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VOCALOID Nuggets:来るべきサイケの時代に向けて

事実として、ニコニコ動画のVOCAROCKシーンにサイケの時代はなかった。それはニコニコ動画においてサイケデリックロックを探すためのタグがほとんど機能していないことや、そのジャンルに結びつけて語られるアーティストが再生数の面でメインストリームのロックに水をあけられていることが顕著に示している。VOCALOIDシーン全体に目を向ければ、唯一「感性の反乱β」はサイケデリックなムーブメントと言えるが、それにタグ付けられるのは複雑なポップスとハードな電子音楽(あるいは両者の合体)が中心であり、その超現実感覚は60年代のオリジナルサイケではなく、70年代のインダストリアルに近い。はっきり言って、VOCALOIDシーンにおいてサイケデリックロックの手法はノイズ/インダストリアルよりも省みられてこなかった。

サイケを取り巻く現状はこのように少しばかり寂しいものだが、特に悲観する必要はない。なぜなら今年2017年こそVOCALOIDにおける最初のサイケの時代になるからだ。実際すでに今年の1/1にはrjnk氏の主催の元、サイケデリックロック、インダストリアル、ダブなど多様なサイケデリアを「ゴミ」というキーワードの元に集めたコンピレーション・アルバム「Psychedelic Trash Vol.1」がリリースされており、Vol.2のリリースも決まっている。また2016年11月にはishi12氏、つい先月には比較的真理子氏がアルバムをリリースしていて、これらも全国のボカロサイケファンには見逃せない作品となっている。

こうした現在の盛り上がりは先人の作品があってのものなのだが、先述した通りこの分野に関してはタグが有用に機能しているとは言い難く、過去の作品を探しにくい状況が続いている。これからボカロサイケを聞こうと思っても、これでは手が出しにくい。なにか指標が必要だろうということで、勝手ではあるがいくつかの特筆すべき曲をピックアップしてプレイリストを作成させてもらった。

http://www.nicovideo.jp/mylist/58976952

「VOCALOID Nuggets」の名の通りガレージが中心だが、そこからさらに踏み込んだオルタナティブ、アヴァンギャルド、エクスペリメンタルなトラックも多数選曲している。一部曲についてはロックですらない。しかしどの曲についても筆者の基準においてのサイケデリックなセンスが光る曲であり、10年にわたるボカロサイケの成果としてどこに出しても恥ずかしくないものだ。もっとも今回の20曲は目覚ましい成果の極一部にすぎず、興味を持った方は各アーティストの他の曲や周辺アーティストを手掛かりに探してみることをお勧めする。特に今回除外したクラウトロック的なアプローチの曲については聞かれるべき曲が多く埋もれている。

さて、この優れた作品群に改めて情報をつけ加えるのは野暮かもしれないが、サイケという文脈で語られることのあまりないだろう作品も多くある。せっかくなので最後に各楽曲について短評を付しておく。順番は架空のオムニバス「VOCALOID Nuggets」の収録順だと思っていただきたい。

1.ピンクムーン/もじょP
2008年にスマッシュヒットを飛ばしたもじょPによるポップなガレージサイケ。アートワークもアーティスト本人によるもので、タイトルも含め明確に過去のサイケへのリスペクトがある。冗長なギタープレイを排した3分ポップスとしてもとてもよくできている。

2.間違った街/熾士稔(オキシジン)
2012年。熾士稔氏によるガレージサイケ。ガレージながら非常に構成が練られた作品で押し引きの妙に圧倒されながら一筆書きのように最後まで進行する。ギターソロもあくまで曲の一部として振る舞うように抑制が効いている。

3.Love Shake♪/コフダ
2009年。パンキッシュで元気溢れるコフダ氏によるガレージロック。慌ただしいドラム、印象的なリフで幕を開け、すぐに口ずさみやすいメロディが乗る。この曲も構成に工夫が感じられ、安易にサビに向かわない。ストレートなポップさが凝縮されたサビからリフへの戻りも鮮やか。

4.触らぬDQNに祟りなし/佐々木Kすけ
2014年。アートワークもドラッギーな佐々木Kすけ氏によるブルースサイケ。軽快なブギの上に乗るファニーな初音ミクの声が楽曲のユーモアを際立たせる。

5.お悩み電話交換手/ishi12
2015年。粘っこいギターでサイケの正道を行くishi12氏のサイケデリックロック。頭のドラムからしてサイケを予感させるものであり、最後までその期待を裏切らない。リバーブ過剰気味のボーカルもギターソロもどこを切ってもサイケ。

6.ドアドアドアドアドアドアドア/シランP
2009年。ナンセンスなリリックが強いインパクトを残すシランPによるブルースサイケ。始終鳴り響くファズギターがすばらしい。反復するリリックがもたらす酩酊感もまたサイケな要素の一つ。

7.UFOが飛んでいる/YARUSE NAKIO
2013年。YARUSE NAKIO氏による気だるくも爽やかなスペースロック。タイトルとドラムの質感のせいかどことなくスペースメン3のI Love Youを連想するが、この曲には透明感と風通しの良さがある。内向きになりがちなジャンルの中でこの空気感はある種の清涼剤。

8.LA VIDA MATA!/山本ニュー
2008年。ボーカロイドアンダーグラウンドの重要人物山本ニュー氏によるガレージサイケ。古いステレオ録音のパン振りに自然と笑いがもれる。明らかにドアーズを意識したオルガンといい、パクることに対しての誠実さを感じる。

9.人型人間だろう/FuzzP
2012年。ボーカロイドにおけるサイケデリックロックの第一人者FuzzPのサイケデリックロック。なんといってもギターソロであり、特に後半の忘我のギターノイズは圧巻。そしてそこからメインテーマに戻る瞬間がまたすばらしい。

10.Melancholoid/haruna
2007年。VOCALOIDシーン黎明期に突然変異的に現れたharuna氏によるサイケデリックファンク。ピッチベンドとフィルターにより303ベースのように変調した初音ミクの声は未だに衝撃的。この時期にファンクに取り組んだというだけでなく、楽器としての可能性をも追求した空前絶後のトラック。ボーカル以外の部分についても間奏のオルガンなどサイケデリックなセンスが横溢している。

11.夢を見た/お母さん
2014年。ギターの痩せた音と残響に空虚を感じるお母さん氏のオルタナティブロック。出だしのドラムのフレーズがジザメリのジャスト・ライク・ハニー(それもロネッツのパクリだが)であり、聴く人によってはそれだけでサイケを感じるかもしれない。静と動のはっきりした構成だが、個人的には静の空虚により強くサイケデリアを見る。

12.夜トリップ/FNP
2010年。よれた演奏と楽器の隙間を感じられる空間演出が光るFNP氏のサイケデリックアートロック。一つ一つの音が印象的で、特にやかんの笛をアンプで歪めたようなギコギコとした高音は妙に物悲しく胸に迫る。

13.真夜中の雨と砂場/daluy
2013年。変拍子リフが特徴的なdaluy氏によるサイケデリックロック。沈みこむクリーンなリフと落ち着いた歌唱が上り詰めるギターノイズに塗りつぶされる瞬間に恍惚を覚える。

14.あわいにありて望みしは/betcha
2015年。多彩な音楽への造詣を遺憾なく発揮する才人、betcha氏によるポストロック。ドリームポップの多幸感があり、かつセンチメンタル。サンプリングの取り入れ方にはディスコ・インフェルノの影響を感じる。降り注ぐ初音ミクの声はもはや純粋を通り越して神聖であり、このまま天上に向かうかと思われるが、最後のもう一展開でしっかりと着地するのが心憎い。

15.manhole/ManHoleManP
2011年。音響とミニマリズム、電子音が融合したManHoleManPによる正真正銘のポストロック。よれた演奏とノスタルジックなメロディのリフレインがすでに失われたものへの憧憬を思わせる。初音ミクの感情が乗らない純粋な音にどうしようもなく心を揺さぶられる。

16.何も知らない/ショップ店員
2014年。密度で圧倒するショップ店員氏によるポストロック。イントロの美しいギターは勢いあまってインダストリアル的なノイズの奔流に突入し、情報過多のサウンドスケープがノンストップで展開される。適切、洗練といった言葉を忘れさせてくれる2分間。

17.ボクやらない、キミいとおしい/比較的真理子
2009年。比較的真理子氏によるアヴァンギャルドロック。聞けば即わかる曲なのであまり語ることはないが、笛に癒される。

18.ミック ビート/マゾヒスティックミクバンド2008年。マゾヒスティックミクバンドによるポストロック。ループ素材か既存の曲の引用か自分のフレーズの再編集かはわからないがサンプリングの手法を駆使して作られており、重いブレークビーツの上でダブ的なギターやホーン、オルガンが踊る。ミクの声はノイズと化して空間を埋め、現実的な感覚を一切拒絶する。

19.焼け跡/ds_8
2015年。ds_8氏によるエクスペリメンタルロック。静と動の構造やボーカルであるORIGAMI-Iの叫びにポストハードコア的な要素を見ることはできるが、そういったことよりはただ異次元のサウンドスケープに震えればよい。どんな音も現実的な音響に対して譲歩する必要はないと明確に示している。ギターノイズはエクスタシーとは無縁でありひたすらに暴力的。ジミヘンや裸のラリーズといったサイケより出でてサイケとは違う地平に到達したようだ。

20.カブト虫の光/Jake
2017年。Jake氏によるプランダーフォニックス。伴奏をすべてビートルズの楽曲からのサンプリングで構成し、その上に結月ゆかりが微妙に調子を外して蛍の光を歌う。テープ編集によるサイケのオリジネイターたるビートルズへの愛を感じる。

#vocanote

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