見出し画像

パリ~ルーベ2021

実に2年半ぶりの開催となった、「モニュメント」パリ~ルーベ。

1896年から100年以上にわたって開催されている、伝統の石畳レース。しかし今年は、20年ぶりの大雨の中での開催となった。

コースの詳細はこちらから


全長257.7㎞。全部で30セクションの石畳(パヴェ)区間が用意され、その総距離は全行程の実に5分の1に達する。

但し、最初の100㎞は平穏な舗装路が続き、ここでライダーたちはしっかりと準備を整え、やがて残り161.4㎞地点から石畳の洗礼を浴び始める。


ただし、今年は20年ぶりの雨のパリ~ルーベ。しかもシーズン終盤の秋開催ということで、何が起きるか、誰も予想できる者はいなかった。

前日の女子版パリ~ルーベも、初開催ということもあったが、残り80㎞以上を残した最初の石畳区間でのエリザベス・ダイグナンのアタック一発で勝負が決まる結果に。

男子の方でも「早めの攻撃を仕掛けるべきだ」という意見は一致していたように思える。ただ、それがまさか残り210㎞からだとは誰も思うまい。


残り210㎞。スタートから50㎞程を消化した段階で、出入りの激しい展開の結果、以下31名もの大規模な逃げ集団が形成された。

フロリアン・フェルメールシュ(ロット・スーダル)
ハリー・スウェニー(ロット・スーダル)
トッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)
ダニエル・オス(ボーラ・ハンスグローエ)
ダヴィデ・バッレリーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ティム・デクレルク(ドゥクーニンク・クイックステップ)
エドアルド・アッフィニ(ユンボ・ヴィスマ)
ティモ・ローセン(ユンボ・ヴィスマ)
ネイサン・ファンフーイドンク(ユンボ・ヴィスマ)
トム・ファンアスブルック(イスラエル・スタートアップネーション)
ジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)
トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)
マルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス)
フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
グレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)
シュテファン・キュング(グルパマFDJ)
シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)
アンドレ・カルヴァルホ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ヴェガールステーク・ラエンゲン(UAEチーム・エミレーツ)
オウェイン・ドゥール(イネオス・グレナディアーズ)
ジャンニ・モスコン(イネオス・グレナディアーズ)
ルーク・ロウ(イネオス・グレナディアーズ)
フロリアン・メートレ(チーム・トタルエナジーズ)
ルーク・ダーブリッジ(チーム・バイクエクスチェンジ)
ロバート・スタナード(チーム・バイクエクスチェンジ)
エヴァルダス・シシュケヴィチュス(デルコ)
ニルス・エークホフ(チームDSM)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(チーム・キュベカ・ネクストハッシュ)
イマノル・エルビティ(モビスター・チーム)
マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)
ルーカ・モッツァート(B&Bホテルス・p/b KTM)

タイム差は1分5秒。メイン集団はボーラ・ハンスグローエのユライ・サガンが牽引し、タイム差をキープしていく。

しかしメイン集団でも、序盤の簡易な石畳ですら落車やアクシデントが頻発。逃げ集団に入っていたシュテファン・キュングが計3回の落車で脱落。2018年覇者ペテル・サガンも落車に巻き込まれてフェードアウト。前回大会2位のニルス・ポリッツも、早々に遅れる姿を見せるなど、波乱の展開が続いた。

そんな中、残り143.7㎞。人数を24名にまで減らしながらもメイン集団と2分20秒差にまで開いていた先頭集団から、4名の選手が抜け出す。そのきっかけを作ったのは、昨年の6月に育成チームから昇格したばかりのネオプロ1.5年目22歳、フロリアン・フェルメールシュ

そこにルーク・ロウニルス・エークホフマキシミリアン・ヴァルシャイドの3人が食らいついていった。

メイン集団も早速数を減らしつつある中、一度マチュー・ファンデルプールが遅れる姿もあった。チームメートに助けられて間もなく集団復帰するが、その後もおもむろにアタックするが伸びは鋭くはなく、表情も苦悶に満ちているなど、やはり世界選手権ロードレースでもそうであったように、決して本調子ではないのか・・・と思わせるには十分な様子ではあった。

その後もアクシデントが頻発。

残り128.4㎞。先頭集団ではヴァルシャイドが落車し、ロウの姿もなくなっており、フェルメールシュとエークホフの二人だけが抜け出す。

メイン集団でも2015年覇者ジョン・デゲンコルプが落車し、ファンデルプールとワウト・ファンアールトが集団の先頭に出てくるなど、すでにして佳境。

そんな状況で最初の5つ星パヴェ区間「アランベール」を終え、残り94㎞地点に達した段階で、先頭2名(フェルメールシュとエークホフ)を1分26秒差で追いかけるメイン集団(第3集団)はわずか12名にまで絞り込まれていた。

イヴ・ランパールト(ドゥクーニンク・クイックステップ)
カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ゼネク・スティバル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
セップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネーション)
ギヨーム・ボワヴァン(イスラエル・スタートアップネーション)
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)
ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)
ジェレミー・ルクロック(B&Bホテルス・p/b KTM)
ローレンス・レックス(ビンゴールパウェルス・ソーセスWB)


残り84㎞。逃げていた先頭2名が追走集団に吸収される。さらにメイン集団(第3集団)からソンニ・コルブレッリがジェレミー・ルクロックと共にアタックして抜け出す。ここにはのちにギヨーム・ボワヴァンとバプティスト・プランカールト(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)も合流する。

残り75㎞。先頭集団からさらに6名が抜け出す。

トッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)
トム・ファンアスブルック(イスラエル・スタートアップネーション)
ジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)
シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)
ジャンニ・モスコン(イネオス・グレナディアーズ)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(キュベカ・ネクストハッシュ)

この6名を5秒差で追いかけるのが逃げ残りの5名。

フロリアン・フェルメールシュ(ロット・スーダル)
ハリー・スウェニー(ロット・スーダル)
ティモ・ローセン(ユンボ・ヴィスマ)
グレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)
ニルス・エークホフ(チームDSM)

そして先ほど抜け出した「第3集団」は46秒差。

ギヨーム・ボワヴァン(イスラエル・スタートアップネーション)
ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)
バプティスト・プランカールト(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ジェレミー・ルクロック(B&Bホテルス・p/b KTM)

「メイン集団」というべき14名の集団は1分32秒差。

ゼネク・スティバル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
ネイサン・ファンフーイドンク(ユンボ・ヴィスマ)
セップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネーション)
ヨナス・リッカールト(アルペシン・フェニックス)
トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)
マルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス
ハインリッヒ・ハウッスラー(バーレーン・ヴィクトリアス)
クレモン・デイヴィ(グルパマFDJ)
セバスティアン・ランゲフェルト(EFエデュケーション・NIPPO)
ヨナス・ルッチ(EFエデュケーション・NIPPO)
マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)
シリル・ルモワンヌ(B&Bホテルス・p/b KTM)
ローレンス・レックス(ビンゴールパウェルス・ソーセスWB)


このカオスな状況の中、決定的な動きが巻き起こったのが残り71.5㎞地点から始まるセクター15「ティヨワ~サール=エ=ロジエール」。

ここから始まる「魔の20㎞」はこれまでも数多くの決定的な動きが巻き起こった危険地帯であり、前回大会の2019年もこのセクター15でフィリップ・ジルベールとニルス・ポリッツが抜け出した。

過去にもトム・ボーネンやペテル・サガンが、この残り71㎞から50㎞までの20㎞区間内での(舗装路も含めた部分での)アタックにより勝負を決めている。

今年もまた、ここで決定的な動きが巻き起こる。

すなわち、マチュー・ファンデルプールのアタックであり、一瞬食らいつきかけたイヴ・ランパールト(ドゥクーニンク・クイックステップ)も突き放され、番手を下げてしまっていたワウト・ファンアールトもここに反応することができなかった。


残り54.1㎞地点から始まる第12セクター「オシー~ベルシー」で先頭からモスコンが抜け出す。これをフロリアン・フェルメールシュとトム・ファンアスブロックの2人が追走。

46秒差の第3集団はマチュー・ファンデルプールとソンニ・コルブレッリ、そしてギヨーム・ボワヴァン。一緒にいたグレッグ・ファンアーヴェルマートやマキシミリアン・ヴァルシャイド、前から落ちてきていたトッシュ・ファンデルサンドはこのオシー~ベルシーでの落車によって脱落。

ファンアールトやランパールトのグループは先頭モスコンからすでに2分以上遅れ、ファンデルプールからも1分以上のタイム差をつけられてしまっていた。

ファンアールトたちはここで終戦。あまりにも悔しい思いを味わった2年半前よりもずっと、辛い終幕を迎えることとなったファンアールト。足は残っていただけに、より悔しい思いでいっぱいだったに違いない。


残り48.6㎞。2つ目の5つ星パヴェ区間「モンサン=ペヴェル」に突入。

マチュー・ファンデルプールがここで加速するが、ソンニ・コルブレッリはしっかりとこれに食らいつく。ボワヴァンもその後ろからついていく。

ファンデルプールは東京オリンピックで痛めた腰の痛みが決して治っているわけではなく、世界選手権ロードレースでも苦しい戦いを強いられていた。そんな中、パリ~ルーベのこの過酷な展開の中でこの位置にいるだけでも驚きであり、一方で本来の彼の実力が発揮しきれていないのか。

それともやはりコルブレッリが強すぎるだけなのか。


そしてファンデルプールが抜けきれない以上、この集団では牽制が生まれてしまう。思うようにペースを上げきれないファンデルプールたちを尻目に、先頭のモスコンは悠々と独走を続け、モンサン=ペヴェルを抜けた段階で彼とファンデルプールたちとのタイム差は1分23秒に。


残り35㎞。先頭はモスコン。

1分13秒差の第2集団はフロリアン・フェルメールシュ、ギヨーム・ボワヴァン、トム・ファンアスブロック、マチュー・ファンデルプール、ソンニ・コルブレッリの5名。

このまま、モスコンが逃げ切ってしまうのか?


だが、ルーベの女神はイタリア人に過酷な運命をもたらした。

残り31㎞。モスコンの後輪がパンク。慌ててチームカーが駆けつけてバイクを交換するが、タイム差は46秒に。

さらに、残り26.2㎞。セクター7「シソワン~ブルゲル」で、新しいバイクの空気圧が合っていなかったのか、後輪を滑らせて落車してしまう。

これでタイム差は13秒差。すぐ後ろにファンデルプールたちの姿が。

捕まるのも時間の問題だった。


その後も粘り続け一時は20秒近くにまで再びタイム差を広げたモスコンだったが、残り19.8㎞、4つ星パヴェ区間「カンファナン=ペヴェル」でファンデルプールがアタックし、一気に差を詰めていく。

このときこのグループではボワヴァンが落車。残るはファンデルプールとコルブレッリとフェルメールシュだけとなった。


それでもまだ10秒残していたモスコン。だが続く最後の5つ星パヴェ区間「カルフール・ド・ラルブル」で、加速したファンデルプールによってついにモスコンは捕まえられた。

と、同時に、力尽きてモスコンは脱落。あのままパンクも落車もしなければ十分に逃げ切れていたように思えるが——しかしそれもまた、パリ~ルーベ。プロ2年目、23歳のときにこのレースで5位に入り込んだ俊才は、6年間過ごしたスカイ/イネオスでの最終年に、とてもインプレッシブルな走りを見せつけてくれた。


そして最終局面である。

最後の勝負所カルフール・ド・ラルブルでも決まらなかったファンデルプールのアタック。彼とコルブレッリとフェルメールシュの3名だけで、「ルーベの黄金の14㎞」に突入する。

2020年ロンド・ファン・フラーンデレン覇者マチュー・ファンデルプール。ヨーロッパロード王者ソンニ・コルブレッリ。そしてプロ1.5年目、昨年ヘント~ウェヴェルヘム13位・ビンクバンク・ツアー総合9位の男、フロリアン・フェルメールシュ。

いずれもパリ~ルーベ初出場の3名が、ヴェロドローム決戦に向けて歩を進めていく。


もちろん、この「黄金の14㎞」は一筋縄ではいかないエリア。勝負所となる難易度の高い石畳区間は存在しないが、このままヴェロドローム決戦に持ち込みたくない非スプリンターを中心にアタックが仕掛けられるポイント。過去にはマシュー・ヘイマンなどもこの位置でアタックを仕掛けていた。

今年も残り3.2㎞でフェルメールシュがアタック。わずかなチャンスを掴むべく、果敢に攻める。ここでコルブレッリとファンデルプールが牽制し合うことがあればチャンスだったのが、コルブレッリも千載一遇のチャンスを剃れで逃すわけにはいかない。しっかりと前を牽き、フェルメールシュを容赦なく捕まえる。

そしてヴェロドロームに突入。先頭ファンデルプール。その背後にコルブレッリ。最後尾にフェルメールシュ。

ここでもやはりフェルメールシュから早めに仕掛けた。そのチャレンジは見事だったが、コルブレッリがこれを冷静に捉え、最後はその実力を遺憾なく発揮して先頭に。

ツール・ド・フランスでもビンクバンク・ツアーでもヨーロッパ選手権でも、誰もが驚く「粘り」を魅せ続けた男が、この「北の地獄」でも耐えて、耐えて、耐え続けて、最後の最後に「怪物」を打ち倒した。

3.パリ~ルーベ


前述したように、ファンデルプールも万全ではなかった。そしてフェルメールシュもこの位置にいることが驚きな選手でもある。ゆえに、先頭3名の中で確かに最も強かったのはコルブレッリだった。

その展開まで持ち込んだことにこそ、彼の強さがある。間違いなくキャリア最大のシーズンを過ごすソンニ・コルブレッリ。だが、ここで終わりではない。この走りをもってすれば、それこそツール・ド・フランスのマイヨ・ヴェールや、スプリンター向けとも噂される来年のウロンゴン世界選手権にもチャンスがあるはずだ。それこそ、ミラノ~サンレモなんかも。

これは終わりではない。ピークではない。

更なる進化を楽しみにしているぞ、ソンニ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?