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座敷童

 起きたら、部屋の端に女の子がいた。
 時代錯誤な赤い振袖を着て、頭はおかっぱだ。年はよく分からないが、とりあえず未就学児。おばあちゃんの家にあったこけしに似ている。そう思うと途端に女の子はこけしっぽくなった。
 ひとつ断っておくと、私に子供はいない。現在絶賛婚活中だ。毎日一人寂しくワンルームマンションで過ごしている。
 女の子は私が起きたことに気付くと、てくてくと近づいてきた。可愛いことは可愛い。
「起きた?」
「起きた。とりあえず、あなた誰?」
 女の子は困ったように首をかしげた。
「知らない。それを知っているのは、お姉さん」
「……隠し子はいないわよ」
 これはいわゆる、座敷童というやつなのだろうか。
「お姉さん、あたし、座敷童?」
 寝起きで頭が回らない。
「えっと、それは私が聞きたい」
「お姉さんが座敷童だっていうなら、そうだよ」
「座敷童ってさ、座敷に出るんじゃないの?」
「それを決めるのもお姉さん」
 そういうわけで、座敷のない私の家には座敷童が住み着いた。
 座敷童は不思議な子で、気付くとそこにいる。気にしなければ、存在を忘れてしまう程だ。物音がしたと思うと、そこにいる。
 猫を飼い始めたと思えば、少し気が楽になった。基本的に何でも食べるし、お風呂をためてやると、いつの間にか入っている。
 座敷童が福を運ぶというのは本当らしく、私はそれから婚約者が出来た。
 彼には座敷童が見えないらしい。というより、気にかけないとどこにいるのか分からない。野良猫と同じように、あちらこちらに家を持っているのかもしれない。
 そして私は彼と結婚した。引っ越してしまったから、座敷童とはお別れかと思っていたが、時々ベッドで飛び跳ねている。
 それからしばらくして、私に子供が出来た。家中子供が走り回っている。仕事も忙しくなった。夜中にとたとた音がするのはねずみだろうか。
 子供が巣立って、私と夫はそれぞれの趣味に励んだ。家はあちこちが軋む。きぃと廊下が鳴るたび、何だか懐かしい。実家も古く、歩くとこんな音がした。
 そういえば最近、妙なことを考える。昔、私の家には同居人がいたような気がする、と。

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