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「批評」に力を取り戻せるか?:読書録「遅いインターネット」

・遅いインターネット
著者:宇野常寛
出版:幻冬舎

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単に机上での「批評」だけではなく、具体的なアクションを伴った批評活動を続ける作者が、<アラブの春>や<トランプ現象>を踏まえて、「ポピュリズム」に毒された「民主主義」を再起動させるさせるために、どうすればいいかについて考察した作品。
(幻冬舎の箕輪厚介氏と作ったらしいんですが、業界人から結構反対されたってのが結構面白かったです)


・<「境界のある世界」の住人=Somewhere>と<「境界のない世界」の住人=Anywhere>の分断
・「日常/非日常」「自分の物語/他人の物語」という軸からの20世紀・21世紀メディアの分析

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・吉本隆明の「共同幻想論」「ハイ・イメージ論」の再解釈と、その実践としての「ほぼ日」の戦略の位置づけ


最初の「東京オリンピック招致」のあたりの話はチョイとグチっぽくて閉口しましたがw、以降はグイグイ読まされた感じ。
ナイアンテック(ポケモンGo)の拡張現実ゲームの戦略を、<日常/自分の物語>の象限で語るあたりも面白かったです。
ソーシャルメディアが中心となった現在のメディアにおいては、自己幻想が共同幻想も対幻想の消費してしまう…なんてのもナカナカ刺激的な指摘。


それらを踏まえて作者が提案する「戦略」は何か?

第一の提案:民主主義と立憲主義の対立では、立憲主義を支援せよ
第二の提案:情報技術を用いて、選挙とデモの中間に、あたらしい政治参加の回路を作る
第三の提案:自己幻想からの「自立」として「遅いインターネット」プロジェクトの展開


「遅いインターネット」とは何か?

<この国を包み込むインターネットの(特にTwitterの)「空気」を無視して、その早すぎる回転に巻き込まれないように自分たちのペースでじっくり「考えるための」情報に接することができる場を作ること。Google検索の引っかかりやすいところに、5年、10年と読み続けられる良質な読み物を置くこと。そうすることで少しでもほんとうのインターネットの姿を取り戻すこと。そしてこの運動を担うコミュニティを育成すること。そのコミュニティで、自分で考え、そして「書く」技術を共有すること。>


ある意味これは「批評」というものに、「現実社会」を変えていくだけの「力」を改めて与えるための試みと言えるんじゃないか、と僕は読みました。
だからこそ、かつて「現実を変える力」を持った批評家であった「吉本隆明」を取り上げているのではないか、という観点からも。


そのために作者はWEBマガジンを立ち上げ、読者の発信力を引き上げ、共有するためのワークショップを立ち上げているようです。


なるほどね〜。
正直、僕自身はそれをどう評価していいか、現状、何とも言えません。
大筋において「そうだろうな」とは思います。
思うんですが、
「本当にそれで良い方向に社会は回るようになるのかな」
すなわち、それだけの「インパクト」を(長期的であれ)生み出すことができるのか、という点に…。


ただまあ、グダグダ言ってるだけじゃ何もうまれませんからね。
世の中をいい方向に変えていくための「第一歩」を踏み出したことは評価すべきだし、その「宣言の書」として本書は力強いものを確かに持っていると思います。
彼らが生み出すものが何をもたらすか。
それを見てみたい気持ちも確かにあります。
(僕自身は「コミュニティ」というものに、内部での権力性みたいなものが感じられて苦手なんですけど)


ウエブマガジン。
読んでみますかねぇ。

<遅いインターネット>
https://slowinternet.jp/


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