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リエージュ~バストーニュ~リエージュ女子2021

春のクラシック最終戦、そして1週間前のアムステルゴールドレースから始まる「アルデンヌ・クラシック3連戦」の最終章、リエージュ~バストーニュ~リエージュ。

その女子版のレースが男子レースに先駆けて開催された。

今年8番目のウィメンズ・ワールドツアーレースである。

コースプレビューや注目選手はこちらから


レースが動き出したのは残り36㎞付近から始まるコート・ド・ラ・ルドゥット。

登坂距離2㎞、平均勾配8.9%の厳しい登りで、メイン集団では世界王者アンナ・ファンデルブレッヘン(SDワークス)やヨーロッパ王者アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)、イタリア王者のエリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)などの精鋭集団がペースアップを仕掛けていく。

やがて3名が集団から抜け出し、単独で先頭を走っていたナイアム・フィッシャーブラック(SDワークス)を追い抜き、先頭に躍り出る。

3名の内訳は以下の通り。

セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJヌーベルアキテーヌ・フチュロスコープ)
ルシンダ・ブラント(トレック・セガフレード)
アシュリー・ムールマン(SDワークス)

25秒前後のタイム差をキープしながらこれを追走するメイン集団には大体の優勝候補が残っており、ファンフルーテン率いるモビスター・チームや、女王マリアンヌ・フォス率いるユンボ・ヴィスマなどもアシストを複数枚残せている状況だ。


次にレースが動いたのが、やはりこのレースの肝となるコート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン。

残り14.6㎞から突入したこの登りで、ファンデルブレッヘンやカタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム)、ルドヴィグといった優勝候補たちが先頭でペースを上げていく。

ロンゴボルギーニ、アシュリー・ムールマン(SDワークス)などもここに食らいついていくが、逆に集団の後方からはアマンダ・スプラット(バイクエクスチェンジ)やマビ・ガルシア(アレBTCリュブリャナ)など期待されていた選手たちが落ちていく姿も。

そしてマリアンヌ・フォスもまた、ここで集団の後ろで今にも落ちそうな状態に。


当然これは、フォスをここで払い落としておきたいクライマーたちにとってはチャンスである。フォスを連れて小集団スプリントに持ち込んでしまえば、ファンデルブレッヘンやファンフルーテンにとっても勝ち目はない。

ゆえに、ルドヴィグ、ムールマン、ニエウィアドマ、ファンデルブレッヘン、ロンゴボルギーニと次々と加速。

すぐ近くのライバルたちを引き千切ることはできないながらも、この一連のペースアップによってついにフォスが脱落した。


コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンの山頂からフィニッシュまでは約13㎞。

先頭に残ったのは以下の5名。

アンナ・ファンデルブレッヘン(SDワークス)
デミ・フォレリング(SDワークス)
アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)
エリザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム)

SDワークスのアシスト、アシュリー・ムールマンはここから零れ落ち、その後ろにはマリアンヌ・フォスとセシリーウトラップ・ルドヴィゴの2名が追走を仕掛けている。

ここでSDワークスは2枚残っているため、どちらかがアシストとして全力で集団を牽くべきだった。

しかしここで前を牽いたのはニエウィアドマ。どうやら、SDワークスは、あくまでもファンデルブレッヘンとフォレリングのダブルエース体制に持ち込みたいようで、アシストのムールマンの復帰を待つことを優先したようだ。

しかし、ムールマンを待つことはすなわち、フォスに追い付かれることとほぼ同義。

果たしてそれで、いいのか?


そして実際の残り11㎞でムールマンだけでなくフォス、ルドヴィグにも追いつかれる。

このままではフォスに敗れてしまう結果に――


と、思ったところで、この残り11㎞地点に名前のついていない登りがあってそれが思いのほか厳しかったようだ。

ファンフルーテンが加速したことで再びフォス、ルドヴィグは遅れ、ムールマンも同様に遅れるが、もうSDワークスとしても彼女を待つ選択肢を捨てることに。

一時はファンフルーテンとファンデルブレッヘン、ロンゴボルギーニの3強が先頭に立つ格好となったが、やがてフォレリングとニエウィアドマも追いつき再び先頭は5名に。

そして、ダブルエース体制を捨てたSDワークスが、ここから驚きの戦略に出る。


すなわち、世界王者ファンデルブレッヘンによる、全力の集団牽引である。

たしかに、ファンデルブレッヘンは先日のフレーシュ・ワロンヌで勝ったとはいえ、今年は病気の影響もありリザルトは低迷。フォレリングの方にこそ結果はついてきていた。

また、3年前と4年前のこのリエージュ~バストーニュ~リエージュでファンデルブレッヘンが勝っているとはいえ、現在のコースレイアウトとなった2年前と昨年はフォレリングの方が結果を出している。

それらのデータから私自身も、先述のブログの中では、ファンデルブレッヘンよりもフォレリングの方を推す結果となっていた。


しかしとはいえ、最後の局面で二人とも残っている状態で、まさかファンデルブレッヘンが全力でアシストする姿を見せるなんて。

有無を言わさぬ全力牽きで、本来はスプリント勝負に持ち込みたくはないファンフルーテンやロンゴボルギーニも、アタックのタイミングを見失ってしまう。向かい風基調であることも、彼女たちのアタックが封じ込められる要員の1つとなっていた(事実、ここまでの展開の中でも、ルドヴィグやファンフルーテンのアタックがいずれも力なく終わる場面も見られており、向かい風の影響は結構ありそうだ)。


ファンデルブレッヘンの先頭固定牽きのままラスト1㎞のゲートを通過し、ラスト500mのバナーを横切っていく。

ファンデルブレッヘンの後ろにはニエウィアドマ、ファンフルーテン、そしてフォレリングの順番。

残り200m。ここで3番手にいたヨーロッパ王者ファンフルーテンが右手からロングスプリント気味に飛び出す。すぐさまフォレリングはその背中に貼りつく。

これを見てロンゴボルギーニが左からスプリントを開始。

だが、ファンデルブレッヘンが信じ切ったフォレリングのスプリントは、きっちりと最後、ファンフルーテンを追い抜いて先頭のまま駆け抜けていった。

デミ・フォレリング、オランダの次代を担う才能。今年25歳の、才能あるオランダ人ライダーが、最強チームSDワークス移籍後初勝利を見事掴み取った。

そしてこれはSDワークスのチーム力の成果であり、世界王者ファンデルブレッヘンと掴み取った勝利であった。

9.リエージュ~バストーニュ~リエージュ女子


追走集団の先頭はやはりフォスが獲得。案の定、彼女を連れて最後までいかなくて正解であった。

そのフォスとルドヴィグの集団内で重し役として働き続けていたムールマンも、先頭でのアシスト働きはできなかったものの、十分に勝利に貢献する役割を果たしてくれた。

これがSDワークス。女子界のドゥクーニンク・クイックステップとも言うべき、最強チーム。今季早くも8勝。しかもほぼすべて別の選手による勝利というところが、ドゥクーニンクに通じる圧倒的な強さを感じさせるチームである。

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