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ちいさなもりの

たろうちゃんのあたらしいおうちのちかくには、ちいさなもりがありました。
たろうちゃんはそのもりのなかで、たべられるきのみをさがすのがすきでした。
ちいさなもりにはいろいろないきものがいて、それらとおはなしをするのもすきでした。

たろうちゃんにはもりのなかにとくべつなかよしのいきものがいました。
おばけのぴい。
ぴいはたろうちゃんとことばをつかっておはなしをすることができるのです。
ふたりはよく、おしゃべりをしました。
それは、ちいさなもりのなかのほかのどんないきものともできないことなのでした。


あるときぴいがいいました。
もりのそとには、もりにないおんがくがあるんだって。
もりをでてとおくにいかなくちゃいけないんだって。
ぴいはそれをききたいの。
たろうちゃん、いっしょにいこう。
たろうちゃんはよろこんでいこうといいました。
ぴいはおばけですし、たろうちゃんにはにんげんのかぞくがいます。
ふたりでないしょにおでかけをしました。
おおきなやまのなかで、おおきなうねりのかわをみました。
ゆうやけのうみにはいりました。
ちいさなもりにははえていない、いろんなしょくぶつや、ちいさなもりにはいないしゅるいのいきものにあいました。
おそらにさく、おおきなおおきなおはなをみました。
ちいさなもりのなかでは、おそらはこんなにひろくなかったのです。
あさも、ひるも、よるも、どれもみんなうつくしかったのです。
ぴいのききたかったおんがくは、そこいらじゅうでなっているよ。
そうだねえ、おんがくはそこいらじゅうにあるんだねえ。
かえりみち、おおあめがふって、びしょびしょになっても、ふたりでくっついていたらすこしはあたたかいのでした。
そのすこしで、たろうちゃんもぴいも、もうすこしもうすこしとあるくことができました。


くたくたくたびれ、ちいさなもりへぴいはかえって、たろうちゃんはおうちにかえりました。
ぴいはひとりでねむりますが、たろうちゃんにはかぞくがいます。
たろう、そんなにくたびれて、なにをしていたの。だれかとどこかにでかけたの。
うん、ゆうくんたちとあそんでいたの。
いつもよりもはりきっちゃって、とおくにいったよ。いろんなおんがくをきいたんだ。
たろうちゃんは、おばけのぴいといたことを、にんげんのかぞくには、いえなかったのでした。


たろうちゃんたろうちゃん、こないだはぼくとってもたのしかった、またあそぼうよ。
いいよ、ぴい。こんどはどこにいこうかな。おまつりをみにいこうか。
たろうちゃんとぴいは、ときどきもりのそとにあそびにゆくようになりました。
ぴいはおばけですし、たろうちゃんはにんげんですから、いつもこそこそこっそり、ふたりででかけました。
ふたりでいることが、ふたりにとってたいせつなことだったのです。


だけれども、ぴいはたろうちゃんのおうちにでいりしているやまねこから、たろうちゃんがぴいとあそぶために、かぞくにうそをついていることをききました。
ぴいちゃん、ぴいちゃん、たろうちゃんのだいじなかぞくに、たろうちゃんはうそをついているよ。
ぴいちゃんがわるいおばけじゃないことが、ほかのにんげんにはわからないことをたろうちゃんはしっているんだ。
そうなの、やまねこ、おしえてくれてありがとう。


ぴいは、ひとりのねどこで、じっとしばらくかんがえました。
あくるあさ、いつものようにたろうちゃんがやってきて、おひるごはんをいっしょにたべようといって、おむすびをくれました。
ふたりはちいさなもりのそばの、ちいさなかわのそばにいつものようにこしかけました。
いつもとちがうのは、ぴいが、たくさんかんがえたことです。


ねえたろうちゃん、だいじなひととは、いつでもほんとうにわらっていたいの。ないしょやうそがあると、ほんとうにわらえないの。ぴいはたろうちゃんがだいすきだから、たろうちゃんがほんとうにわらっているのがいいんだよ。
ありがとうぴい、ぼくもぴいがだいすきだよ。ぼくはぴいにはうそはつかない。
ぴいはふかくいきをすいました。
ねえたろうちゃん、たろうちゃんのだいじなひとに、ぼくのことでうそをついたでしょ。
ぼくはぼくのせいでたろうちゃんがたろうちゃんのだいじなひととほんとうにわらえなくなってしまうの、かなしいんだ。
もういいおわるまえに、ぴいはぼろぼろなみだをながして、ことばがぶるぶるふるえておりました。
それでもちゃんと、いいました。
たろうちゃんはもうなにもいえませんでした。
ぴいのきもちがよくわかりました。
とくべつになかよしのふたりだからです。
ごめんねも、ありがとうも、いまはふさわしくないことばなのでした。


そうだね、ぴい。ぴいのいうとおりだ。ぼくはたいせつのやりかたをまちがえてしまった。
たろうちゃん、ぴいはもうふたりでおでかけはやめようとおもう。ちいさなもりへもどろうよ。あすこにはたくさんほかにいきものがいる。たろうちゃん、ちいさなもりのなかのできごとなら、うそがなくても、だれにでもはなしていいでしょう。おばけにあったって、いいでしょう。
ぴい、ぴい、ごめんね、やさしいぴいをなかしてしまったから、ごめんね。
そういうたろうちゃんも、ぴいとおなじにぼろぼろこぼしてぶるぶるふるえているのでした。
ふたりはてをとりあって、さいごのふたりのおでかけの、かえりみちをあるきました。
おんがくのたびの、ひゃくまんぶんのいちほどの、みじかいかえりみちでした。


それからふたりはちいさなもりのなかで、たまにあそぶようになりました。
いつしかたろうちゃんも、もりのなかよりもおそとにともだちがふえました。
ぴいは、たろうちゃんがきてくれるのをとてもとてもよろこびましたが、たろうちゃんに、もう、あそぼうよとさそうことはしませんでした。


たろうちゃんは、おとなになってからでも、ふたりでないたかえりみちのことを、だれかにうそをつくときにおもいだします。
おとなになってからでも、そのかえりみちの、しゅんとくびをさげてあるく、ぴいのつまさきをおもいだして、そのときだけは、いつでもこどものたろうちゃんにもどるのでした。
おばけのぴいは、いつか、たろうちゃんがおばけのせかいにやってくるのをのんびりと、けれどさみしがりながらまっています。


たろうちゃんとぴいは、とくべつななかよしなのでした。
ふたりにとって、ふたりでいるじかんがとてもたいせつなのでした。
そしてそれは、いつおとずれてもいいじかんでしたので、たろうちゃんもぴいも、いつかのために、まいにちをそれぞれしあわせにすごすことにしたのでした。

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