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UCIワールドカップ2020-2021 第4戦「フルスト」

シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「UCIワールドカップ」の第4戦が、1/3(日)にオランダ・ゼーラント州の街フルストを舞台に開催された。

ゼーラント州の中でもベルギー寄りの「ゼーランティック・フランダース」に位置する街で、オランダ・ベルギー国境にもなっているスヘルデ川の「ベルギー側」。すなわちオランダ本土とは陸路では(橋を除いて)繋がっていないという特殊な地理に存在する。

そのことが現在、オランダでの自転車レース開催が難しい状況の中でも開催できた理由となるかもしれない。

天候は晴れで、路面は泥のエリアもあるものの、アップダウンも激しくなく、直線も長く、非常にハイスピードレースとなった。

1周回の距離も3㎞未満と非常に短いため、男女ともにラップタイムも短く、周回数も多めに設定された。


女子レース

1周のラップタイム平均が8分ほどとなり、周回数も女子にしては多めの7周

今期絶好調のデニーセ・ベツェマパウェルズ・サウゼンビンゴール)が2周目から独走を開始。当初は遅れかけていたルシンダ・ブラントバロワーズ・トレック・ライオンズ)も4周目あたりで2位集団となっていたセイリン・アルバラードアルペシン・フェニックス)とアンマリー・ウォルスト777)の2人に追い付き、そのまま2人を突き放していく。

しかしそれでも、ベツェマはブラントに追い付かせず。むしろブラントは何度か、フライオーバー直後の泥区間で足を取られるなど、普段よりもずっと調子が悪そうに見えた。

そしてそれ以上に、まったくミスなく、圧倒的なハイペースを安定して刻み続けたベツェマが今期4勝目。3大シリーズ戦としても、12/12の「アントウェルペン」以来の2勝目となった。

【UCIワールドカップ第4戦フルスト 女子リザルト】

UCIワールドカップ第4戦女子リザルト


2位争いでは失速するブラントにアルバラードもタイム差を詰めてはいたが、最終的には追いつくに至らず。

総合争いにおけるブラントの有利は揺るぐことなく、実はこれで、彼女のUCIワールドカップ総合優勝が確定した。

【UCIワールドカップ第4戦までの総合成績(女子)】

UCIワールドカップ第4戦までの総合リザルト(女子)


男子レース

1周のラップタイムが驚異の6分近く。全部で10周という周回数に。

12/26のヒュースデン=ゾルダーで落車・左肘の脱臼という怪我を負ったエリ・イゼルビットパウェルズ・サウゼンビンゴール)。

欠場してもおかしくない状態の中で出場した1/1のバールでは、まさかの4位フィニッシュとなりX2Oバドカマー・トロフェーの総合首位を守り切る執念の走りを見せた。

しかし今回のこの「フルスト」ではスタート直後に落車。その後も怪我の影響を引きずっているのか決して調子の良い走りはできず、ハイスピードで展開するレースの中で途中リタイアを選択することにした。

いずれにせよワールドカップは元より総合争いからは脱落しているレース。無理をして怪我の状況を悪化させ、今週末に控えている国内選手権含む他の重要レースに影響を及ぼすことは避けなければならないため、今回のこの選択は正しいものだったように思う。


そんな、主役の一角を欠いた今日のレースだが、泥区間以外は基本的にドライで登りもマチュー・ファンデルポールアルペシン・フェニックス)であればバイクに乗ったまま軽々と越えられるレベル、ということでひたすら乗車率の高いハイスピードコースとなったため、ファンデルポールを止められるものは誰一人いなかった。

今シーズンは少なくともレースの中盤までは先頭集団パックの中で息をひそめていることの多かった彼だが、この日は1周目の途中から集団を突き放し、独走を開始。昨年、一昨年の絶好調シーズンを思わせる圧倒的な走りを見せた。

一時はマイケル・ファントーレンハウト(パウェルズ・サウゼンビンゴール)が単独でファンデルポールを追走。逆にワウト・ファンアールトユンボ・ヴィズマ)は序盤にミスも犯し4位~5位のあたりに漂っていたことも。

現在、UCIワールドカップ総合首位のファンアールトと総合2位ファントーレンハウトとポイント差は11ポイント。

もし今日、ファントーレンハウトが2位に入れば30ポイント。ファンアールトが4位に沈むようなことがあれば22ポイントということで、ファントーレンハウトがファンアールトとの差を8ポイント縮める形となり、次回の最終戦で「上位に来た方が勝ち」というような状況にまで追い込むことが可能になる。

それだけにファントーレンハウトのこの快調な走りには注目が集まったが、しかし今期の彼の走りは常に「前半飛ばすが、後半タレる」という印象が強く、この日も似たような状況だった。

あるいは、ワウト・ファンアールトとトム・ピドコックトリニティ・レーシング)、マチューに次ぐ現在のシクロクロス界における「怪物」軍団の強さが圧倒的過ぎたというべきか。二人とも尻上がりに調子を上げてくるタイプのため、ファントーレンハウト自体は後続のトーン・アールツバロワーズ・トレック・ライオンズ)やラース・ファンデルハール(バロワーズ・トレック・ライオンズ)たちには追い付かれないペースで走れていたにも関わらず、6周目には二人に追い付かれ、そして7周目には空しくも突き放されていくこととなった。

そして9周目。ワウト・ファンアールトがアクセルを踏み始めると、息も絶え絶えといった状態のトム・ピドコックも少しずつ離されていく。今年一度はマチュー・ファンデルポールを打ち破ったこの小さな天才も、2年前までの絶頂期に等しい調子を取り戻しつつあるファンアールトには、なかなか食らいつくことはできなかった。

しかしそのファンアールトも、今日はファンデルポールに全く追いつくことができなかった。最終盤のラップタイムではほぼ同一の記録を刻んでいた二人だけに、まだファンアールトの調子が上がり切っていなかった前半戦に大きく差をつけられてしまったことが痛かった。

やはり今年はこの2人が別格。その中でファントーレンハウトは健闘したものの、届かなかった。

【UCIワールドカップ第4戦フルスト 男子リザルト】

UCIワールドカップ第4戦男子リザルト

【UCIワールドカップ第4戦までの総合成績(男子)】

UCIワールドカップ第4戦までの総合成績(男子)

ファントーレンハウトとファンアールトとのポイント差は19ポイントに開き、再逆転は絶望的に。「未完の大器」は今年もまた、タイトルを獲れずに終わってしまうのか・・・


そしてむしろ注目すべきは、今回の勝利で総合2位に浮上したマチュー・ファンデルポール。

ファンアールトとのポイント差は15ポイント。

これは、最終戦にファンデルポールが優勝したとして、ファンアールトが3位になった場合、同ポイント差で並んでしまうため、優勝回数の差でファンデルポールが総合逆転を果たすことになる。

【参考:UCIワールドカップ得点表】

ワールドカップ得点票

よって、1/24(日)のUCIワールドカップ最終戦「オーベレルエイセ」において、もしマチュー・ファンデルポールがまた優勝してしまうとしたら、ワウト・ファンアールトは必ず2位にならなくてはいけなくなる。


女子は早くもルシンダ・ブラントの総合優勝が確定したこのUCIワールドカップであるが、男子の方では最終戦の最後の瞬間まで気を抜けない大接戦に。

世界選手権を前にして、一足早くワウトvsマチューの大激戦が繰り広げられることになりそうだ。

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