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寡作な作者さんのようで、全然知らなかったんですが、かなりレベル高いです:読書録「残月記」

・残月記
著者:小田雅久仁 ナレーター:岡井カツノリ
出版:双葉社(audible版)

少し前に評判になったSF作品。(吉川英治文学新人賞、日本SF大賞受賞)
「月」をテーマにした短編集…というか、短編2篇と中編1篇ですね。それぞれ独立した作品になっています。
なんだろ〜な〜。
「SF」なんだけど、「純文学」寄り
って感じでしょうか。
良い作品でした。


1作目は「そして月がふりかえる」。
満ち足りた生活を送っていた男が、ふとしたきっかけで、他の男に自分のポジションを取られてしまう…という話。
2作目は「月景石」。
叔母が遺した「石」を枕の下に入れて眠り、ディストピア的な<月>の世界に転移してしまう女性の話。
1・2作目は、<転生もの>ジャンルの作品ですが(厳密には「転生」じゃないけど)、1作目の主人公は「父からのDVで自死した母」、2作目の主人公には「浮気が疑われる同棲している男」を設定することでキャラに陰影を与えて作品世界に深みを与えつつ、物語としては<決着>をつけず、読者に「その後」を想像させるスタイルになっています。


「そうか、こういうスタイルの作者さんなんやな」
と2作を読んで思って、3作目に取り掛かったら、これが全然違うw。
22世紀に書かれた…という設定で、2050年頃の<歴史>を語る形式で、ディストピア的独裁国家において<月昂症>という不治の伝染病に罹った男女の切ない恋愛物語が描かれます。
南海トラフ地震からの独裁国家の成立、独裁者の<愉しみ>としてのアンダーグラウンドの剣闘場での戦い、そして独裁者へのテロ
…といったドラマチックな展開に、剣闘士となった<月昂症>の男と、彼に寄り添う女の運命。

前2作にオープンなラストに比して、3作目は完成度の高い中編。
設定的に開かれた部分もあるんですが、それすらも計算の中に収められています。
いや〜読まされ(聴かされ)ました。


「月」をテーマにした…っていう点で言うと、ちょっと村上春樹の「1Q84」を思い出しましたが、あちらよりも本作の方が「エンタメ」寄りなのは確か。
でも出来栄えは甲乙つけ難いんじゃないかなぁ。
僕はどっちも好きですね。


安易なハッピーエンドではないんで、読む人を選ぶところはあるかも。
でも読むに(聴くに)値する作品だと思います。

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