『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』

▼「1枚の絵画」すら「鑑賞」できない
・絵を見ていた時間と、その下の解説文を読んでいた時間のどちらが長いか?
私たちは、作品情報と実物を照らし合わせる「確認作業的」な鑑賞をしている。
これは、解釈に正解があることが前提でそこに向かうことが目的になっている。

→「自分なりのものの見方、考え方」とはかけ離れて物事の表面だけを見て全てを分かった気になり、本質を見落としている。
・・・私たちは「自分のものの見方」を喪失している。これを持てる人こそが、ビジネスでも学問でも人生でも結果や幸せを手に入れるのではないか。

そこで必要になるのが・・・

◆「アート思考」
アーティストが目に見える作品を生み出す3つのステップと同じ思考プロセス。
「自分だけの視点」で物事を見つめ、「自分なりの答え」を作り出す。
自分の内側にある興味で自分なりの見方で世界を捉え、自分なりの探求を続けること。
予想がつかないし誰も正解を知らない、「人生100年時代」、「VUCA時代」に必須の能力。

*VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という、
4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワード

*3つのステップ
1. 自分だけのものの見方で世界を見つめる
2. 自分だけの答えを生み出す
3. 新たな問いを生み出す

▼アート思考の3要素
表現の花・・・目に見える部分。「作品」にあたる。
興味のタネ・・・興味や好奇心、疑問。アート活動の原動力。
探求の根・・・アート作品が生み出されるまでの長い探求、試行錯誤の過程。

→美術の授業で行われる「絵を描く」「作品を作る」教育は、「花」にしか焦点があたっていない。
本来の目的は、「アート思考」、すなわち「自分だけの視点」で物事を見つめ、「自分なりの答え」を作り出す力を養うこと。

*「真のアーティスト」と「花職人」
真のアーティスト・・・
興味のタネから伸びた探求の根を地下でひたすら伸ばすことに興味を持っていて、
結果的に独自の「表現の花」(作品)を咲かせるが、それが目的ではない。
例)21世紀以降の気鋭の画家たち。現状に疑問を抱き、もがき苦しみながらアートに対して独自の解を生みだす。

花職人・・・
立派な「花」を作り上げることが目的。地下深くで探求を続ける真のアーティストとは対照的に、
見栄えのする作品を次々に世界に送り出す。しかし、興味のタネや探求の根は無いため、形式的で職業的。
例)中世の職業画家。王侯貴族からの依頼で、ひたすら見栄えのする絵を事務的に書いていた。

なぜ「真のアーティスト」が生まれたのか・・・

→19世紀に「カメラ」が発明されたから。

*カメラ発明以前・・・
中世のヨーロッパでは、一部の知識層を除いて文字が読める人が少なかった。
したがって、3つの需要が海外に対してあり、1つ目はキリスト教の布教にあたりその世界観をビジュアルで表すこと。
2つ目は、経済的に余裕のある市民が求める余興的な風景画や生活の場面を描くこと。
3つ目は王侯貴族の権威や権力を示す「肖像画」を描くこと。
いずれも依頼主が求めるゴールを描く花職人的な画家需要で、自分の感性に任せて表現する、という概念はない時代。

*カメラ登場後・・・
アートで「目に映る通りに描く」という目的が、「速く・正確に」それを実現するカメラに取って代わられる。
従来のアートの目的が完全に崩れ去り、「アートの意義とは?」「アーティストは何をすべき?」「アートでしか表現できない
ことは?」と、アーティスト達の頭にかつてないほど巨大な疑問が浮かび上がり、それぞれが探求の根を伸ばし始めた。

▼アートの常識を打ち破った6人の画家
20世紀のアートの歴史は、「アートの常識」からの解放の歴史

1.
アーティスト:アンリ・マティス
代表作:《緑の筋のあるマティス夫人の肖像》
https://www.artpedia.asia/green-stripe/

探求したこと:
自分の妻を描くにあたり、鼻筋を緑に描くことで「目に映る通りに世界を描く」という目的からアートを解放した。
色を色として純粋に使う、「自分なりの答え」を生み出す。

2.
アーティスト:パブロ・ピカソ
代表作:《アヴィニョンの娘たち》
https://www.artpedia.asia/picaso-les-demoiselles-d'avignon/

探求したこと:
視点を1点に固定する「遠近法」を用いた表現から、アートを解放した。
正面・横・後ろなど多視点をリアルを1枚の絵画に再構成する「新しいリアル」を模索。
見る人の経験や知識に影響をされる遠近法的な人間の視点に疑問を呈し、
1つの視点から人間の視覚だけで見た世界=リアル、という前提を覆し、リアルの表現の多様性を示した。

3.
アーティスト:ワシリー・カンディンスキー
代表作:《コンポジションⅦ》
http://artmatome.com/『コンポジション7』%E3%80%80ワシリー・カンディンスキ/

探求したこと:
西洋美術史上初、具象物を書くことからアートを解放し、「作品そのものとの対話」の可能性を広げた。
人の心に直接響き、見る人を惹きつける絵を追求する中で、
音を色に置き換え、リズムを形で表現することで絵から具象物を完全に排除することを試みた。

作者の考えや人生的バックグラウンドなど「作品の背景との対話」に加え、
音楽を聴くように、鑑賞者の自由な感覚で作品の世界を広げる「作品そのものとの対話」を可能とした作品。

4.
アーティスト:マルセル・デュシャン
代表作:《泉》
https://www.artpedia.asia/fountain/

探求したこと:
便器そのものも作品とすることで「アートは美を追求すべきものか?」という疑問を表現し、アートを「視覚で愛でる」ことから解放した。
アーティストの探求の過程が「表現の花」に必ずしも帰結する必要がないことを示す。
「表現の花」を極限まで小さくする代わりに、「探求の根」を大きくした《泉》により、アートを視覚から思考の領域に持ち込んだ。
思考や触覚を使ったアートの鑑賞を提案する。

5.
アーティスト:ジャクソン・ポロック
代表作:《ナンバー1A》
https://www.musey.net/6723

探求したこと:
キャンバスに絵の具を撒き散らしたアートを通じて、何らかのイメージ映し出すものという役割からアートを解放。
鑑賞者がアート作品そのものではなく内部のイメージしか捉えていないことに気づいてすらいないことに着眼し、
物理的な「絵」そのものに意識を向けさせようとした。絵はただの物質であることが許容されるようになった。
絵画はイメージを映し出すものだとは限らず、物資そのもの、体の動きの軌跡、
など多様な役割であり、まだ気づかれていない捉え方の存在を示唆している。

背景には、長引く大戦で疲弊したヨーロッパに変わり国際社会の中心として勢いを増すアメリカの存在。
伝統的なアートを重んじるヨーロッパに比べて、新時代のアートが勢いよく広がっていた。

6.
アーティスト:アンディ・ウォーホル
代表作:《ブリロ・ボックス》
https://www.artpedia.asia/andy-warhol/

探求したこと:
キッチン洗剤のパッケージをそのまま木箱に写し取った作品を発表し、「アートとは何か?」という疑問を投げかける。
美術館にもあるし、スーパーや家のキッチンにもある《ブリロ・ボックス》を通じて、
「アート」と「アートでないもの」の境界線の曖昧さを浮き彫りし、アートの確固たる枠組みは存在すらしないことを問いかけた。
デュシャンはそれまでの定石を大きく外れながらみ、アートに対して「美を追求すべきものか?」と投げかけたが、
ウォーホルは「アートとはそもそも何か?」という問いを表現した。

▼あらためて、「真のアーティスト」とは?
自分の好奇心や内発的な関心をきっかけに価値創出をする。
「アートという枠組み」がウォーホルによって覆されたいま、アーティスト=絵を描く人や物作りをする人ではない。
自分の興味・関心・疑問からスタートし、常識や正解にとらわれずに、「自分だけの視点」で「自分だけの答え(表現の花)」を出す人全てがアーティスト。
これこそが、「VUCA時代」に通用する「アート思考」でもある。

▼その他メモ
・数学的な答えは変わらないことに価値があるが、アートの答えは変わることに価値がある(著者)
・素晴らしい作品はスキルではなく、自分らしい表現から生まれる
・目に映るものとリアルはイコールではなく、視覚で捉えられない場所にもリアルは存在する
・鑑賞とは、作者が伝えたかったことを正確に理解することではない