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書記の読書記録まとめ

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今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
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2021年3月の記事一覧

書記の読書記録#119「桜の森の満開の下・白痴 他12篇」

坂口安吾「桜の森の満開の下・白痴 他12篇」のレビュー 「戦後文学の現在形」にて紹介された本。 レビュー私は作品を読むときに「どう死なすか」を重点的に見ているのだが,その視点からすると,坂口安吾の作品は随分と手ぬるいものだ。とはいえ無意味に死なす近年の感動を求める風潮?に比べればはるかにマシ。現代において,坂口安吾の示す姿勢は参考になるだろう。 以下主要作品についての感想。 「白痴」 戦火と微睡みが両立する世界観に単純に惹かれた。理知に対するカウンターとしての白痴の

書記の読書記録#118「ヒューマンエラー」

小松原明哲「ヒューマンエラー」のレビューと読書記録 レビュー安全工学の入門書で,特に専門知識は要しない。こういった一見経験が物を言うことに対して,本書のような理論づけがされていることを知っておきたい。 読書記録# 1p1〜74 ・事故の起因源・安全マネジメント・ヒューマンエラー・SHELモデル,4M・できない相談:視力,聴力・消失しやすい短期記憶・動作能力・反応力・錯誤,SRKモデル・取り違い,思い込み,ミステイク・失念:直前,直後,未来・知識不足,技量不足 # 2p7

書記の読書記録#117「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」

沖田瑞穂「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」のレビュー レビュー「マハーバーラタ」とは古代インドの叙事詩で,原典の長さは聖書の4倍に相当する。本書はそれらを,主に本筋を取り出して要約したもので,ところどころ神話学的なコラムがついている。入門と書いてはあるが,あらすじが凝縮されている分全くの初心者では厳しいかもしれない。 個人的にはこちらの方を1冊目として薦める: もくじ第1章 はじまりの神話 宇宙のはじまり/大地の重荷/蛇供犠/ガンガー女神の結婚/王母サティヤヴァ

書記の読書記録#116「ローマ帝国衰亡史 8」

E.ギボン(訳:中野好之)「ローマ帝国衰亡史 8」のレビューと読書記録 レビュー場所は変わって,本巻ではアラブ人(サラセン人)の動向について,東帝国の関連とともに書かれている。ここから,イスラム教の進撃が始まる。 読書記録# 1p7〜113 ・アラビアフェリクス・古代の偶像崇拝・サビア教・預言者マホメット・コーラン,戒律・クライシ族の反対,防衛戦争・メッカの服従・アラビア征服・後継者アリの統治・マホメットの成果 # 2p115〜224 ・アラブ人による征服・ペルシア侵入

書記の読書記録#115「古代インドの思想」

山下博司「古代インドの思想」のレビューと読書記録 レビュー本書は,インド文明圏について自然環境との関わりをもとに思想や宗教の流れを整理したものである。日本には馴染みの薄い要素として「モンスーン」はたびたびキーワードとして取り上げられる点に注目。インド哲学を考える上でも留意事項となるだろう。 読書記録# 1p9〜62 ・菱形のインド・小さなアフリカ・ガンジス河の地理・ヒマラヤ地域,ヒンドゥスターン平原,南インド・北のヒマラヤ山脈,西のタール砂漠・モンスーン,サンスクリット文

書記の読書記録#114「作曲基礎理論 専門学校のカリキュラムに基づいて」

井原恒平「作曲基礎理論 専門学校のカリキュラムに基づいて」のレビュー レビュー稀に感じる,自分との文章の相性の悪い著者だった。 それを除いたとして,内容自体は値段以上の価値があると思う。特にコード進行における理論について(和声学の基礎にもなる),迷ったら本書で間違いないだろう。 以下個人的な注意点。 ・本書だけで完結はしないと思った方がよい,理解すればするほど他の名著が必要になってくるだろう ・序盤からテンションコードやオルタードが出てくる,必要なければ飛ばして先に

書記の読書記録#113「はじめてのインド哲学」

立川武蔵「はじめてのインド哲学」のレビューと読書記録 レビュー本書のテーマは「自己と宇宙の同一視の経験」である。一口にインド哲学といっても,その起源と派生は多岐にわたるもので,本書はそれらを一通り整理したものと見てよいだろう。理解したいのなら,まずは起源となるヴェーダとウパニシャッドから始めるのがいいと思う,古典作品に触れるのも面白い。 読書記録# 1p10〜105 ・自己空間,自己時間・自己と宇宙の同一視・インド精神史の区分・「リグ・ヴェーダ」:宇宙開闢の歌,プルシャの

書記の読書記録#112「バイオアート バイオテクノロジーは未来を救うのか。」

ウィリアム・マイヤーズ「バイオアート バイオテクノロジーは未来を救うのか。」のレビュー レビュー生物学を表現メディアとして利用し,作品を通して,生物学自体の意味や自然の変化に目を向けるものだ。 注目すべきは,シュルレアリスムの文脈が取り入れられていることだろう。技術が進化すれば,それだけ表現手段が増える一方で,生命倫理の境界に目を背けられなくなる。バイオアートはそこに切り込んでいく,やがてスリリングな体験になる。 バイオアートについての解説は,例えばこちら: もくじC

書記の読書記録#111「インド神話物語 マハーバーラタ」(上下巻)

デーヴァダッタ・パトナーヤク(監訳:沖田瑞穂,訳:村上彩)「インド神話物語 マハーバーラタ」のレビュー レビュー「マハーバーラタ」は,「ラーマーヤナ」と並ぶインド二大叙事詩として有名である。原本はサンスクリットで書かれ,200,000行を超えるとされ,これは聖書の4倍の長さに相当する。中でも「バガヴァッド・ギーター」は著名な部分であり,宗教上特に重視されている。 物語としては,物語はパーンダヴァ族とカウラヴァ族(この二つを合わせてバラタ族)の戦争がメインである。 翻訳の

書記の読書記録#110「古代オリエントの神々」

小林登志子「古代オリエントの神々」のレビューと読書記録 レビュー後に多数の宗教の祖となる古代オリエント(主にメソポタミア)について,神々の視点から解説した本である。主な分類:太陽神,地母神,冥界神,最高神 読書記録# 1p1〜93 ・肥沃三日月地帯での定住・農耕と牧畜・新石器時代の地母神・大洪水伝説・来世信仰と葬祭文化・神々の習合・アッシュル神・海の民による危機・世界帝国の成立,枢軸時代・ゾロアスター教・一神教・ヘレニズム時代,ギリシアの神々・日本の太陽神:天照大御神・ウ

書記の読書記録#109「生物学の歴史」

中村禎里「生物学の歴史」のレビューと読書記録 レビュー本書が刊行されたの1983年で,古代ギリシアからその時代までの生物学の歴史について書いてある。生物学について,教養として結果については勉強するが,成立するまでの過程というのは飛ばされがちで,一度はさらっておきたいところだ。世界史と連携して学習すると効率が良いと思う。 読書記録# 1p11〜109 ・エジプト医学(エドウィン=スミスパピルス)・擬人的自然観・タレスに始まる要素説・ヒポクラテスの著書・プラトンの思弁的な認識

書記の読書記録#108「ミュージッククリエイター入門」

MIDI検定指導研究委員会「ミュージッククリエイター入門」のレビュー レビュー本書は「MIDI検定4級」に対応した教科書で,未経験者が読むというよりかは,未経験者に対する指導者が教科書として使う,といった想定だろう(本当に何も知らない人にどこからどこまで教えるかの指針にはなる)。 「MIDI検定3級」以上の公式テキストはこちら。DTMやるならこちらを推奨。 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#107「インド神話」

上村勝彦「インド神話」のレビューと読書記録 レビュー内容としては,「リグ・ヴェーダ」に始まるヴェーダの神話から始まり,叙事詩「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」の解説に加え,ヴィシュヌの十化身とクリシュナ伝説についても触れられる。学術的な入門にもってこいの本だと思う。 読書記録# 1p9〜58 ・最古の文献「リグ・ヴェーダ」,シュルティ・神々(deva)・最大の神インドラ・asuraの代表ヴァルナ・ :天則リタの守護者・火の神アグニ・神酒ソーマ・太陽神スーリヤ・河川の女神サ

書記の読書記録#106「キッチン」

吉本ばなな「キッチン」のレビュー 「戦後文学の現在形」収録作品。 レビューよく暖かいと言われそうな感じがするけど,むしろ「ぬるい」って印象。その筆頭が吉本ばななの作品だった。本作は1987年に発表のデビュー作で,海燕新人文学賞を受賞,意外と古い。全体的に,単に書いてる風を装ってる感じ。特に何かかきたてるものもなし。 ただ注目すべき点はある。「キッチン」では最初から最後まで,"死体を置く"ことをやめていない。その事実一つを取るだけでも,作品に流れる時間感覚は大きく分裂する