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とある地方公務員が仕事を辞めて、離婚をして、フェミニズムに手を伸ばすまで。

一部、ハラスメントに関する描写があります。閲覧に際してはご注意ください。



こんなに打ちのめされるとは思わなかったんよ。

大学生の時は上京してて、それから地元に戻って地方公務員になった。
地元に戻ったのには色々と理由があるけど、うちは父が死別していて母子家庭だし、兄がそのとき仕事で地元から離れちゃって、親一人で暮らすのもなあ、せめて近くには住んどこうかなあ、と思って。

「役所の職員」って言うと、住民票とか納税とかの窓口の人たちを思い浮かべるかもしれない。でも、私が配属されたところは土木とか建設系の技術職の人が多い部署で、圧倒的に男性ばかりだった。フロアを見渡して女性が一人、二人、三人いるかいないか。

凄かった。ちょっかい、とか、いじり、の名の下に。

首に虫刺されがあればキスマークか?ってニヤニヤされたり、大勢の前で眼鏡外してよ〜いいじゃん〜って懇願されてうざかったり、付き合うなら誰がいい?って既婚者たちに言われたり、わからないと思ってシモ系の隠語を吐かれたり、飲み会がやたらと多くて、若い男性職員にもお酌してよってせがまれたり、国から来た偉い人のお茶汲みにフロア中の女性(3人)が仕事の手を止めて半日付き合ったり、ほんまか!?ほんまか日本!?と思った。

これは数年前のことだから、もっとよくなってるといいけど、そうそう変わらないようにも思う。

こういう直接的なのもキツかったけど、とにかく地元だったから、大学時代の先輩が遊びに来てくれたときに会ったら、次の日に「昨日一緒に歩いてた人彼氏?」と言われたり、「でもこの間歩いてた人と違ったよね?」みたいなのがじわじわキツかった。
職員だけじゃなくて、庁舎に来られる方々も身近すぎて、私がどこそこの誰々の娘だということまで共有されていたから、休日もおちおち出歩けなかった。

24、5の時に結婚した。結婚したらこういうのはなくなるかなと思ったら、確かに「若い女」扱いはされなくなったけど、その代わり性生活を聞かれるようになった。

「夫は就寝時間が早いんですよ〜」ぐらいの世間話で、「そんなの妊娠できないじゃないか!」って違う部署の男性上司に怒られたり、職場だけじゃなくて、夫の同僚や兄の友達になんで妊娠しないの?って言われたり。親ならいざ知らず、不妊治療して子を授かった兄夫婦にも言われた。

確かに、みんな一回ずつしかその質問をしていない。けど、こっちはもう毎日のように聞かれてる。私が取扱説明書だったらQ&Aコーナーを作っておきたかったし、ゴリラだったら握り潰してた。私がゴリラじゃなくて良かった。

極め付けは、職場にずっと付きまとってきた人がいたんだけど、その人に付き合ってもいないのにラブホに誘われたので断ったら、次の日、仕事上の必要なやりとりを無視されるということがあって。

人事には行った。相談した。もう総合的にメンタルがやばくて、(うちの部署にくる長時間のクレーム電話対応や窓口の怒鳴り声等々で、そもそももう限界だった)、カウンセラーさんの面談で諸々相談してから人事にも話をした。結果、向こうじゃなくて私が異動になった。

公務員には労働組合がない代わりに、一応、待遇の交渉をする職員団体がある。
毎月の加入費も地方の公務員には高くて、入りたくないのに熱烈に勧誘されたり、入らないと無視されたりするようなこともあるんだけど、私は無難に入っていた。
だから、この話も相談しようと思ったけど、件の付きまとう人がこの職員団体の上の方の人で、どう考えても本人の耳に入るし諦めた。

もう仕方ないから、と異動先で頑張ろうとした。僻地という訳でもないけど、全然本庁ではない場所だった。
赴任して早々、そこにいた嘱託職員のおじいさんに「セクハラにあったんでしょ?どんなことされたの?」「ここに来たらもう昇進は無理だよ〜」とニヤニヤしながら言われて、ああ、もう、ここには、地獄しかないんだなって。

そもそも絶対に秘密は保持するという約束で話していたし、上司になら事態を分かってもらうために仕方ないと思っていたけど、全然関係ない人に漏れてるんだもんなあ。

結婚してから久々に会った母親は、言ってもいないのに知り合いの職員網で異動のことを知っていて。なんでそうなったのだ、と聞かれたから、セクハラにあった、と話すと、こう言った。
「あなたにも悪いところがあったんじゃないの?」

夫は10個くらい上の人で。知り合いの時は、いい人だった。
結婚してからも、セクハラについてものすごく怒ってくれて、付きまとう人にはやめろってメールもしてくれた。

休日は1、2時間おきくらいに小さく不機嫌になる人だった。だから喋るときや所作には本当に気を付けた。機嫌を損ねても、理由は言わなかった。
ちょうど『けものフレンズ』が流行っていて、サーバルちゃんを見習って「すごーい!」と言っていたら、機嫌を損なうまでの時間が伸びたので助かった。

知り合いの頃は、そもそも力関係に勾配のある関係だったけど、(上司と部下とかを想像してもらえたらいいと思う)それがそのまま結婚生活でも維持され、どんどん増強されていった、ように思う。

向こうの要望で、早く子供が欲しいということだったので結婚当初から色々と頑張ったのだけど、自然には無理だったから不妊治療を視野に入れなくてはいけなくて。
検査について色々と説明したけど、夫は全然聞いていなかった。だから、子供いらないのかな?と思って、それも一つの生き方だし、私も諦めた。

そこから1年ぐらい過ぎて、前述の仕事のあれこれと家事との両立に疲れた私が、仕事を辞めて専業主婦をしながらサーバル語を自在に介し始めたあたりで、夫から「なんか最近いい感じだね!子供作ろうか!」と言われた。

どうやらブルーバックス発行の不妊治療の新書も見たらしく、私は、「私が1年前に説明した時は気にしていなかったのに、なんで今更?」と尋ねた。
「(私が)仕事を辞めたいために不妊について大げさに言ってるんだと思った。」「お前の言うことは信じられないけど、理系の男や医者が言ってることなら信じられる。」



仕事も、実家も、夫ともうまくいかない。なるほど、これはそもそも私が悪いのかもしれない、と思って、ググり散らかした。もう、検索ワードにサジェストされる言葉を全部見る勢いで。

2年半の間、アダルトチルドレンとか、認知の歪みとか、機能不全家族、毒親、モラハラ…たくさんの言葉に出会って、いろんな体験をしている人の言葉を見て、本を読んで、いっぱい泣いてどんどんどんどん回復して、そして、色々見ていくうちに、思った。
私はやべえ。確かに考え方が変だった。そして母も夫も職場もやべえ。けど、そもそもこの社会めっちゃやばいじゃんって。

親が許せなかった。色々とあったし、夫も許せない。職場の人も。でも、もうその人がどうこうっていうレベルじゃなくて、社会がめちゃくちゃなんだ。
これは一家庭の問題じゃない、家族という単位で解決できることではないと思った。一つの職場のことでもない。一組の夫婦のことでもない。

私のことは、私のことだけではない。



散々話し合って、人生に対する方針を合わせられなかった夫とは円満に離婚した。親とは縁を切っていたけど、それから謝ってもらう機会があったりして、私も親のことを深く知る機会があって、許せない部分は無理に許さないまま、だけど辛くない範囲で交流を再開した。

地元を出てまた東京に来て、友達にたくさん話を聞いてもらって、ものすごく助けてもらった。感謝しかない。今の私がいるのは、親や夫と離れろと言ってくれたのになかなか決断できない私に、声をかけ続けてくれた人々のお陰だ。

再会した友達からいろんなことを教えてもらった。演劇も、本も、面白い文を書く人も、ストリップも。そして、フェミニズムに出会った。

そもそもフェミニズムという言葉は聞いたことはあった。とても怖い人たちだと思っていた。
真剣に多様性や女性や様々な人の権利について語る友達もいたのに、高校生や大学生だった私は、無気力だった。どうしようもないことだって、思っていた。触れない方が賢いのではないか、と思っていた。だから敬遠していた。あの時の友達、真剣に聞いていなくて、ごめん。

社会に出て、こんなに打ちのめされるとは思わなかったんよ。

セクハラもパワハラも仕事も結婚も離婚も親も家族も演劇も文学もストリップも身体も、全部バラバラだったものが、つながった。
私にとっては、すべて地続きなんだって。

ここに書いていることはただの一側面で、元夫や親や職場の人ばかりが悪いのではない。私には加害者である一面もあって、消費されるのが悔しくて消費してやろうと思って、たくさんの無関係な人々をずいぶん傷つけた。ひどいことをした。本当に。破天荒さが面白さだと、明らかに履き違えていた。許されることとは、思っていない。

もう、あらゆる意味で、自分のような人間を、増やしたくない、と思っている。
友達に幸せになってほしい。姪っ子が、甥っ子が、安心して成長できたらいい。だから、色々と勉強して、まずは私自身がより良くなりたい。ちゃんと、時間はかかるけれど、向き合っていきたい。

以前からの知り合いの方は、ここ数年で私が変わったな、と言葉や態度で思ったかもしれないけど、こういう理由で、考えがどんどん変わっている途中です、ということをここに書いておきます。
今まで言う勇気がなかったけれど、まだ勉強中だけど、私は、フェミニストです。


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