マガジンのカバー画像

鈴掛真の短歌

64
運営しているクリエイター

#私の仕事

短歌 新作7首 『透明なナイフ』

愛情は、暗闇から人を救いだす光にもなれば、人を拒んで傷つける凶器にもなりえる。 傷つけて、傷つけられて、小さな傷跡が少しずつ増えてゆき、気がついた頃には、もう立ち上がれないほどずたずたになっていたりする。 別れは突然なんかじゃない。 きっと見えない形で、今日も少しずつ足元を揺るがしている。 そんな気分を、7つの短歌で書いてみました。 第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。 もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。 あの俵万

短歌 新作7首 『好きだった』

まるでスイッチを切るように、余韻も持たず忽然と恋は終わる。 あのときああしていれば、あの日あんなことを言わなければ、いくつ数えても後悔は尽きない。 どうすれば上手くいったのだろうと途方に暮れるけれど、たったひとつだけ言える、確かなこと。 そんな気分を、7つの短歌で書いてみました。 第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。 もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。 あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太

短歌 新作9首 『一筋の光』

目まぐるしい情報。 賑やかな喧騒。 他者の存在を感じて安心したり、名前も知らない無数の他者に押し潰されそうになったりもする。 けれど抱き合っていれば、人も、街も、言葉も、未来も、すべてに目をつぶって眠りにつけた。 そんな気分を、9つの短歌で書いてみました。 第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。 もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。 あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太鼓判を押してくださった、2

短歌 新作7首 『デッド・オア・アライヴ』

たとえば、たったひとつの咳払いが、知らぬ間に誰かの命を奪うかもしれない。 たとえば、プラットホームの縁に立って、自分の体が粉々になるところを想像する。 ちっとも現実味がないけれど、僕らはいつも死のすぐそばにいて、あと一歩ぎりぎりのところで生かされている。 そんな気分を、7つの短歌で書いてみました。 第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。 もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。 あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、

短歌 新作20首 『殺したい男』

※画像を拡大、または記事下部の横書きでお楽しみください。 憎悪。遺恨。怨念。そして殺意。 人として良からぬ感情。 いけないとわかっているのに、ふと抱いてしまうことがある。 そんな自分を、ひどく醜く思う。 けれど、恨みや憎しみを抑え込まず、自分を否定せず、もしも受け入れられたとしたら。 これまで闇の中で見えなかった道の先に、新しい光が射しているかもしれない。 そんな気分を、20の短歌で書いてみました。 第一歌集『愛を歌え』とはまったく違う趣の新作です。 もしも気に入っ

短歌 新作7首 『安いピアス』

ひとりでいるのと、ふたりでいるのでは、いちばんに何が違うかと考える。 話し相手がいること? 孤独じゃないこと? 通信機器があれば、遠くの誰かとおしゃべりできる。 家々がひしめき合う都会では、他者の存在が近すぎるから、孤独になる方が難しい。 他者の存在がわずらわしくなって、たまには孤独にもなってみたいと思う。 けれど、ふたりでしかできないことがある。 それは例えば、季節の移ろいの美しい様に気づいたり、自覚しなかった本心を知ったり。 そうして、ふたりでいるのも悪くないな、

短歌 新作5首 『無に帰する』

角川「短歌」2019年10月号掲載作品『無に帰する』。 先日公開した 『凍てついた泉の中で』と同時期に執筆した、呼応するような作品です。 どちらも第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。 もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。 あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太鼓判を押してくださった、295の短歌で綴った物語です。 『無に帰する』 鈴掛真 赤いバラを経費で買った領収書の縁ですっぱり切れた指先 肝

短歌 新作7首 『凍てついた泉の中で』

自分ではない他人と上手くやっていくのは、いくら歳を重ねても難しい。 家族、友人、同僚、そして恋人。 近づくほどに壁が生まれ、労わるほどに白々しくなる。 いっそ壊してみたらどうなるんだろうか。 そんなことを考えていると、少しだけ胸を昂ぶらせている自分が、ひどく怖かった。 そんな気分を、7つの短歌で書いてみました。 発売中の角川「短歌」2019年10月号に掲載されている新作5首『無に帰する』と同時期に執筆していたので、呼応するような作品になりました。 どちらも第一歌集『愛

短歌 新作7首 『シャツを羽織れば』

夏が終わりますね。 海や花火大会をどんなに楽しんでも、いいえ、大いに楽しめば楽しむほど、夏の終わりに吹く風は、やけに涼しく、切なく感じるものです。 けれど、決してビーチや観光地に赴かずとも、楽しみは部屋の中にも無数に転がっています。 例えば、テーブルの上に。例えば、クローゼットの中に。 それは、他人が見ればありふれたこと、そして昨日までの自分ですら何とも思わなかったことかもしれません。 幸福は、ありふれた日常の中からも、ある日突然に輪郭を持って現れるのです。 そん

短歌 夏の新作8首 『冬のすいか』

令和初めての夏も、終盤に差し掛かりましたね。 変わらないことで得られる安心感。 変わらないことで募るマンネリズム。 それでも今日という日を生きられることに感謝して、明日という日がやって来るのを待っている。 そんな日々感じているモヤモヤを、8つの短歌で表現してみました。 タイトルは『冬のすいか』。 夏だけど。 僕が所属している短歌結社「短歌人」の同人誌では毎年8月に、若い会員が腕を競い合う20代30代特集が行われていて、今年はこの連作で参加しました。 先月発売したばか