対する要求がどの交渉にも含まれていることは、これがただの金銭的な問題ではなく、ヨガ講師という仕事を選んだ人たちに対する敬意の欠如を示していると言えるのではないでしょうか。

終わりに

これらの問題は、主に低賃金であることによって表面化しました。しかし複数の記事を読んでいくとその問題の裏に潜む「なぜ」が見えてきます。

安定した経営維持が難しいビジネスモデルによる競争の激化。それによってもたらされた講師養成トレーニングの頻発からは需要と供給のアンバランスが起きています。また、数字だけを追った経営、しかもそれはきちんとした統計に基づいているのかもわからない不透明さが付きまといます。問題解決のために自分たちが専門教育を行い認証を与えたヨガ講師の発言を認めず、ヨガの思想を時に無視し、時に曲解した評価を与えている…。

もちろんそのような企業ばかりではないはずです。しかし、この20年間で急成長したヨガビジネスは、ここに来て今までのやり方では継続が困難になっているのも確かです。より持続性があり健全なあり方のために、企業と個人の関係が対立ではなく対等な信頼関係になっていくことを願います。

企業への忠誠心が高い日本の社会でも、フリーランサー、ギグワーカーの困難については記事中で既に触れました。次回の更新では、日本のヨガ業界に話題を移します。英国・米国との共通点と違い、そして日本初のヨガインストラクターの労働組合の幹部のお二人にもお話を伺ってますので、お楽しみに!


【終了しました】ヨガの先生も、そうじゃない人も〜日本初のインストラクターの労働組合・ヨギーユニオンのお二人を迎えて考える「これから」について

2・27・Sat 13:00 on clubhouse
@chietsunoまたは@naho417をフォローしてね

3本目の記事のためのお話はなんとクラブハウスで公開トーク予定です。また「わたしも現状をお話したい!」という方はぜひスピーカーとしてご参加ください。ヨガの先生以外も、ギグエコノミーや新しい働きかたについて興味がある方も歓迎です。



Guest:

りつこ(YIU委員長・ヨガ&ピラティス講師)

フィットネスインストラクターから暦20年Over…には見えないフレッシュなりつこ先生。ご自身の出産を経て産前産後のママクラスも主宰されています。ヨガ哲学はヴェーダンタを学ぶ日々。



まゆ美(YIU副委員長・ピラティス講師)
教えるのはピラティスだけどヨガの練習経験も豊富なまゆみ先生。新しい働きかたについて模索する学びつづける副委員長は、最近は講演活動なども。美しいものが大好きで猫とバレエ原理主義。

【引用文献】
[4] https://www.hrdive.com/news/corepower-yoga-pays-15m-to-settle-wage-and-hour-class-action-suit/563092/
[5] https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181105-00103138/

この記事を書いたのは…
Svaha Yoga(津野千枝・青木菜穂)ふたりで記事を読み、要約し、怒り、自らを顧み、立ち直り、チェックし合って構成しました。お読みいただきありがとうございます。一緒に考えていきましょう。誤訳があったらお知らせください。

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