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相方が不機嫌

先日、相方の丸山くんとネタ合わせをした。キングオブコントに落ちてしまい残念無念この上ない今日この頃だが、気持ちを切り替えて新ネタを作ろうと十二分な検温消毒の上、僕たちは杉並区某所に集合した。

ネタ合わせを始めるにあたり、まずは互いの世間話でアイドリングをする。気持ちがあたたまってきたところでネタの話を始めるのが2人のルーティンとなっているからである。

今回も例に漏れず世間話が始まった。しかし、丸山くんがお気に入りだというアニメを僕が見ていないことが判明するや否や、丸山くんは激昂した。

何で見てねえんだよ! あれ見てないって、芸人として終わりだからな!

ひと月のうち20日は不機嫌なことで知られる丸山くん。その不安定さは6月の天気のようなものなので、僕は濡れないように心の傘を差して身構えた。この日のネタ合わせは荒れそうな予感がした。

アイドリングが済んだところで、本当の意味でのネタ合わせが始まった。この日は僕が台本を2本書き上げていたので、ひとまずそれを読み合わせた。読み終えた丸山くんは怪訝な表情で言った。

これ、おもろいか!?

雨天のときは大概このようなネガティヴコメントが返ってくる。ヒットを生めず残念ではあったが、全く同じネタであっても機嫌の良い日であれば「めっちゃいいじゃん!」と返事が来ることもあるので、先の2本は後日再び何食わぬ顔で提案し直すことにした。「実際に動きながらやってみたら何となくわかると思うけどなあ。」などと返して、僕のプレゼンは終わった。

次に、互いに考えてきた設定について話し合った。丸山くんが提案した設定を僕は良いと思ったので「その設定で始まって〇〇になって、展開で××になって、最終的に△△になるみたいな感じだよね。うんうん、イメージできる。良いね。」と返した。しかし丸山くんは、無言で首を傾げていた。

あんまり、おもろくねえなあ。

「え、でも自分で考えてきた設定じゃないの?」

そうだけど、いま考えたら別におもろくねえな。おもろくないというか、"意味"がないんだよなあ。

「"意味"かあ・・・。」

雨天時の丸山くんは頻繁に「意味」「理由」「目的」「感動」などを口走る。それにしても、この日は雨天の中でもかなりの大荒れ模様だった。もしかすると丸山くんは何かしらの悩みを抱えて自暴自棄になっているのかもしれないと思い「今日は特に刺々しい感じがするのだけれど、何か嫌なことあった?」と聞いてみた。丸山くんは腕を組んで思案し、ふうとため息をついてから言った。

さっき爆笑問題さんのラジオ聴いてて、太田さんが田中さんにやたらと喰ってかかるんだよね。それを田中さんが『うるせえなあ!』って返すのが面白くて。いいなあって思って。

意外な答えが返ってきた。丸山くんは、ラジオでの爆笑問題さんの振る舞いに影響されて相方に喰ってかかっていたと言うのである。僕は悩みを打ち明けられるのだろうと身構えていたところだったので、拍子抜けして声が出なかった。丸山くんは続けた。

もしかしたらジェロさんに『うるせえなあ!』って言って欲しかったのかもしれない。

確かに、僕は普段あまり『うるせえなあ!』とは言わない。相手が話していれば黙ってしまうし、それがもしうるさかったとしても口を閉ざしながらそっと寿司に想いを馳せるくらいである。丸山くんはプロレスとして威嚇をしていたのに、僕はそれに気づかず呑気に黙秘を続けてしまっていた。相方として申し訳ないことをした。

プロレスと分かればこちらもリングに上がるのみ。僕は慣れない口調に戸惑いながら、一世一代の『うるせえなあ!』を言い放った。

丸山くんはウンウンと頷きながら、僕の『うるせえなあ!』を噛み締めていた。そして一旦頭上を見上げてから、吐き出すように言った。

あんまり、おもろくねえなあ。

僕はそっと寿司に想いを馳せた。今年の梅雨はまだ明けていない。

大きくて安い水