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宇宙に行くことは地球を知ること

走ったりジャンプしたり。
誰かを抱きしめたり
またね!と手を振ったり。
そんな手足の感覚がわかるのは、
筋肉が常に地球の重力を感じているから。
重力に抗うことで
自分の体の動きを認識している。

だから宇宙の
重力が全くかからない状態では、
自分の腕や脚が伸びているのか
曲がっているのかさえ
わからなくなるという。
目を瞑ってしまえば
視覚からの情報もなくなり、
なおさらのことだ。

『宇宙に行くことは地球を知ること』
野口聡一
矢野顕子
を読んでの感想を綴る。

具体的に言葉で説明されて
初めて意識することがある。
『地に足をつけて』
『根っこを張って生きてゆく』
これは重力のある地球に生きる
私たちだからこその在り方。

宇宙でISSに滞在し
船外活動も行ってきた野口聡一さんの話は
『新しい宇宙時代』への指南書のようだ。

宇宙空間にいて
重力を感じる軸も
目や耳からの情報もなくなる時、
残された他の感覚が
それを補い合っていくのだという。
「ああ今は右に向かっているんだな」とか
「エンジンが動き始めたな」とかを
『指先で音を聞いて』判断していく。
この感覚を知った野口さんは、
間違いなく宇宙時代の
『新しい人』だと思った。

未来。
例えばISSへの移住が現実となった時、
宇宙生まれの子供たちは
初めからその感覚で育つのだ。
音のない世界の音を違う感覚で聞き、
45分おきに昼と夜が一気に入れ替わるなかで
生きてゆく。
それが当たり前の暮らしとして
大人になってゆくのだ。
地球で空を見上げて、
上と下の感覚を意識して生きる私たちとは
全く違う人生観を持つのだろう。
それがどのようなものなのか
想像がつかないけれど。
私は知りたいと思う。

宇宙の闇の黒さは絶対的で、
生き物の存在を許さない世界だと本能で解る、と野口さんは言う。
宇宙ではぐれても
そばに誰もいない。
誰にも見つけられない。
どこまで行っても、あるのは黒い世界で、
絶対的な孤独。
それは恐ろしい。
そんな闇の中で
強烈に光り輝く地球を見たら、
誰もがそれを愛おしく思うことだろう。

深い夜の底みたいな時間に、
道の向こうに自販機の灯りを見つけた時の
ホッとする感じ。
その何億倍もの拠り所となるはずだ。

人は
宇宙を目指せば目指すほど、
宇宙へ行けば行くほど、
地球のかけがえのなさを
実感することになる。
宇宙へ行くことは
地球へ還ること。

ただしこれは
私が地球人だから、
思うことなのだ。
先にも述べた
『宇宙生まれの子供たち』の時代には、
地球は
宇宙から鑑賞する月のような存在になってゆくのかもしれない。

地球は美しい。
雲が流れ、水が循環し、自転している。
地球は何周まわっても
同じ顔を見せないのだという。
その地球にも寿命がある。
それはつまり、
地球も生き物だということ。
地球が少しでも快適に長生きできるように、
私たちが守って
大切にしていかなければならない。
私たちは当然のように
息を吸って吐いて生きているけれど、
地球を包む青い大気は
本当は実に薄っぺらなベールなのだ。

人が宇宙に飛んでから
まだおよそ60年。
たった60年の間に
月へ降り立ったり、
ISSなる巨大なものを作り、
宇宙に人間が滞在するようになったことに、
あらためて驚きと、感慨深い気持ちを抱く。
地球を外から見られるのは
今はまだ限られた人だけだけれど、
これから先
もっと身近になっていったら楽しい。

矢野さんは
目の手術を行ってから
生まれて初めて
沢山の星が夜空にあることを
知ったのだそうだ。
それ以来
宇宙の神秘に魅了され、
宇宙へ行きたいと思うようになったのだと。
カナヅチだったのに
宇宙飛行士の条件に泳力が必要だと知ると、
スイミングを習い
泳げるようになったのだ。
矢野さんの本気を感じる。
指先で音を聞く宇宙で、
矢野さんはどんなピアノを弾くのだろう。
ちなみにISSには
キーボードとピアノとサックスがあるそうなので、音楽家が行っても
なんら困ることはない。
矢野さんの自由な感性は、
音のない世界をどう聴くのだろうか。
どんな音楽で宇宙や地球を
表現してくれるのだろう。
とてもわくわくしてくる。

かくいう私も
重力から解放された新しい感覚の中で
ぷかり、と浮かびながら
詩や文章を書いてみたいと
妄想したりする。
野口さんが体験した
圧倒的な地球と、自分が
1対1で対峙する瞬間、
何を思うのだろう。

ただし私の場合、
回転椅子で3回まわっただけで
気分が悪くなってしまうくらい
三半規管が敏感なので、
宇宙酔いに耐えられないのでは、と
危ぶんでいるのだった。

そのかわり
野口さんの次のフライトはもちろん
矢野さんがISSに行った際には、
頭上を飛んで行く光に向かって
私は全力で手を振りたい。
以前、こんな記事を書いた私だから。

『星の船と彼女と私。』

https://note.com/suzukake_neiro8/n/n7fa55677a01b


それから
我が家の壁にはこんな家宝が掛けられている。
矢野さんからの
ファンレターのお返事だ。
矢野さん直筆のメッセージも書かれている。
このお手紙は過去から現在、
そしてずっとずっと未来の子孫にも
受け継がれていくこと間違いなしだ。
子孫たちが
ISS生まれの子になることが
無いとも言い切れないではないか。
ISSの部屋の壁に
このお手紙が飾られたら。
その時は
額縁の向きは
上とか下とか関係なく
掲げてくれたら
すごくいい。

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野口さんは言う。
「ムズカシイ宇宙論は時とともに変わる可能性があるけれど、自分の感性でつかみ取ったものは誰にも侵されない、自分自身の貴重な宝になると信じている」

それは現在の此処であろうと、
新しい宇宙の時代になろうとも、
変わらないことだと
私も信じていたい。

今夜も月が綺麗だ。
ISSから、
ひょっとしたらどこか遠くの星からも、
誰かが私と同じ月を
見ているかもしれない。

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