世界を新鮮に感じ直す方法
先日、自然体験指導者「NEALリーダー」の研修を受け、無事、リーダー資格の認定を受けることができた。3日間18時間の座学と体験学習と最後に試験もあったが、とても発見の多い内容で、インドア派で生きてきた私にも少しアウトドアの血がたぎってきた気がしている。
そもそも、そんなインドア派な私が自然体験指導者の資格を得ようとしたかというと、私が活動している「嬬恋あいさいの村づくり協議会(https://www.facebook.com/profile.php?id=61565045669854)」の中でのいち事業づくりとして、農業体験観光事業の基盤づくりを進めているためである。これは、キャベツ日本一の群馬県嬬恋村で本場の農業体験を味わっていただきたいといった思いから来ており、この思いは、今から約10年くらい前からずっと叶えたかったことのひとつで、これまでは観光サイドの視点からばかり見ていたが、今回の一件で農業や自然といった側から見ることが出来た。
そんな中、地方でよく見られる課題として、農業と観光があまり良い関係性になっていないといった問題がある。古くから農業で暮らしを切り拓き集落を守ってきた自負のある農家たちと、地域の資源を活用し人を呼び込もうとする観光業は、手を組めば相乗効果でWinWinの関係になれそうだが、意外と難しい状況にある。その理由のひとつとしてあげられるのが「繁忙期が重なる」といった点で、農家が猫の手も借りたいくらいに忙しい時期に大勢の観光客がやってくる。そうすると、狭い農道に車が入り込みトラクターが通れなくなったり、観光客が畑に入ってしまい農作物を駄目にしてしまったりと、農家にとって仕事をやりづらく、観光客はあまりよろしくない存在に感じてしまうからとのことである。
しかし、農作物の消費のほとんどを支えているのが、都市部の人たちであり、観光に来てお金を落としていってくれるのも都市部の人たちなのが現状で、そうなると都市部の人たちにもっと地域の良さや農作物の美味しさや自然の素晴らしさなどを伝え、ファンになってもらう必要があると考えられるが、なかなかそこまで頭が回らないのが現状であったりもする。しかし、若い一部の農家たちは、そういった点に早くから気づき行動に移している人たちもいるが、出る杭は打たれるため、なかなか良い循環が作れないでいた。そこで私のようなヨソモノだったり協議会といった団体だったりが介入したりすることで、変化をつくれないかというのが今回の農業体験観光づくりの狙いでもある。
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話を自然体験指導者「NEALリーダー」の研修に戻すが、今回の研修を長野県上田で活動している「やまぼうし自然学校(https://www.yamaboushi.org/)の加々美さんにお願いをした。山の妖精のような魅力的な方で、受講生たちは一瞬にして加々美さんのファンになった。
「対象者理解」「ネイチャークラフト」「安全・リスク管理」「アウトドアゲーム体験」「体験企画と制作」「火おこし」「野外食づくり」「認定試験」と多くのプログラムを経験する中で特に印象的な気づきとして、「自身にとっての常識は、みんなにとっての常識ではない」といった当たり前のようで、まったく当たり前でなかったことを思い知る「対象者理解」のプログラムだった。
自分にとってはまったく恐怖を感じないことも、他者にとってはもの凄い恐怖を感じていたり、道具の使い方もわかっているだろうと勝手に思い込むと怪我をさせてしまったり、目的を理解していると思って進めたらまったく見当違いの結果に行き着いたりと、対象者理解のためには「前提条件としての目線合わせ」がとても重要であると再認識した。年齢や性別、体格差や地域柄、知識レベルや障がいなど、対象者は個々に条件がまったく異なるといった点を考慮しないとならないのである。
もうひとつが、「観察」についてのプログラムだった。形や色や香りや音や質感などを深く観察し、つながりを見つけていくことでまだまだ知らない未知の世界の奥深さを思い知った。一度その事実を自覚することにより、見える景色もとても新鮮に映り、自身の感性をもう一度捉え直すような、そんな不思議な感覚を体感していった。これが「無意識を意識化する」ということなのかもしれない。人は潜在的に無意識の中に大切ななにかを秘めているがなかなか表層化してこない。しかし、こういった体験を通じて、心の奥底からポロポロと意識の上にあがってくる。そして一度意識化されると色んなことに気づくようになり、見るもの聞くもの食べるものなど五感が研ぎ澄まされ洗練されていく、そんな作用があると感じている。
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「自然観察」を通じて、思い出したことがある。私が好きなデザイナーの原研哉さんがTEDで話していた「世界を新鮮に感じ直す方法」といったテーマの話だ。まさに、今回の自然観察からの意識化がそれにあたると感じている。
その中でも特に印象的だったのが、冒頭の「人間は生きる環境を四角くデザインしてきた」といった話だ。
人は街や道路区画を四角く整備して、そこに四角い建造物を建てて住み、四角いベットから飛び起き、四角いテレビでニュースを見、四角いスマホを持ち、そこから四角い電車で移動し、四角いビルを見上げ、四角い自動ドアをくぐり、四角いエレベーターに乗って、四角いオフィスに入る。窓も四角いので、そこから見える風景も四角くトリミングされる。四角いデスクに座り、四角いパソコンを開き、四角いモニターを見ながら、四角いキーボードを叩き、出力紙も四角い。
街中をよくよく見渡すとどこもかしこも四角だらけ。そう考えると、四角い世界が面白くも感じるが、同時に均衡がとれ過ぎててちょっと疲れてしまう気もする。
そこで今度は、地方について少し考えてみた。
湾曲する山や渓谷、海や川に囲われる地方の集落などは、流線的な生き方そのもの。しなやかな木々が佇む森には、大小の動物たち、色んな形の昆虫や草花、緩やかにくねる小川にはたくさんの魚が泳ぎ、いびつな石がごろつき、なだらかな坂道がくねり、田畑が広がり、そこに育った丸や細長い野菜を食べ、近所にお裾分けして、人も有機的に繋がっていく。人の顔つきもなんだか丸っこくて、気張らず自然体で空を見上げて、柔らかい草の上でゴロンと目を閉じ寝転んでいる。
そう考えると流線的で有機的な生き方がとても新鮮で豊かに映ってくる。だからといって都市部を否定しているわけでもなく、都市部は都市部の良いところや面白さを肯定し、地方は地方の良いところや面白さを肯定する、そんな行ったり来たりを通じて「世界を新鮮に感じ直す」ことが何よりも重要なことなのかなと、そんなことをNEAL研修を通じて、私なりに感じたことだった。
今回の研修で誕生した15名のNEALリーダーたちとの農業体験観光も「世界を新鮮に感じ直すキッカケづくり」を目指したい。
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