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UCIシクロクロス世界選手権2021 Day2 女子U23・男子エリート

昨日に続き、ベルギー・オーステンデの街で開催されたUCIシクロクロス世界選手権2021の2日目、女子U23レースおよび男子エリートレースを振り返っていく。

雨に降られ、風も強かった前日と比べ、この日は雨もなく風の勢いも随分弱まった安定したコンディション。それでも寒さは厳しく、各選手しっかりとした防寒対策をもとに取り組むこととなった。

↓コースの概要などは下記の記事を参照のこと↓

※記事中の年齢は年代ごとの比較のためすべて2021/12/31時点のものとします。


女子U23レース

全部で4周

前半のサンドセクションの部分から、インゲ・ファンデルヘイデン(オランダ)が独走を開始。1周目後半突入の時点で先頭ファンデルヘイデンに対し、追走集団が9秒遅れでフェム・ファンエンペル(オランダ)アニーク・ファンアルフェン(オランダ)カタ・ヴァス(ハンガリー)の3名パック、という形が形成され、途中ファンエンペルが一時遅れるシーンなどあるものの、基本的にはこの先頭オランダ1、追走オランダ2vsハンガリー1という構図が維持されることになる。

ファンデルヘイデンは2周目終了時点で追走3名に16秒差をつけるなどかなり圧倒的なパワーを前半で見せていたが、ここでハイ・ペース過ぎたのか、3周目には突如として失速。3周目後半の競馬場区間の前半で、ついに先頭4名がパックになる。

ここで、カタ・ヴァスは力を見せつけた。今年のUCIワールドカップ「ターボル」で4位など、エリートに混じって実力を示してきた彼女はU23カテゴリでは間違いなく頭一つ抜けていた。オランダ人3名が抑え込もうとする中、この3周目後半の競馬場区間で一気にヴァスが先頭集団から抜け出そうとする。

だが、4周目。最終周回に入る瞬間に、アニーク・ファンアルフェンが無理やりヴァスの前に出る。このまま後ろにオランダ人3人が貼りついているだけでは、どうしようもない!

そして、ヴァスにとって鬼門となるのが、このコース前半の砂浜・サンドセクションだった。砂の深いところをバイクを担いで走っていくことを嫌った彼女は、遠回りを承知で大外の少しでも砂が浅い部分を回ろうと毎周回一人だけ違うコースを選んでいた。

だが、それまでの周回ではそれでもショートカットしてきた他の選手たちと同じくらいのタイムロスでクリアできていたこの部分で、この最終周回に関してはやや遅れかけてしまう。

しかもその後のサンドセクション後半部分でギアを上げたファンエンペルとファンアルフェンに対して、ヴァスが完全に遅れてしまう!

おそらく、中盤でオランダ人2人に完全に抑え込み、前を牽かされ続けてきたことが、この場面にようやくダメージとなって効いてきたのだろう。ファンデルヘイデンが序盤捨て身にも近いペースで走り抜けたこと、最終周回の最初にファンアルフェンが無理に前を抑え込んでペースを上げたことなどが、すべて功を奏した形に。

そして最後に仕掛けたのがファンエンペルだった。コース後半の競馬場区間に入るところでヴァスに15秒近いタイム差を付けた先頭2人は完全に2人で勝敗を競う形に。そこで飛び出したファンエンペルが、最後ファンアルフェンを突き放して勝利。

U23カテゴリ1年目。昨年はジュニア世界選手権で5位。実はこれまで、全カテゴリを通して勝利は1度もなし。ただし今シーズンに関してはUCIワールドカップ第3戦「デンデルモンデ」X2Oトロフェー第5戦「バール」で4位に入るなど、カタ・ヴァスにも劣らないリザルトを積み上げてきていた。

オランダの新女王が、母国に3枚目の金メダルをもたらした。

世界選手権U23女子リザルト


男子エリートレース

全部で8周

懸念だったワウト・ファンアールト(ベルギー)のスタートダッシュも失敗することなく、第1周からいきなりマチュー・ファンデルポール(オランダ)とワウト・ファンアールトという2大優勝候補が抜け出す形に。1周目終了時点で3位集団はローレンス・スウィーククエンティン・ヘルマンスマイケル・ファントーレンハウトトーン・アールツというベルギー4人組が14秒差。

そこにヨーロッパ王者で肘の怪我が原因で苦戦中のエリ・イゼルビット(ベルギー)が17秒遅れの7位、2年前はかなり強かったが昨シーズン・今シーズンと振るわない状態が続いていたヨリス・ニューエンハイス(オランダ)が18秒遅れの8位、そして現在ファンアールト・ファンデルポールに続く実力を示しながらも安定しない走りが多く、今回もスタートダッシュで失敗してしまっていたトム・ピドコック(イギリス)コルネ・ファンケッセル(オランダ)と共に20秒遅れの9位・10位で1周目フィニッシュラインを通過する。


サンドセクションではワウト・ファンアールトの方が有利だと見られていた。実際、1周目のサンドセクション前半部分では、トーン・アールツがファンデルポールの鼻頭を抑えたというのもあるが、ややファンデルポールが遅れる姿を見せていた。

しかし2周目のサンドセクションではむしろファンデルポールが先行。このままファンデルポールが行くか?と思った中で、サンドセクション終盤でやや転倒仕掛けるミス。

そのまま抜け出したファンアールト。焦るファンデルポール。

この焦りが、さらなるミスを生む。競馬場区間の前半部分で、溝に嵌ったのか派手に前転するファンデルポール。

完全に、いつものパターンだった。フィジカルやテクニックでは勝てていても、どこか焦る気持ちが大小のミスを誘発し、なぜか世界選手権では勝てないというパターンに。

第2周終了時点で先頭ファンアールトと2番手ファンデルポールとのタイム差は15秒に。

このままいつも通り精神的に崩れ、終わってしまうのか。

そんな風に、見えていた。


だが、3周目。

先頭を爆走していたファンアールトの後輪が、パンク。

直前にバイク交換していたファンデルポールに一気に追いつかれ、そして追い抜かれていってしまう。

3周目終了時点で2人のタイム差は4秒。

しかしなんとかバイク交換をしたファンアールトが4周目前半のサンドセクションに入ったときにはそのタイム差は9秒まで広がっていた。


サンドセクションではまた少しずつ詰める様子を見せるファンアールト。

だが、後半の競馬場区間に向かうまでに登ることになる大型フライオーバーの21%勾配で、ファンアールトは明らかに疲れを見せていた。先ほどのパンクした状態で無理をしたツケが、はっきりと出ている形だ。

4周目終了時点で8秒差だったファンデルポールとファンアールトとのタイム差は、5周目終了時点で14秒にまで開く。6周目終了時点では20秒差に。7周目終了時点では、29秒にまで、開いた。


パンクさえなければ、という思いはある。

一方で、パンク前にも決して小さくなかったタイム差を、「いつものように」精神的に崩れて終わることなく一気に詰めて逆転したマチュー・ファンデルポールの強さと、その後ミスなくファンアールトに追い付かせないようにプッシュし続けたその無尽蔵の体力と集中力とは、やはり4度目の世界王者の座を戴冠するに相応しい男であることは間違いない。

世界選手権エリート男子リザルト

これにてマチュー・ファンデルポールは、ローラン・リボトン(ベルギー)と並び4枚目のアルカンシェルを獲得。

あと1枚で5勝のアンドレ・デフレース(ベルギー)、レナート・ロンゴ(イタリア)、アルベルト・ツヴァイフェル(スイス)らに並ぶこととなる。

その先には7勝のエリック・デフラミンク(ベルギー)という存在もいるが、果たして彼はそこまで辿り着くことができるのか。


また、今年更なる目覚ましい進化を遂げ続けてきたトム・ピドコックは、序盤の遅れこそ苦しかったものの後半でベルギー軍団から抜け出して単独4位に。

しかしその前に抜け出していたトーン・アールツに追い付くことはできず――勢いは良かったのだが、彼にありがちな終盤でタレるというのをまた繰り返して――そのまま4位に終わってしまった。昨年2位という結果を考えれば、これは悔しい結果であった。

一方のトーン・アールツは一昨年・昨年に続き3位。正直、実力から言って上の2人には完全に突き放されている状態の彼がこうして表彰台を毎年獲得できているのは凄いことだとは思うが、それでもベルギーとしては敗北してしまった今回のレースで、結構なガッツポーズをしながらフィニッシュに入ってきたのには、何か理由があるのだろうか?


そして、今シーズンも昨シーズンに続き苦しい状況に置かれていたヨリス・ニューエンハイスが、ここに来てシーズン最高位となる10位フィニッシュに。

ロードレーサーとしての活躍も期待したいこのオランダの若手。まだまだ、ライアン・カンプなどというさなる若手には、負けるわけにはいかない。


そしてワウト・ファンアールト。

ロンド・ファン・フラーンデレンに続き、悔しい敗北。今年は十分に勝てるコンディションだっただけに、あのパンクはあまりにも悔しい。

それでも、1年半前のあの競技生命さえ危ぶまれた大事故から1年。奇跡としか言いようのない復活を成し遂げて見せてくれた彼が、2020年の激動のロードレースシーンから引き続くこのシクロクロスシーズンでも尻上がりに調子を上げていき、UCIワールドカップ総合優勝とベルギー国内王者、そしてこの世界選手権2位というのは、十分に素晴らしい結果であると言える。

続いて、休みなくではあるが、ロードレースシーズンもすぐさま始まる。

今年こそロンド・ファン・フラーンデレンで、そしてパリ~ルーベで、世界の頂点に立つことはできるか。


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