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短歌 新作20首 『殺したい男』

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憎悪。遺恨。怨念。そして殺意。

人として良からぬ感情。
いけないとわかっているのに、ふと抱いてしまうことがある。
そんな自分を、ひどく醜く思う。

けれど、恨みや憎しみを抑え込まず、自分を否定せず、もしも受け入れられたとしたら。
これまで闇の中で見えなかった道の先に、新しい光が射しているかもしれない。

そんな気分を、20の短歌で書いてみました。
第一歌集『愛を歌え』とはまったく違う趣の新作です。

もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。
あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太鼓判を押してくださった、295の短歌で綴った物語です。

『殺したい男』 鈴掛真

なんて顔してんだお前 かろうじて隔たれているあっちとこっち

終電が終わった後の踏切に佇んだって迎えは来ない

成熟する身体に惑う少年のように線路は夜更けに伸びる

新宿は雲夜を染める何もかも焼き尽くす山火事に似た色

声帯を掻き切られなお生かされるシンガーソングライターの話

テレビから速報が聞こえる度に俺がやったんじゃないかと思う

あいつさえいなければあいつさえいなければ鼻歌みたいな呪い

君が来るのを待つあいだ近頃のバラの値段を知った土曜日

もう何も聞こえてこない片方のAirPodsが捨てられている

自殺する勇気もないくせに甘さ多めにしたタピオカミルクティー

天秤に俺とあいつの死を載せてみても釣り合ったりしないだろう

擬態して暮らす亜人のようでこの街の呼吸はひどく重たい

くだらないシットコムだと仮定して俺の悪事を笑ってほしい

どれほどに悪名高い暴君の頬も等しく撫でるモクレン

メビウスの輪を象って沈みたい向かいあわせのバスタブの底

愛おしいその息の根を止めるのが俺の手かもしれないのに君は

殺したい男の顔にうなされて目覚めた窓の陽射しがきれい

ずるずると夜に居座る街灯がぴったり午前6時に消えた

家族にはきっとなれないだろうから第一発見者は君がいい

ホームから突き落とされても仕方ないくらいの罪を背負って生きろ


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