脳と心とヨガ哲学①Yoga Sutra1-1宣言の効果で実践を始める力を得る
この記事からシリーズで扱う『ヨーガ・スートラ』は、4世紀頃にパタンジャリによって編纂されたヨガ文献です。全部で4つのパーダ(章)、195節から成り、ヨガの定義や実践方法などが記されています。
最初のサマーディ・パーダは心の制御と悟りに至る道を説き、第二章にあたるサーダナ・パーダはヨガの実践法を解説します。ヴィブーティ・パーダは瞑想の成果として得られる超常的な力(シッディ)を扱い、カイヴァリヤ・パーダでは最終的な解脱と自由について述べられています。
このシリーズでは特に重要な節だけを抜粋してお話ししていきますね。
ヨーガ・スートラの哲学
ヨーガ・スートラは世界をプルシャ(純粋な意識・本来の自己)とプラクリティ(物質世界)の二つに区別して説明する、二元論哲学に則って論が進みます。
インドには六派哲学と呼ばれる存在の本質や解脱の道を探求する6つのダルシャナ(見解・世界観)があります。その中でヨーガ学派は、サーンキヤ学派の二元論を基盤として、その思想を実践的に活かす方法論を提供しています。ヨーガ学派は瞑想や道徳的訓練を通じて、解脱(カイヴァリヤ)に至る道を強調し、心身の統一を目指す実践的な体系です。
いきなり細かく説明しても「?」「??」でしょうから、ここでは詳細な解説は省きます。後でまた何度も出てくる概念ですので、その都度それについて考えていきましょう。
では早速内容へと進みましょう
1-1 Atha yoganusasanam(ここに、ヨガの教えが始まる)
Atha = now;
Yoga = Yoga;
anuśāsanam = exposition or instruction.
インドの聖典はしばしば「アタ」(Atha)という単語から始まります。「今ここから」を意味し、これから始まる教えに対し聴く者の準備ができていることを述べているのです。
ヨーガ・スートラ以前に、ヨガはそれなりの歴史を持っていたことが考えられます。これよりもずっと古いヴェーダーンタと呼ばれるバラモン教の聖典には、実践としてのヨガがすでに語られていますし、ヨガというメソッドにまとめ上がるためにはそれなりの時間が必要だったはずです。
ヨガの起源は定かではありませんし、殊更に古いということが言いたいわけではありません。
しかしこういった文献が残っており、それにあたることで、わたし達は先人と同じだけの時間を費やすことなく知識を得ることができるという事実には改めて驚きと喜びを感じます。先人たちが積み重ねてきた学問の成果や技術などがあってこそ現在の学問や技術があるという意味の「巨人の肩の上に立つ」という表現がありますが、ヨーガ・スートラを読むことは、まさに巨人の方の上に立って遠くを見通すことができる経験です。
「Atha Yoganusanam」という宣言は、知識を示す側の言葉ですが、同時に、私たち一人ひとりが自分自身の個人的な経験に依存しすぎることなく、先入観を捨て、これから始まるヨガの実践の経験に誠実に謙虚に向き合うことを求めています。
精神的な成長、新たな学びへの意欲はあるけれど、なかなか実行に移せない時、宣言の力を借りてみるのも良いかもしれません。
認知心理学的な宣言効果
心理学的には「宣言」には、意図や目標を言葉にすることで、それを強化するという効果があることが分かっています。
脳内で目標達成のための行動を具体化し、モチベーションを高める役割を果たすでしょう。何かを「始める」と宣言することで、脳はその新たな行動や習慣に適応する準備を始めます。
ヨーガスートラの1-1で「アタ・ヨーガーヌシャーサナム」と宣言することは、ヨガの実践を始めるという強い決意を表すだけでなく、心と体をその実践に向けて準備させるでしょう。
ヨガは身体活動と内省的な実践の両面があります。運動は、習慣化することが難しいもののひとつです。宣言をすることによって、続けようという意思を強固に、あるいは唱えることでリマインダーの役割を果たすことが期待できそうです。
ヨガを始めようかなと思ってYouTubeチャンネルを登録したり、スタジオの前を通りかかりつつ、なかなか実行できない人は「アタ・ヨーガーヌシャーサナム」と唱えてみましょう。すぐにスタジオに入れなくても、ウェアを買いに行くことも、この宣言の後なら実践の一部になり得ます。
すでにヨガを始めている人にとっても、多忙な時期や体調を崩した後には習慣が途絶えそうになることがあります。「アタ・ヨーガーヌシャーサナム」と改めて唱えてみるのはどうでしょう。
始める勇気を持ち一歩踏み出すこと、あるいは何かを継続することそのものが自己効力感を高め、持続的な実践を支える強力なツールとなるはずです。
ヨガ哲学を学び始めるにあたって
この記事シリーズは軽い読み物ですが、新しいことを知り、人生を豊かにするというワクワク、つまり学びを届けられたらと思って書いています。
さて、ここで提案があります。インドの哲学は二元論以外にも不二一元論や多元論などがあります。詳細はまたいつか触れていきたいと思いますが、これらの様々な論、考え方のスタイルは独立したものというより、哲学的な対話の発展とともに別のアプローチが提案され、対立しながらも共存してきた歴史があります。
だから、これらの論を正しいとか誤っているとかで捉えるのはもったいないことなんだよというのがまずひとつ。
わたしたち現代人は、哲学が宗教と切り離せなかった時代の考えを神託のように有り難く何もかも受け入れる必要はありません。自由にその洗練された論を享受することができます。
しかし同時に、自分に都合よく受け取ってしまわないように細心の注意を払う必要があります。注意深く、 謙虚さとクリティカルな視点の両方を持ちながら、この古典に当たることでヨーガ・スートラは21世紀に生きる私たちに最大の知恵を与えてくれるものになり得ます。
これから、哲学について、そしてそれが現代のサイエンスでどんなふうに立証されたり有力な仮説になっているかなどの新しい知見を加えて記事にしていきたいと思っています。
東洋哲学は日本語を第一言語としている我らにはとても馴染むものだし、人生を豊かに、軽やかにしてくれるものとなり得ます。気楽に読んで、たまに立ち止まって考えてもらえれば幸いです。楽しんでいきましょう!
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